未来の約束
第40話 四季祭
それから、セルフィアの周りは怒涛の日々だった。
帰宅早々両親に泣きながら抱き締められて窒息しかけ、母の手料理と父のパンをお腹いっぱい食べて眠った。
翌日からはパン屋『雪原の小鳥』の看板娘に復帰したが、常連客から何日も店にいなかったことを不思議がられた。勿論、旅をしていた等と言うことは出来ない。遠くに住む祖父母に会いに行っていたのだと嘘をついた。
ジオリアは有言実行し、お忍びでパン屋を訪れた。イオルとアーロン、オルファードを伴ってやって来た彼を、セルフィアの両親は歓待した。そして常連客たちに見付かりにくいように、と店の奥のカフェを貸し切りにした。
それでも常連客の中には幼い頃からイオルとアーロンを知っている者もいて、王族らしからぬ扱いを受けることもあったが。客に何かを言われて何故か顔を赤くするイオルの姿を見て、セルフィアは首を傾げた。
そして、季節は巡る。冬が過ぎ、春夏秋冬が一巡した。その次の春先のこと。
「じゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい、セルフィア。イオルくんたちに宜しくね」
「楽しんで来い」
「うん!」
今日は、四季の訪れに感謝する
セルフィアは王城魔女として王国内の魔法使いたちを見付ける活動を始めたミシャと共に、祭に繰り出す約束をしていた。ミシャとはあの出来事の後しばらくゆっくり会えなかったが、最近ようやく遊びに行くことが出来るようになった。年下ながらにどんどんと成長していくミシャに、セルフィアは毎回刺激を貰っている。
「あ、ミシャ!」
「セルフィアー! おはよう!」
「おはよう」
大きく手を振るミシャに手を振り返し、セルフィアは彼女の傍へ行くために駆け出す。慣れないヒールのある靴は、特別な今日のために買ったものだ。
ミシャもまた、可愛らしいフリルのワンピースを着ている。小柄な彼女は、もともとの趣味もあって可愛い服装を好む。
「ごめんね、待たせた?」
「んーん? やっぱりその服似合うね、セルフィア。ボクの目は間違ってなかった!」
「ありがと、ミシャ。ちょっと
「可愛いのはセルフィアだよ。これで……」
セルフィアの今日の服装は、数日前にミシャと出掛けた時に買ったものだ。普段あまり可愛い服を選べないセルフィアだが、控えめながらも赤いリボンが幾つもあしらわれたスカートとベスト、シンプルな白のブラウスの襟には花の刺繍が入っている。
ミシャに褒められ照れたセルフィアは、彼女が何かを言いかけたことに気付いて首を傾げた。
「『これで』何?」
「何でもない! さっ、たくさん屋台あるし行こう」
「あ、待ってよ!」
誤魔化されてしまったが、セルフィアは気持ちを切り替えて祭の会場へミシャと共に飛び込んだ。
祭は人でごった返している。
一年目、四季の存在に多くの人が驚き戸惑った。しかし二年目ともなれば、楽しむ余裕が生まれる。きっとしばらくすれば、四季があることが当たり前になることだろう。
(それでも四季祭だけは、ずっとあると良いよね)
季節を先取りしたのか、半袖シャツを着た少年たちが駆けて行く。半袖という服は、この一年で生まれ直したものだ。身軽に動けるということで、子どもを中心に好まれている。
「おいしかったー!」
「ミシャ、食べ過ぎじゃない?」
「いいの、お祭りだから」
お昼代わりにと買った猫型のサンドイッチを食べ切り、ミシャは次にアイスクリームを天ぷらにしたものにかじりついた。衣の中からとろけたバニラアイスが現れ、食感も楽しい。ベンチに座った足をブラブラと動かしている。
そんなミシャの隣で同じく猫型のサンドイッチを食べていたセルフィアは、隣からの「あっ」という声に肩を跳ねさせた。
「な、何?」
「忘れもの。ここで待ってて、セルフィア。ボク、忘れもの取って来るよ」
「だったら一緒に……」
「セルフィアはここで、来るの待ってて」
「……何を?」
目を瞬かせるセルフィアに、ミシャは笑って「待ってればわかるよ」と答えを教えてくれない。
仕方なくミシャを見送ったセルフィアは、二つあった猫型たまごサンドを食べ切って紅茶を飲みながら待つことにした。しかし、ミシャはなかなか戻らない。
「どうしたんだろ、ミシャ……」
「――見付けた」
「え?」
何となく俯いていたセルフィアは、聞き覚えのある声にパッと顔を上げる。すると目の前に、息を切らせて立っているイオルの姿があった。今日は礼服ではなく、貴族の子弟のラフな格好だ。青や紺を貴重として、よく似合っている。
「どうしたの、こんなところで」
「お前を探してた。来てくれ!」
「え!?」
手を取られ、引き上げられるように立ち上がる。そんなセルフィアの手を握ったまま、イオルは人混みをかき分け歩き出した。
「い、イオル!」
「片付けなら、ミシャがしてくれる。大丈夫だ」
「ミシャが!? それも心配ではあったんだけど……何処に」
「……」
黙ったまま、イオルはセルフィアが辛くならない程度の速さを保ったままで歩き続ける。セルフィアは歩くことに必死で、いつしか何処を歩いているかもわからなくなった。
やがて、ふとイオルが立ち止まる。
「……ここで良いか」
「ここ……って」
「ごめん、無茶させたな」
大丈夫か。イオルに問われて頷き、セルフィアは自分が立っている場所を知って目を丸くした。
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