第3話 理不尽ルール
(ふざけんな……こんなルールがあったら、弱者が潰されるに決まってるだろうがクソが!)
俺は寮の一室で、校内ガイドブック(石板)を渡されてキレていた。
今日の授業が終わりと告げられた後、俺たちは神殿としか思えないような豪華な寮に案内された。
そして各人には、それなりの貴族が寝室に使う部屋が与えられた。ベッドや家具とかは完備されている。
ちなみに絶対に外に音が漏れない仕組みで、夜間外出や異性を部屋に招くのも推奨だそうだ。仮にも学園を自称するクセにどうなのか。
だがそんなことはどうでもよかった。問題は私室に置いてあった、人の頭ほどの大きさの石板だ。
この石板は何も書いていないのだが、学内ルールなどの知りたい学園の情報を念じると文字や絵が自動で刻まれていく。
薄気味悪いし怪しすぎるのだが情報は大事だ。それと今日のことを振り返れば、少なくともこの自称学園は俺に危害を加える様子はない。
そもそも俺は木っ端貴族だ。ここまで大がかりに狙う価値もないよなと、流石に割り切って石板を使うことにした。
石板に刻まれた文字を読み終えると、書かれていた文字が一新されて続きが表示される。
早速学園の校内規則とやらを見ていったのだが……。
「はぁ!? 学園三年の卒業時に最も広大な箱庭を持っていた者は、どんな願いでも一つ叶う!?」
そして思わず内心でふざけんなと叫んでいた。
何とか声は漏らさなかった。この部屋が防音だとかはまだ確認していないので信じていない。汚い言葉を聞かれると、本性がバレかねないからな。
俺は善人であると周囲に思われておかないと困る。
「これはマズイ……こんなルールがあったら、仲良くみんなで生き残りましょうとか無理だ。弱い奴から狙われるに決まってる……しかもだ」
正直これが一番最悪なのだが、『箱庭は自分の領地そのもの。全て失った場合、元の世界でも領地を失い貴族ではなくなる。ただし金銀など財産は残る』という一文だ。
普通の貴族ならば財産が残るのは僅かな救いだ。おそらく神か学園も、救済措置として作っているのだろう。
だが俺は財産がない。いやそれだけならいいのだが……借金まみれなんだよな。もし借金が財産に入ったら終わりなんだが……そう思った瞬間に石板の文字が一新された。
『――ご安心ください! 借金も財産に入ります! 貴方の先祖からの借金貨千枚はしっかりと残ります!』
俺は思わず石板をぶん投げそうになった。
最悪だ最悪過ぎるクソが! 金貨千枚だぞ!? 領地もない平民じゃ返すなんて不可能だ!
平民になっても別にいいかなって思ってたが、借金が残るとなると絶対にダメだ!
なにせ領地がなくなったら返済能力が皆無になる。そうなれば俺が元の世界に戻った瞬間、借金のカタに商人どもに売り飛ばされて鉱山奴隷だろう。
鉱山奴隷の三年後は九割死ぬらしいので、実質死刑宣告みたいなものだ。
仮にも神前学園とか名乗るんなら! そこらへんちゃんと救済しろよ!?
『神の救済はすべての者に、等しく平等に与えます。例外は存在しません。借金があったのは自業自得です』
石板がまた俺の思考を読み取って回答してくる。普通の貴族は借金がないから、俺だけ平等にはしないってことかよ!
でもこの借金の大半は俺が原因じゃないんだけど!? なんなら俺はわずかに借金減らし始めたんだけど!?
『エンド家の借金である以上、貴方にも責任があります。お家のために働きなさいクソガキ』
クソが。この石板、人をバカにしてやがる。
『それよりも箱庭を触ってみては? まずはこの学園の最重要なことを理解すべきです』
確かにこの石板の言う通り、いや書く通りだ。これまでの俺の予想は、さっきの授業? を聞いた感想でしかない。
自分でしっかりと触ってみて、それから結論を出しても遅くはないだろう。
……まあ俺の領地が小さいのは、さっきの教室で他人と比較して分かってるんだけどな。
「
呟くと俺の目の前に箱庭が出現する。
改めて見てもやはり俺の領地の小ささにうんざりしてしまう。
『創世モード起動。これより私に触れて念じることで、箱庭に手を加えることができます』
「具体的には何ができるんだ?」
『魔素を消費することで魔物を召喚したり、土地に作物を植えられます。現在の箱庭の状態を、クソガキに分かりやすく表示します』
石板の表示がさらに変わっていく。
---------------------------
エンド領
魔素残量 50
土地使用率 0%
作物収穫量 0
魔物飼育数 0
-----------------------------
『土地使用率が残っていないと、作物を植えたり魔物を新たに飼うことはできません。試しに小麦を植えるように念じてください。箱庭の空いている土地に、種を撒くイメージです』
「難しいこと言うな……こんな感じか?」
なんとなく種を撒くイメージで腕を振るうと、箱庭の一部の平野にぶわっと小さな麦が生えて畑になった。
『土地使用率が1%上昇しました。では次は魔物を召喚してみましょう。この箱庭の元となった土地で生息したことのある魔物、もしくは自立して動く物を魔物化して召喚できます』
「動物ってことか?」
『いえ生物である必要はありません。自立というのは、命令されて動く物体も含みます。そうでなければ魔法で動く人形、ゴーレムが召喚不能になります。それはゴーレムが召喚できるはずの箱庭に損ですから』
「ふーん……じゃあ試しにゴブリンでも」
俺の領地には、というかどこにでもいるからなゴブリン。
念じると箱庭の上に虫のようなものが出現した。よく見るとすごく小さなゴブリンの群れだ。おそらく二十体くらいはいるだろうか
『土地使用率が2%に上昇しました。今の状態を表示します』
---------------------------
エンド領
魔素残量
0
土地使用率
2%
作物収穫数
小麦10g
魔物飼育数
ゴブリン 10
-----------------------------
『こんな風に食べ物や魔物を増やしていきます。ちなみに魔素がなくなりましたので、もう今日はなにもできません』
「……え? もう魔素なくなったのか? いや待て、食事って箱庭から出すんだよな? それだと俺の今日の食事って……」
『小麦10gになります』
ふざけんな、足りるわけないだろうが!?
パン一個にすら小麦30gくらいはいるはずだぞ!? まともに食えないじゃないか!?
『それはあなたの領地が悪いです。あなた以外の者は全員、初日から毎食パンひとつは食べられるくらいの収穫量を得られます』
「理不尽過ぎる……というか魔素が獲れないと、ろくになにもできないじゃないか。ちなみに他の領地の魔素収穫量はどれくらいだ?」
『最低でもエンド領の四倍以上ですね』
クソが。
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