第3話 ふたりきりの教室
3年間を過ごす学び舎、期待と緊張が入り混じる新しい教室……現在そこで、俺は王子を毒殺した仇である悪魔とふたりきりになっている。
遡ること数十分前……
「あっ、亜紀と同じクラス!」
「ほんとだ! すげえ嬉しい!」
「俺も嬉しいよ」
声高に喜ぶと、100000000点の笑顔が返ってくる。眩しい。これで1年間ひなたの隣を守れることが確定した。神よ、ありがとう。昇降口に張り出されたクラス割を心の中で拝んだ。
日本においてクラス替えは厄介でしかない。幸いクラスが離れたのは1回だけだったけど、その時は大変だったな……主に俺の精神状態が。
「俺もクラスおんなじだ」
「……は?」
隣で同じくクラス割を見た悪魔はにっこりと笑う。舞い上がっていた気持ちは一気に冷めていく。それとは裏腹にひなたの表情は、ぱっと明るくなった。
「そっか! じゃあ一緒に教室行こうぜ」
ひなたは廊下の案内を見て、足取り軽く教室の方へ歩いていく。ひなたは率先力があり、人を引っ張っていくのが上手い。王子のころからそうだ。いつのまにか先に先に進んで、そのまま何処かに行ってしまいそうな危うさも感じる。
慌てて背中追いかけながら悠長についてくる悪魔の方を振り返る。
「お前、クラス割仕組んだろ」
「さーてどうでしょうねえ」
ひゅう、と口笛まで吹きそうなぐらいの余裕っぷり。このはぐらかし方、絶対仕組んでやがる……! こいつは毒以外にも何か力を隠し持っているはずだ。警戒を強めないと……
「ふふ、人間の高校生活かあ……楽しみだな」
「なにが……!? どこが……!?」
「仲良く!」
階段を上りながら振り向いたひなたの声が聞こえ、悪魔に掴みかかろうとした手を止めた。
「おっ、1番乗りだ! ってリハのために早めに来たから当たり前だけど」
誰もいない教室は広々としていた。意気揚々とドアを開けて楽しそうにしてるひなた、めちゃくちゃかわいい……
「亜紀までこの時間に合わせて来なくてよかったのに。もうちょっと寝れたぞ?」
「俺が一緒に来たかったからいいの」
「そっか~、亜紀はほんと俺のこと好きだなあ」
!?!?!?!?
「ゲホッ ゴホ……あ、はは……うん……」
勢いでむせた。なに笑顔……!
いや、ひなたが言ってるのは親友として、だ。バレるわけにはいかない。俺のひなたへの好意は前世から続いてるってこと……知られたら重くて引かれる……!
「動揺えげつな。俺がいることも忘れないでね~」
悪魔は揶揄いながら俺とひなたの間に割り込んでくる。悪戯に舌を出す様が鼻につく。こいつ、マジで邪魔……!
「あっ、俺そろそろ体育館に行かないと。亜紀、俺のカバン机に置いておいてくれ。集合時間までまだあるし、ゆっくり2人で話してろよ。せっかく同じクラスになったんだからさ!」
こいつとふたりっきり!?
「じゃあ、またあとで!」
「待っ、ひなた……!」
「いってらっしゃ~い♡」
ーーそして爽やかな笑顔で手を振ったひなたを見送り、今に至る。
「ふうん、座る席まで決められてるのか……ルールに縛られて面倒だと思わない?」
「決められていないと逆に面倒なこともある」
黒板に席順が書かれた紙が貼ってあった。俺は窓側から2列目の後ろから2番目。ひなたが1番後ろ。栗島と呉谷、出席番号に並ぶと俺とひなたは必ず前後になる。それも運命だと思っている。
「ひなたくんは新入生代表か……生まれ変わっても優秀なんだ。あんたのご主人サマは」
「何様だ。王子のことも、ひなたのこと何も知らないくせにでかい口を叩くな」
悪魔は当たり前のように俺の左後ろ……ひなたの隣の席に座った。
「お前がひなたの隣とか最悪……マジ滅べ、ひなたに何かしたらただじゃおかない」
「殺さないって言ってるじゃん。俺の名字、桜花なんだから近いに決まってるでしょ」
「それも仕組んだな……!?」
どうだか、とイスの背にもたれかかり、ニヤニヤと笑っている。
「桜花、なんて綺麗な名字を悪魔が気まぐれで使うな。桜が可哀想だ。死んで償え」
「ほんっと王子サマのいないところでは口悪いんだから。だって綺麗だったんだもん、いいじゃん」
悪魔は頬杖をつき窓からグラウンドの向こうにある桜を見つめていた。風に揺れて花びらが舞っている。あと数日もすれば全部散るだろう。
「ここは空気が澱んでて人間も多くて、嫌な場所だって思ったけど……桜は綺麗だ。あれはこの世界にしかない。俺、気に入っちゃった」
「悪魔でもそんなこと思うのか」
「すぐ散っちゃうところも、人間の儚い命みたいで好きだなあ」
頰を思いっきりつねってやった。陶器みたいに白い頰はよく伸びた。
「動機がクソだな。桜に謝れ」
「ひひゃい!(痛い!)あふまれもひゃんとつうかくはあるんらよ!(悪魔でもちゃんと痛覚はあるんだよ!)」
「殴らないだけマシと思え」
「殴れないの間違いでしょ。せんせーに見られたりしたら退学になっちゃうもんねえ!」
肌が白いから赤くなった頰がよく映えていて、ざまあみろと思ったが、それも束の間。すぐに治っていた。
「そういえば……前にあんたたちのいた世界も、花が綺麗だったね」
「お前は本当に何様だ」
「綺麗なもんは好きなんだよ。だから覚えてる」
あの王国は、花がたくさん咲いていた。
城下町の花壇にも、町の外にも。花を売っている店もたくさんあった。今となっては花の種類なんて思い出せないけど……
もちろん城の中にも大きな庭園や温室があり、たくさんの種類の花があった。
クレール王子は花がお好きだった。花に微笑む王子の可憐な姿は言葉では表せないほど美しかった……
「浸ってるとこ悪いけど、せっかく2人きりになれたんだ。王子サマの前じゃ話せないことを話そうよ」
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