第8話 1月23日 体育倉庫で秘密の…
自由時間になり俺たちのグループはグラウンドに飛び出した。サッカーをすることになったので、みんなで適当にチームを分けて試合をしようという流れになる。
サッカーゴールはまだ準備されていなかったので、みんなで2つのゴールを向かい合うように運んだ。ゴールポストに手を触れると、凍りつくような冷たさで運ぶのが大変だった。
直接手で触れると手が痛むくらいの冷たさで、みんな袖に手を引っ込めていた。うまく袖を使い、なんとかしてゴールの設置を終わらせる。
あとは体育倉庫に置いてあるマーカーを使い、コートを作れば試合ができる状況だった。俺はボールを運び、ビブスをみんなに配っていく。
俺がビブスを配り終える頃にはマーカーの設置が終わっていた。チームは既に組んでいたため、チーム分けは必要なかった。
人数は思ったよりも集まっており、通常の人数の11対11は集められなかったが8対8の16人が集まっていた。青のビブスを相手チームが着用し、俺たちのチームは白の体操服で戦う。
そしてボールを真ん中に置き、試合開始のキックオフをしようとボールを蹴る。どちらのチームも気合が入っており、試合は白熱しそうだと感じた。両チームはボールに向かって一斉に走り出す。いよいよ試合開始だ!
ここまではいい感じだった。
しかし、ここで思いもよらぬ事が起きた。頭に何かが落ちてきた、嫌な予感がした。空を見上げると、太陽はすっかりと姿を消し、そこにあるのは分厚く真っ黒な雨雲だけであった。
頭にポツポツと雨が落ちる。頭に水滴が落ちる感覚を感じてから更に雨は勢いを増し、とてもサッカーができる状態ではなくなってしまう。
「マジか…」
突然の雨に思わず声を漏らし、俺たちは雨が体を濡らしてしまう前に、急いで体育倉庫に避難した。体育倉庫はそれほど広くはないが、16人が入るには程よい大きさだった。
16人が全員体育倉庫に入ったのを確認してから、俺は倉庫のドアを閉めた。倉庫の中にいても雨の音は響いており、倉庫の屋根に当たる水の音が雨の強さを表していた。
「あーあ、これじゃサッカーできねえな」
俺が思わず言葉を漏らすと石津が会話に入ってくる。
「今から体育館でバスケするっていう手もあるけど行く? 」
体育館に行くと言う石津の考えを一度考えてみる。今俺たちが体育館に戻ると体育館は80人でキツキツになる。バスケの試合は通常5体5でどれだけ多くても10対10の20人。とても80人ができるとは思えなかった。
「もしくは、ここでゲームでもする? 」
石津はここで授業をサボることを俺たちに提案する。俺は流石にまずいだろうと躊躇したが、鬼の藤本も教官室に待機しているし、バスケもできないと判断して石津の提案に乗ることにした。
「確かに体育館行っても80人もいたらやること無いし、教室からスマホでも持ってきてみんなで遊びまくろうぜ! 」
俺はそう言ってから教室にスマホを取りに行く事にした。俺に続いて16人全員が教室に向かって歩き出した。
何人かは体育館に向かうかと思っていたんだが、全員付いてきた事に少し驚く。教室の鍵は体育館にいる俺たちのクラスメイトが持っていたので、そいつに鍵をもらいに体育館に寄る事にした。
体育館に行くと予想通り、外に出ていた生徒が体育館に押し寄せ、混雑しているのが見てとれた。念のため先生が体育館にいない事を確認する。
先生が教官室から出て来る気配がない事を確認してから俺は教室にスマホを取りに向かった。鍵を開けて鞄の中からスマホを取り出す。
先生がいないか細心の注意を払い、周りを確認する。問題ないと判断するとスマホをジャージのポッケに入れてから教室を出る。
鍵をもう一度閉め直してからグラウンドに向かう。教室の鍵はじゃんけんで負けた石津が体育館のクラスメイトに渡しに行く事になった。
先生にバレはしないかとドキドキしながら俺たちは体育倉庫にたどり着いた。ここに着いた事でなんとも言えない安心感を感じる。何か悪い事をしているような小さい罪悪感を覚え、それが逆に俺たちを興奮させた。
「ひゃっほーー! 学校サイッコーふぉおおあ! 」
興奮を抑えられないのか倉庫で奇声を発する。こいつは石津に並ぶほどのアホで、石津とは違うタイプの脳に異常のある生き物だ。
名前は磯本と言うらしいが、あまりに奇声を発したり異常な行動をとることや、その容姿も含めてチンパンジーと呼ばれている。
俺はこのチンパンジーに静かにするように言おうとしたが、大雨で外まで声が聞こえないだろう思い、好きにさせてやる事にした。
体育倉庫に集まった俺たちは、2時間連続で自由時間になった事で気分は最高だった。そこで俺たちの中で今一番流行っているスマホゲームのイーフットボールというサッカーゲームをやる事にした。
このゲームは俺が一番好きなゲームで昼休みはいつもこのゲームをやっている。対戦機能が付いていて友達対戦ができる事が人気の理由の一つだった。
キャラクターの数も数え切れないほど登録されていて、メッシやロナウドなどの超有名な選手は勿論、誰だコイツというキャラまで幅広く登場している。
更に今までは1対1の2人プレイしかできなかったのだが、最近のアップデートで3体3の最大6人プレイが可能になった。
このアップデートで元々の人気に更に拍車をかけ、学校で一番ブレイクしているゲームになった。あまりに人気すぎて、このゲームのグループラインを作る者や、学校でクラスの大会を開くものまで現れてしまう。ゲームの影響で現実のサッカーまでもが人気となっていた。
この人気は男子だけにとどまらず、一部の女子にまで飛び火し、学校全体で大盛り上がりを見せている。そんな今激アツなサッカーゲームを授業中にできるという新たなシチュエーションも加わり、俺たちは幸せホルモン全開の脳汁を爆発させていた。
「今から2チームに分けて8vs8の団体戦やろうぜ! チームはサッカーの時に決めたチームね」
俺はそう言ってからルールの説明を始めた。
ルール
16人をAとBに分けて8人チームを2つ作る
AとBの各チームから3人を選抜し、3対3の試合をする
これを5回ほどメンバーを入れ替えながら繰り返す
先に3勝したチームの勝利
1人1試合は出場すること
負けたチームは500円の賭け金を支払う
「じゃ、やろっか」
俺が一通り説明を終えると、体育倉庫は熱気に包まれた。負けた方は500円を失う、高校生にとっての500円はかなり大きい。もしも負ければかなりの痛手になるだろう。
しかし逆に勝てば大きな褒美になる、コイツらの顔を見ると誰1人として自分が負けるなどと一切考えていない事がこれでもかと伝わってくる。
俺のチームはチンパンジー磯本とサッカー部を含むいつもよく絡むメンバーだった。相手チームは隣のクラスのメンバーと俺のクラスのメンバーが半々くらいの比率で、石津がチームをまとめているみたいだ。
1試合目に参加する3人は
Aチーム 俺(相馬) チンパンジー(磯本) 松永(サッカー部)
Bチーム 石津(アホ) 荒木(お調子者) 藤本(口臭)
このチームで初戦を始める事になった。これはチーム戦ということで試合に参加していないメンバーも自チームを応援している。
試合をやる俺たちも仲間のために簡単に負けるわけにはいかないと気合が入る。キックオフの操作を俺が入力することでゲームがスタートした。
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