第12話 肝試しに行ったら神隠しに!?
ようやく動き出したコビオが入り口を通過し、心霊スポットに足を踏み入れる。
俺たちはコビオがあまりにもビビり過ぎて先に進まなかったので、もしかするとこのまま心霊スポットに入らずに帰る羽目になるのではないかと心配していた。
しかし、そんな心配は必要なく、杞憂に終わった。
ここまで来ておいて引き返すのは、みんなに申し訳ないと思ったのか、コビオは躊躇しながらも前に少しずつ進んでくれた。
もうここまで来るとコビオは後に引くことはできない。
なぜなら、細い一本道が続いているこの場所では、後ろに方向を変えて動き出すには狭く、コビオの独断だけでは後ろには帰ることができないような地形になっていたからだ。
コビオはそれに気づくような余裕は持ち合わせてはおらず、ただただ早く終わって欲しいという思いから、ややスピードを上げて歩いている。
コビオの後ろにはパンジーが後を追いかけていて、その後ろには俺が続いている。このままスピードを上げすぎると、後ろとの距離が離れてしまうと思った俺はパンジーにスピードを落とすように声をかけた。
1番前にいるコビオは恐怖のあまり俺の声は届いておらず、スピードを落とす気配は感じなかった。
パンジーは俺が声をかけてからすぐにスピードを調整して、後ろとの距離を確認している。
そしてパンジーがスピードを落としている今も、コビオは気づかずに進んでいき、次第にパンジーとの距離が離れていってしまう。
コビオはしばらくしてから後ろに気配を感じないことに違和感を感じ、後ろを振り返って俺たちの方を確認する。
自分だけが前に進んでいることを認識したみたいだ。
そしてコビオは心霊スポットに一人だけ距離が離れていることを認識し、恐怖でいっぱいの表情を俺たちに向けてくる。
さらに自分が距離を離されていることに怒りを感じたみたいで、後ろを振り返りながら俺たちに苦言を呈する。
「こっち来いって、なんで離れてんだよ! どうせ俺が怖がってるの見て楽しんでるんだろうな! そうだろ! いいから早くこっちに来いって! 」
ただでさえ怖がっているのに、俺たちとの距離が離れたことでさらに恐怖が加速しているようだった。
そしてその恐怖が怒りに変わって俺たちに向けられている。
どうして自分と距離を取るのかとコビオは文句を止まらずに漏らしていた。
しかしコビオがいくら文句を言っても俺たちが誰も反応せずにただただ笑いながらゆっくりと歩くだけなので、コビオは諦めて俺たちの元に走って戻って来た。
俺たちの元に戻ってきたコビオは額に汗をかいていて、息を苦しそうに吐きながら俺たちを見上げている。
その顔を見ると本当にコビオにとって、いかに心霊が苦手なのかがわかる。
怖がっているコビオを見ると、少しだけ可哀そうに思えてきて同情する気持ちも出てくる。
しかし俺はコビオにもう少しだけ悪戯をしたいという気持ちのほうが強くなってしまい、からかってみることにした。
俺は、顔を真剣な表情に変えて、遠くのほうを眺めるように、森の奥の一点を集中して凝視した。
そんな俺をコビオが不思議そうに見つめながら疑問に感じるような表情を見せている。
コビオが俺の顔を不思議そうに見ていることを確認して、俺はさらにコビオをビビらせてやろうと演技を始める。
俺は遠くの一点を見つめながら、言葉を一言も発することなく恐怖を感じているような表情を浮かべた。
まるで恐怖で言葉を失ったかのような、怯える表情を作り、コビオを不安な気持ちにさせていく。
俺が何も言わずに、ただただ一点を見つめているので、コビオはゆっくりと俺の見ている方を見ようとして、後ろを振り返る。
そしてコビオは恐怖のせいで懐中電灯を持つことも忘れてしまう。
コビオが懐中電灯を持つのを忘れたことで、真っ暗闇のなかに明かりを持つのは、俺が持っている懐中電灯のみとなっていた。
俺はコビオが完全に前を向くのを待ってから、みんなにその場にしゃがみ込むように指示を出した。
コビオが振り返った時に、誰もいなくなっているという状況を作るためだ。
するとみんなは俺の指示にしたがって、その場にしゃがみ込んでくれた。
そして俺は、コビオが前に視線を向けたのを確認してから、俺が持っている懐中電灯の電源をオフにした。
夜の山奥では懐中電灯が唯一の明かりだ。その唯一の明かりを俺がオフにしたことで辺りは真っ暗になり、周りを確認することはできなくなった。
明かりを消したことで、コビオはなにが起きたのかパニックになって、急いで後ろを振り返った。
コビオの焦る表情は、残念ながら真っ暗闇で見ることはできない。
しかしその息使いで、相当な恐怖を感じていることは伝わってきた。
息を荒々しくしながらコビオは真っ暗闇で俺たちを見つけようとして探し回る。
しかし俺たちはその場にしゃがみ込んでいるため、コビオの目に俺たちの姿は見えていない。
コビオは慌てて俺たちを見つけようとするが、パニックになって冷静さを欠いているため、俺たちを見つけることはできなかった。
そしてコビオは怖すぎておかしくなってしまったのか、異常な行動を始めてしまう。
俺たちを見つけられないことで恐怖は頂点に達し、とうとう何かをしゃべり始めたのだ。
「神隠し!? やややヤバい… みんなが神隠しにあってしまった。ああもうおしまいだ…誰か助けてくだざいい、おでがいじまず、神様あ、神様あ… 」
聖霊よ、来てください
私をあなたの愛の力で満たしてください
私が今日も、
人となられた御言葉の忠実な弟子として生き、
父である神の栄光のために、
イエス・キリストが主であることを
証明することができますように。
アーメン 」
とうとうコビオが壊れてしまう。
ここまで怖がらせてしまうと、流石の俺も同情してしまい、もう怖がらせるのは辞めてあげようという気持ちになってくる。
「おーい見えてんのかコビオ、怖がらせて悪かったよ」
俺はコビオに安心してもらおうと思い、懐中電灯の電源をつけて、姿を現した。
しかしコビオは再びおかしな祈りを始める。
「ああ~神よ私の友をお救いしてくれたのですね
罪深き我々に慈悲を下さりありがとうございます
神のご加護に感謝
アーメン 」
「アーメン、っじゃねえわっ! 俺たちが死んだみたいに言いやがって笑。」
そうツッコミを入れたのは石津だ。
しかし石津の声はコビオに届いていない。
コビオは俺たちが怖がらせすぎたせいで、とうとう壊れてしまった。何かぶつぶつ呟いていると思って耳を傾けるとキリストに祈りを捧げていた。
俺たちは、おかしくなったコビオを見て心配になる。まだコビオは平常心を取り戻すことが出来ておらず、再び神に祈りを捧げていた。
俺はコビオに話しかけているのだが、反応はない。
「コビオ? もう大丈夫だからな…ほら、俺たちも全員ここにいるから」
俺はそう言ってコビオをなんとか落ち着かせようと話しかけてみる。
俺がコビオの前まで近寄り、ゆっくりと話しかけると、ようやくこちらを向いてくれた。
コビオの目をしっかりと見てみると、その表情は安堵したような柔らかいものに変わった。
安心したコビオはようやく平常運転に戻り、俺の顔を見てから安心したように、こう言った ↓
「…… アーメン」
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