第8話 二人の王子と騎士たち

 震えながらも席につく。後ろの席のひなたは俺の様子に首をかしげ、悪魔は楽しそうに笑っていた。


「よし、みんな席についたな」


 ソール王子と同じ容姿をした先生は黒板に自分の名前を書いていく。


「このクラスの担任になった白城太陽しらきたいようだ。俺は今年先生になったばかりでな……つまり、お前たちが最初の担任ってことだ。互いに不慣れなところはあるかもしれないが、一緒に成長していこうな! よろしく!」


 堂々と胸を張り、元気に挨拶する先生を凝視する。チラッと右方向の席に座る律佳を確認すると、俺と同じ状態で固まっていた。


「先生元気だね、かっこいいし」

「ねー! ラッキーかも」


 こそこそと話す女子の黄色い声が聞こえる。


 そう、ソール王子、クレール王子は揃って容姿端麗だった。お二人とも仲が良かったし、公務やお食事のときに並ぶとそれはもう形容し難いほど美しく……


 ってそうじゃなくて!


 同じクラスに憎き悪魔と騎士団仲間のロッカ、担任がソール王子……なんということだ……

 中学まではあんなに平和で、ひなたとふたりきりの世界だったのに、今日だけで前世に関係する巡り合わせが起きすぎだろ! 


 何が前世を思い出すきっかけになるのかわからない。


 それでも幸いなのは……ソール王子は俺とロッカの顔を見てもピンときていなかった。つまり、前世を思い出していないんだろう。あのお方は嘘をつくタイプでもないし……

 ひなたも兄の顔を見て思い出した様子はない。王族は思い出さないとかそんなのがあるのか……? そうだったら好都合だけど確証はない。


 気を張らねば。



「それじゃあこれから入学式だ。体育館に移動するから番号順に廊下に並んでくれ!」


 席を立つとひなたに呼び止められた。


「亜紀、体調でも悪いのか?」

「え?」

「なんか今日は様子がおかしいから……」


 ひなたの前ではいつも通り振る舞っていたつもりだったけど……王子の頃から俺が無理したり、思い詰めていたときはいつも気づいて声をかけてくれていた。


「俺は大丈夫。ありがとう、ひなた」

「よかった。亜紀が元気じゃないと俺も元気出ないしさ」


 モヤモヤも淀みも全部消してくれるこの笑顔にどれだけ救われてきたことか……心が満たされていくのを感じた。


「おーい、呉谷。おまえは代表挨拶あるから先頭に並んでくれ」

「あっ、はーい! じゃな亜紀」


 疲れた脳も体も、元気フルチャージ完了だ。

 ひなたの笑顔と平穏を絶対に守る……!! そのためには何でもしてやる……!!


「ねえ、亜紀くん。あの先生ってあんたたちの関係者?」


 せっかく高揚した気分が悪魔のウキウキとした声に下降する。


「フン、誰が言うか」

「つれないなぁ。じゃあ勝手に予想すると……ひなたくんと顔立ち、雰囲気が似ている。亜紀くんと律佳くんが敬語を使った、ということは王族……第一王子かな?」


 こいつ……どこまで知ってやがる……!


「その反応は当たりだね」


 ふふ、と悪魔はしたり顔を見せた。赤い瞳がぎらぎらと踊るように輝いている。


「人間は、前世での仲が深いほど生まれ変わっても近い関係になる……そんな言い伝えがあるけど、あんたたちの関係はそれだけじゃなさそうだ」

「……は?」

「騎士クンの未練がみんなを引き寄せているのかもね」


 ゴクリと唾を飲み込んだ。こいつと喋ると、心の痛いところをえぐられるような感覚がして気分が悪い。


「さあ早く並ぼう。みんな待ってる。ひなたくんの代表挨拶?だっけ? 楽しみだね」


 悪魔は軽い足取りで教室を出ていく。

 

 俺の、未練……

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