第11話 心霊スポットが苦手すぎて絶叫
普段は肝試しをする機会はほとんどないだろう。普通は文化祭や修学旅行でやるくらいのレベルで、ガチの肝試しに自分から率先して行くということはないはずだ。
今日のメンバーにも肝試しをマジで体験したことのあるやつはおらず、今回が初めての肝試しだった。
今俺たちが行こうとしている場所は、地元でもかなり不気味な場所として有名で、知り合いが異常な体験をしたという噂が出ていた。
しかし俺たちは幽霊や噂などはあまり信じないので、本気で怖がるようなことはなく、好奇心でこの場所に躊躇なく足を運んでいた。
しかし今日の6人の中で唯一心霊が苦手な奴が一人いる、それがコビオだった。
心霊スポットに到着するとコビオは足を震えさせながら、前に進むことをこばんでいた。
前を見ると真っ暗で先は見えず、洞窟のような入り口は岩と倒れかけている木々が不気味さを感じさせる。
そして細い入り口が、一度入るともう出てこれないのではないかという想像を掻き立て、覆いかぶさるように、森が全身で威圧してくる。
心霊が苦手ではない俺でさえも、圧倒されてしまうくらいこの森は異様なにおいが漂っている。
隣を見てみるとコビオは体を小さく縮ませ、野球部で鍛えた幅のある肉体が嘘のように小さく丸まっていた。
普段のキャラは別にビビりやすいとか、小心者というわけではなく、強気で活発なフィジカルゴリラだった。
それなのに心霊スポットとなると急に大口をたたく口はどこかに消え、鍛えられた肉体も小さく見える。普段とはあまりに違うコビオを俺たちはイジリ倒しながらもて遊んでいた。
コビオで遊んでいる俺たちをコビオは気にしていない。こちらを気にするよりも、今からこの森に進んで行くという恐怖の方が大きいようだった。
いつまで経っても進もうとしないのでじゃんけんで先頭を誰が歩くのか決めよう、そう俺が提案すると、みんなは円を描くように集まり、こぶしを中心に向かって差出し、じゃんけんの体制に入った。
コビオはこのじゃんけんに負けるわけにはいかず、こぶしは緊張感で小刻みに震えている。
一方俺たちはコビオが負けてくれれば面白いのに、と悪い考えを浮かべている。
俺はどうしてもコビオが負けて、見たことがないような表情になるのを見たくて、ある作戦を考えた。
これがうまくいけば、コビオが一人だけ負けることになる。逆にうまくいかなければコビオが一人勝ちすることもある。
「コビオ、俺はパー出すからお前はグー出せば勝てるよ」
俺はそう言いながら周りを見渡した。俺がパーを出すという事を伝える為にみんなにアイコンタクトをとったのだ。
コビオは心霊スポットの恐怖で俯きがちになっており、俺がアイコンタクトを取っていることには気づいていない。
俺は全員の視線をもう一度見てから、みんなが俺の意思を理解していることを確認した。
全員がパーを出す事で、コビオが1人で負ける可能性は3分の1の確率になる。十分にありえる確率だった。
普通にじゃんけんをやれば6人に1の確率なので、コビオが負ける確率は通常の2倍になっている。
「「「「「「じゃんけんぽん」」」」」」
みんなで声をそろえてじゃんけんをする。俺が出したのはパー、そしてコビオが出したのはグーだった。
俺はコビオが出した手を見て勝利を確信した。
しかし結果はコビオの負けではなく、引き分けだった。
みんながパーを出していれば作戦通りだったのだが、石津とパンジーがチョキを出していたからだ。
俺の意思を理解していたのは松永と藤本だけで、石津とパンジーは俺の視線の意味を全く理解していなかった。
「はあ…さすがに伝わらねえよな」
俺はそう言いながら石津とパンジーを交互に見るが、2人は(なにかよう? )みたいな顔でまじまじとした目を向けてくる。
俺はこいつらの顔を見てから、全員でおなじ手を出すという考えが不可能だったことを理解する。
普通の会話ですらまともに伝わらないのに、アイコンタクトで伝わると考える方が間違っていたのだ。
もう意思の疎通はできないと判断すると、おとなしく普通のじゃんけんで先頭を決めることにした。
再びこぶしを中心に寄せて、じゃんけんをする。
コビオ以外は負けてもリスクがないので、退屈そうにじゃんけんを消化している。
このじゃんけんに意味を持つのはコビオだけで、その表情は真剣そのものである。
じゃんけんを数回繰り返すと勝敗が決まり、負けたのはまさかのコビオだった。
コビオは本当に嫌そうな顔をしてから自分の運の悪さを呪っている。
「もうッまぢで無理って! なんで俺が負けるかなあ、いややイやや」
6人に一人の16%の確率を運悪くコビオは引いてしまった。
俺はこんな偶然が起こるとは思っておらず、色黒の巨体でいつもは自信満々のコビオが焦りを浮かべている状況に大満足している。
しかしコビオは本気で焦っているようだった。
俺たちからすると、この状況はただただ面白いのだが、本人にとっては大問題なのだろう。
表情は青白く、大したこともないのにこの世の終わりみたいな顔で絶望している。
「こわいいい たのむから勘弁してくれ!なあ相馬頼むよ、なんとか言ってくれよ… 」
「ッくクはっハハハハハハ、あっ↑ハハハハハハ あ〜そんな顔見たの初めて (笑)」
俺は周りの目など気にせずに声を上げて大笑いした。
コビオがこんな事でビビり散らかすなんて見た目とあまりにもかけ離れている。
こんなにデカい図体をした大の男が心霊スポット如きでここまで怖がるなんて思わなかった。
「負けたんだから先頭行くぞ! 早く行こうぜコビオ、俺が後ろに着いてやるから」
駄々をこねるコビオの背中をパンジーが無理やり押しながら不気味な森奥に連れ込んで行く。
「ワカッタ、もうワカッタたから押すな! 押すなって 」
パンジーが無理やり連れて行くのに対してコビオは必死で抵抗しながら、涙目で俺に助けを求めてきた。
俺はそれがおかしくて助けるよりも笑いの方が勝ってしまい、怒りの声がコビオから発せられた。
その声も虚しく森の中に消えて行き、コビオが救われることはなかった。
入り口を抜けてからは、コビオの絶叫はさらにエスカレートしていき……
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