第6話 1月22日 10万円を投資する

午後11時 4時間目 国語 現代文


俺は、ぼんやりとペンを回しながら国語の授業を受けていた。題名は「鏡としての他者」、先生がタイトルを読み上げながら俺たちに問いかけてきた。


「(鏡としての他者)

このタイトルを見たら、なにを想像する?もしくはどういう意味だと思う?」


先生は俺たち生徒を順番に見渡しながら、誰に発表させるのか狙いをつけている。俺は先生と視線が重ならないように、やや下を向く。


目を合わせなければ基本的には、いつも当てられることはない。今回もスルーされるだろうと思っていた。そのはずだった…


「相馬が分かるって言ってます」


そう声を上げたのは、このクラスの1番のアホで、Micro(マイクロ)という単語を「ミカロ」と読み上げた、愚か者である石津だった。俺はまさか自分の名前をこいつに呼ばれるとは思ってもいなかったので、完全に不意をつかれた。


石津が俺を読んだせいで、先生の目線は俺に向けられる。先生も先生でイタズラな笑みを浮かべている。必然的に、発表しなければいけなくなってしまった。


「お前やってくれたな、覚えとけよ」


俺は石津に軽口をたたいてから、発表のために席を立った。すると先生があらためて問いかけてきた。


「鏡としての他者っていうタイトルから何を想像する?どんな内容だと思う?」


急にそんな事を聞かれても不意を突かれた俺は、何も考えてはいなかった。しかし当てらたので仕方ない、俺は先生が最後まで話し終わるとしばらく沈黙し、適当に答えることにした。


「えっと、他者が自分の評価をしてる?みたいな?」


とりあえず俺はそう答えた。俺が答えると先生が微妙に頷きながら、まあまあ合ってると言ってきた。なんだよそれ、と思いながらため息をつく。


その微妙な反応に石津はニヤニヤとこちらを見ながらイヤな顔で煽ってくる。俺はそれに手で軽く応じて席に着いた。俺が着席すると先生は、このタイトルの説明を始めた。


「(鏡としての他者)このタイトルは簡単に言うと、他人を見ないと自分は見えないってことです。鏡を見て自分の顔を見るように、人は他人を見て自分の存在を認識します。足が速いという自信も自分より劣る他者があって初めて、認識できるのです。」


先生が一通り説明し終わると、俺はそういうことかと納得した。そして先生はさらに説明を続ける


「類は友を呼ぶと言いますが、これは自分を美しく見せてくれる鏡が、自分と似ている人だからです。」


他人は自分を見せてくれる鏡だ。ならば自分を美しくしてくれる鏡に、普通は映りたいと思う。


その鏡が自分と似ている人で、似ている人といれば自分を正当化してくれる、それが自分と似た人を好み、類は友を呼ぶ、という話だった。


「自分に都合のいい鏡ばかり置いていたら痛い目を見ることもあるので注意してくださいね。」


そう言って先生は授業を締めくくった。俺は今日の授業が印象的で、いつもは聞いていない授業がほとんどなのに、今日の国語の授業は聞き入ってしまった。


特に最後の、(自分に都合のいい鏡ばかり置いていたら痛い目を見ることもあるので注意してくださいね)


というメッセージは、自分と似た人だけと一緒にならず、自分と違う人も受け入れなさいよ、という意味に聞こえた。学校の先生もいい事言うんだな、と感心した。




放課後 帰宅


家に帰ると一昨日から始めている、せどりの情報をチェックすることにした。俺が購入したフィギュアの値段がどうなっているのか楽しみだった。


ドキドキしながら市場の価格を確認すると、値段は変わっていなかった。少しガッカリした。フィギュアはゆっくりと値段を上げていくものだから、1日で値段が動くことはないとわかってはいたのだ。


それなのに期待しすぎたみたいで、少しだけショックだった。


とはいえ結果は結果なので、気持ちを切り替えて次の商品を探していく。今度はメルカリに出品されているフィギュアをチェックすることにした。


早速メルカリを開いて「ワンピースフィギュア」と検索してみる。検索すると、ワンピースのフィギュアということで数えきれない量のフィギュアが出品されている。


まだ知識が深くないので、それが高いのか安いのかすら分からなかった。


そこで、フィギュアの本当の価値を見るために、一昨日ダウンロードしたアプリを使ってみることにした。


アプリを起動してからメルカリの商品を調べてみた、すると値段の変動がグラフで分かりやすく表示される。グラフを見る事で相場が見えるようになった。


相場が分かると、メルカリに出品されている値段が市場価格よりも若干安く出品されている事が確認できた。俺はメルカリに出品されている1つのフィギュアが割安であると判断し、そのフィギュアを落札する事にした。


住所や電話番号を入力してから、購入を確定させた。購入を確認すると、すぐに出品者から連絡が来た。


「ご購入ありがとうございます!」


俺が購入してから1分もたたずに感謝の連絡がきたので少し驚いた。なぜこんなに返信が早いのかと思っていると、商品のページを見て納得した。


出品者の商品を見ると、3分前に出品しました、と書かれていた。つまり俺が出品された瞬間にその商品を購入したから、すぐに返信が来たということだ。


商品が普通よりも割安なのに売れ残っていたので、不思議に思っていたけれど、出品直後だという事で腑に落ちた。


出品者と連絡をすると、フィギュアが俺の家に届くのに3日ほどかかるということだった。


俺はそのフィギュアが届いたら、購入した時よりも値段を上げて売ろうと思い、出品ページを作る事にした。


今回購入した商品は、出品者が相場を知らずに、割安で出品していたレアなケースだった。


しかしそれは稀で、普通は適正価格で出品されるので、フィギュアの値段を数ヶ月かけて上げていくのが定石らしい。


なので俺は定石通りに、緩やかに値段が上がっていくと予想したフィギュアを更に5つほど購入し、お小遣いのほとんどを溶かして数ヶ月後の値上がりに投資した。


今日投資した10万円がどこまで増えるのか、俺は不安で不安で仕方なかった。俺は値上がりを神にお願いし、スマホの電源を切った。



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