第18話 友達の女に電話させて、ミュートで指示を出してみる
パンジーは通話をするために手を伸ばした。
今まで、チャットで話したことはあるが、通話で話したことはないと言っていた。これが初めての通話のようで、やや緊張気味に見える。
しかしパンジーは、学校で話したことがあると言っていたし、話すこと自体が初めてではないだろう。通話をやりはじめて、話す内容がないということはないと思うが…… パンジーならテンパリそうな気もする。
どうなるかはパンジー次第。俺たちは静かに見守っている。
パンジーがインスタを開いて、通話ボタンに手を伸ばす。指がもう少しで電話のマークに触れそうだ。
指は小刻みに震えていて、不安と緊張が入り混じっている。
そして、指が通話ボタンに触れた。
触れるとスマホは通話の表示になって、相手が出るのを待っている。
スタンダードなコール音が流れていて、パンジーは唾を大きく飲み込んで通話が繋がるのを待っている。
パンジーは俺たちに目を配る余裕は持っておらず、ただただスマホ画面を睨んでいた。
1コール、2コール、3コール…… まだ出ない。
そして4コール目、スマホに新たなアイコンが出現する。子犬の背景に白色のカーテンの、いかにも女子という感じのアイコンだ。
スマホからは、ザザザッという雑音が聞こえてきた。スマホの置き所に困っているのか、それとも体の体制に困っているのか。
初めは雑音から始まった。
パンジーは、アイコンが出現してからは固まってしまい、いつもの明るくて、騒がしい雰囲気は全くない。
「「…… 」」
数秒間の間、沈黙が広がる。俺たちは、笑いを堪えながら、鼻を手でつまんで空気が溢れてこないように細心の注意を払う。
沈黙が続いて、2人の間に緊張感が走る。
そんな緊張感に耐えかねて、はじめに声をかけたのはパンジーではなく優香だった。
「… もしもし…… パンジー?」
「「「「「「ッッッッッッッッッッt」」」」」
俺たちは、吹き出しそうなところを必死にこらえる。まさか女子にまでパンジーと呼ばれているとは。
流石に、パンジーと呼ぶのは男子の間でのことだと思っていた。たまに部活の後輩からパンジーと呼ばれているのを聞くこともあるが、女子にまで言われているとは想像もしていなかった。
「あっあのさ…… アルバムの話なんだけどさ」
パンジーはそう言ってから、共通点のあるアルバム係の話から始めようとしている。
しかし、アルバム係の話は、今まではチャットでしていたと思うのだが、なぜ今日はチャットではなく通話をするのかと相手に疑問を与えてしまうのではないだろうか。
「その…… なんで今日は通話なの? いつもはチャットでしょ? 」
あーあ、やっぱり怪しまれてるよ。まあパンジーだし仕方ないか。
それにこの場合は、アルバム係という理由をつけてまで通話をしに来てくれた、と勘違いしてくれるパターンもある。
「あ、いや今日はなんとなく…… 」
「そうなんだ、なんかあったのかと思ったよ」
見ていて初々しいと思えるほど、2人の会話は辿々しい。会話では常に緊張感があり、リラックスなどする暇もない。お互い次の言葉が出てこなくて、会話の節々に沈黙が挟まる。
パンジーがここまでピンチなのは珍しい。俺のイメージでは、相手が女子でも何も考えずに突っ込んで行く姿だ。
しかし今は余裕など一切持っておらず、あるのは嫌われたくないという不安だけに見える。
このままでは会話が失敗に終わると思って、俺はパンジーにミュートにするように、ジェスチャーで伝えた。
パンジーは、俺のジェスチャーを見て、こちらの声が向こうに聞こえないように通話をミュートにした。
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