第5話 黄金の国ジパング
完全に寝落ちしていたらしい。
ようやく目覚めると床の上で、身体がバキバキになっていた。外の窓から朝日が差してくる。
流石に四日間ほど不眠不休で箱庭を選ぶのは無茶だったか。いやこの学園内では飲まず食わずでも死なないのだから、精神力が強ければ不可能ではないか。
今後も最終手段としては考えておくべきだろう。
『おはようございます。今日の午後は必須の授業があるので出席してください』
そして床に転がっていた石板にそんな文字が刻まれている。
この学園だが基本的に授業に出るかは自由らしい。授業内容は領地経営の知識が大半で、今まで教育を受けた者なら授業に出なくても合格できるとか。
だが必須で出ないとダメな授業もあるとのことだ。情報収集のことを考えても、なるべく出た方がいいかもしれない。
……ところでこの石板って、ガイドブック(石板)じゃなかったのか? 今さら過ぎるが意思疎通出来てるよな?
『ワタシハ石板デス。イシソツウデキマセン』
「今更あからさまにカタコトになるな」
『神に造られたロゼッタストーンですので、生徒の性格に合わせて会話できます。つまり私の性格は貴方に似ています。クソガキ』
クソ石板が、と言いそうになるが耐える。どこに耳があるか分からない。
しかしこいつの性格が悪いのも納得だな。俺に合わせたなら当たり前か。
さてそれよりも気になることがある。俺は力尽きる直前に自分の箱庭を選んだが、まだ土地のよさなどが全く分かっていない。
この学園では箱庭が全てなのだから、何においても自分の箱庭のよさを知るべきだろう。よさがあるよな? 頼むからあってくれ。
「
そう呟くと俺の目の前の床に、小さな箱庭が現れた。
周囲が海に囲まれている弓のような形状の土地だ。今更だけど箱庭の水などは外に漏れないらしい。
「おいク……石板、この箱庭の情報が知りたいんだが」
『わかりましたクソガキ。ではクソガキでも分かるように表記してやります』
クソイワな石板に文字が刻まれて、色々な情報が出現する。
=======================
エンド領
総合評価 Gランク
国土面積 0,1㎡
魔素排出量 0
作物収穫 A
魔物生息 S
地下資源 測定不能
世界技術 S
========================
……えっと結局これはいい土地なのか? ダメな土地なのか?
そもそもSとかAとかGとか言われてもよくわからんのだが……。
『Gが一番評価が低く、F、E、D、C、B、A、Sと上がっていきます。土地総合評価は土地の全ての価値を総合した評価です』
さらに石板の文字は続いていく。
作物収穫は箱庭が育てられる作物の量や種類。この日本という土地は雨が多くて水が豊富なので、米という作物が育てられる。
その米が畑面積ごとの収穫量が多いので、作物収穫が高くなっているらしい。米ねぇ……よくわからんが麦より優秀なのか?
魔物生息はその土地で育てられる魔物の種類。
この学園では箱庭で魔物を育てられる。召喚できる魔物に関しては二種類ある。まず魔物だった存在、これははそのまま召喚する。
もう一つは普通の動物だ。その箱庭の土地で住んでいたことのある動物を、魔素によって魔物化するらしい。
なので土地によって召喚できる魔物は大きく変わると。川も海もない箱庭では魚の魔物は召喚できないし、手に入れたとしても育てられない。
そしてこの日本という土地は海や川が多い。それに北はかなり寒く、南はかなり温暖のため育てられる魔物の種類が多いとか。
地下資源は鉄とか銅とかの類。測定不能について問いただしたら、『測定不能の意味が分からないのですかクソガキ』と返ってきた。
採れる量が少なすぎて測定できないのだろうクソが。
国家技術に関しては、箱庭は作物や魔物以外にも色々作れるらしいが、それは箱庭の元となった土地の成長率に関わるらしい。
箱庭に魔素を与えると時代が進むらしいのだが、その時代の進みやすさとか技術発展とかなんとか。よくわからないのでひとまず置いておく。
結局のところ、土地総合評価が全ての値の合計値であるならば……。
「……つまりこの日本って土地は外れだと?」
『総合評価で判定するならそうでしょうね』
クソが。結局あれだけ頑張って箱庭を選んでも、いい土地は得られなかったってことかよ。
……まあいいさ、期待してなかったよ。俺は今まで、運に頼って成功したことはない。
そもそもこの日本を選んだのは、周囲を海に囲われた島国だからだしな!?
いや実は少し期待してた。なんか日本の形も弓っぽくて、独特で結構好みだったし特別な土地ではと思ったのだが。
まあいい。どうせ元から救いようのない領地だった箱庭が、さらにどうしようもなくなっただけのこと……。
というか土地評価の基準がいまいちわからないな。以前の俺の土地より悪くなったとしても、そもそも以前のがどれくらいか分からない。
「ちょっと聞きたい。俺の元の土地の評価も教えてくれ」
すると石板に文字が刻まれ始める。
=======================
エンド領(旧)
土地総合評価 Fランク
面積 0,1㎡
魔素排出量 50
作物収穫 G
魔物生息 G
地下資源 G
世界技術 G
========================
……ん? おかしくね?
明らかにエンド領の方が、日本に比べて平均的に低い。なのに土地総合評価は上ってどうなってるんだ?
『魔素排出量の差です。いくら他の値が高くても、魔素がなければなにも出来ませんから』
「あー……魔素がないと作物植えたり、魔物を召喚したりが出来ないんだっけか」
日本は最重要項目が低すぎるというかゼロだから、最低の値にされているわけか……。
しかし魔素がない世界があるのか。魔租はすべての魔法の源だ。俺たちの世界でも魔素が豊かな土地ほど、魔法使いが強い魔法を使えて豊かになる。
大量の魔物を殺したり、水を出して作物を育てたり、大抵のことは魔法で行っている。
それがないってことは、この日本って土地は魔法が使えない世界と。そんなのあるのか。
しかし参ったな。魔素がないとなると、全くなにもできないぞ。
「……箱庭からの産出以外で、魔素を手に入れる手段はないのか?」
『学内ショップで購入できます』
「購入って言っても、金はどうやって手に入れるんだよ」
『箱庭から手に入れたものを、ショップなり学内バザーなりで売って儲けてください』
「箱庭からなにかを手に入れるのに、魔素が必要なのでは?」
『学内ショップで購入できます』
無限ループじゃん。クソかよ。
……こうなればいっそのこと、箱庭を奪われる前に誰かに売り払うか? どうせ奪われるのなら、僅かでも金にする方法を考えるべきだ。
元の世界に戻ってから、金貨何枚かくらいの条件でさ。それで俺は即座に借金取りから逃げて、その金貨を元手になんとか生きるとか。
借金から逃げるな? 自分が作ったわけでもない借金のせいで、鉱山奴隷にされて死ぬのは嫌だ。
『おやもっとグチグチと文句を言い続けるものかと』
「いくらでも脳裏によぎってるぞ。だが言い続ける余裕がない。この状況だと少しでもマシにするように動くしかない」
『そういえば箱庭交代の時も、文句言いながら動いてましたね。なおそうして動いた結果、元の土地よりもランクが落ちましたがどんな気持ちですか?』
「クソが」
外れた時のリスクも覚悟して、箱庭を交代した結果がこれ。
俺は運に見放された人間だったというだけだ。
……少しくらい悪い土地でもカバーできるように、守りやすい土地を選んだんだけどな。
ああクソ、いい土地に当たって欲しかった。そうすれば学園で生きぬくことも、今まで俺を見下してきた奴らに怨みを晴らすことも出来たのに。
あいつらは元々持っている土地がいいから、この学園でも苦労せずに生きていけるのだろうか。
チッ、妬ましい恨めしい。結局、運が悪い奴はスタートラインにも立てない。努力もなにも関係ない、生まれが全ての……。
『そうそう言い忘れてました。地下資源なのですが、こちらはなにもしなくても最低限の量は採れますよ。そろそろ今日の分が排出されます。箱庭に手を突っ込んで取り出してみてください』
「地下資源は測定が出来ないほど少ないんだろうが」
完全に嫌がらせの発言、いや発文字に思わず目にしわが寄る。
どうしようもない箱庭なのはもうわかっている。これ以上追い打ちされても腹が立つだけだ。
『確かに測定は出来ていません』
ほら見ろ。これ以上の追い打ちなんて、このクソ石板は俺よりも性格が……。
『ですが……少ないなんて誰か書きました?』
俺はその文を見た瞬間、箱庭に右手を突っ込んでいた。
言われてみれば確かにそうだ。少なすぎるなら測定不能じゃなくて、ゼロや最低値で記載すればいいはずだ。
淡い期待かもしれない、またおちょくられてるだけかもしれない。だがそれでも期待してしまう。
ズブリと手が箱庭に飲み込まれると、なにか砂のようなモノを掴んだのですくい上げる。
俺の手の中いっぱいにあったのは、大量の小さな石だった。ただし、黄金に輝いている。
「え? なに? どういうことだ? き……!?」
俺は急いで左手で口をふさいだ。
て、手のひらいっぱいの量の砂金!? そんなのどれだけの価値が……!?
『この日本と言う国。どうやらこう呼ばれていたことがあるようですね』
石板に文字がゆっくりと刻まれていく。
『黄金の国、ジパングと』
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