第18話 魔法の存在
セルフィア自身、背後までは注意していなかった。そんな自分だけでなく、離れて眺めていたはずのジオリアたちも見ていないとはどういうことか。
「ジオリア殿下たちもって、一体どういうこと?」
「それは俺も聞いた。だけど、兄上にもわからない。……一つ可能性があるとすれば、目に見えない存在がお前を突き飛ばしたっていうことか」
「え……おばけ?」
ミシャが自分の発言に震え上がり、隣に座っていたセルフィアの腕に抱き着いた。そんな年下の友人に腕を貸したまま、セルフィアはイオルの言う「目に見えない存在」が何かを考える。
「おばけの可能性が全くないとは言い切れないけど、ジオリア殿下がお考えになったのは別のことじゃないかな?」
「そう。兄上は『魔法を使える者の仕業じゃないか』って言っていた」
「魔法を使える誰かがあそこにいたっていうこと?」
目を丸くするセルフィアに、イオルは「そうだ」と頷いた。
「現在、シャルガータ王国では魔力を持つ者がいるのかどうかという把握を行っていない。永い冬が訪れてから、魔法について語ることははばかられてきたから。だが、他国では違うよな。アーロン」
「そうだな、イオル」
話を振られたアーロンは、水筒の水で喉を湿らせてから口を開く。
「この国ではあまり知られていないが、世界的に見ると魔法を使う者は一定数いる。国によっては政権が抱えている場合もあるし、職業として成り立っている国もあるんだ。数としてはとても少ないから、幻みたいな扱いをされることが多いみたいだけどね」
「じゃあ、姿を消して人に近付くことが出来る魔法もあるっていうこと?」
「仮定だけどね」
「魔法が、今も存在する……」
アーロンの話を聞いて衝撃を受けたのは、セルフィアだけではない。魔法を使いこなしたいと願うミシャもまた、世界における魔法の存在に目を見張っていた。
「じゃ、じゃあ、他国に行けば誰かに魔法を習える……?」
「それは可能だろうな。そうか、きみは魔法が使えるようになりたいのかい?」
「使いこなせるようになりたいんです。ボクの家系は魔力を持っているんだけど、ボクは力が弱くて。練習はしているけど、なかなか」
「魔力を持つ家系……」
知っていたか、とイオルがセルフィアに尋ねる。それに対し、セルフィアは頷いて見せた。
「わたしが初めてこの子に会った時も、魔法を使う練習をしているみたいだった。シーリニアのことも、ミシャが本を見せてくれたから少しわかったし」
「そうなのか。……ならば、噂程度でも良いから教えて欲しいことがある」
もし知っていたら教えて欲しい。イオルの真摯な態度に、ミシャも居住まいを正して頷いた。
「ボクのわかる範囲なら」
「ありがとう。……貴族に力を貸している、魔力を持つ一族はいないか?」
「一族……」
「そう。そこからシャルガーダ家への繋がりがわかれば、罪状を確かなものに出来る。隠遁の力を持つ者がわかれば尚良いんだが」
イオルの言葉を受け、ミシャは腕を組んで顔をしかめる。それから少しして、小さな「あ」という呟きが唇から漏れた。
「一つだけ、心当たりが」
「ああ、頼む」
「噂程度でしか聞いたことはないですが、その一族は『ジスターン家』と呼ばれています」
ジスターン家の人々は、その家名を公の場で口にしない。名には魂が宿り、魔力の根源となるから。
彼らは血の繋がりがある者もそうでない者もおり、いわば魔法使いの団体名に近い。一蓮托生一枚岩ではなく、それぞれが考えを持って行動しているために全体像は掴みにくいのが実情だ。
「彼らの中には、貴族のもとで力を行使する者もいると聞きます。シャルガーダ家に力を貸したのは、もしかしたら彼らの一部かもしれません」
「……わかった。兄上にも調べてもらおう」
ありがとう。イオルが言うと、ミシャは目を丸くしてから嬉しそうに頷いた。
しかし、とアーロンが近くの木の幹に背中を預ける。
「貴族だけでなく、魔法使い……秘密結社みたいなものまで関係してくるとはな。なかなか奥が深そうな話になってきた」
「ただ貴族令嬢の我儘を通すためだけに、ジスターンという組織まで使うか? 親の甘さだと言えばそれまでだが……そうなると、シャルガーダ家の闇深さが気になるな」
「……」
ぶつぶつと真剣に考え始めた幼馴染の頭を、アーロンが無遠慮にはたく。
「痛っ! 何するんだよ」
「イオル、ここで考えても仕方がない。今すべきことは?」
「……セルフィと共にシーリニアを捜し出すこと」
「わかっているなら、それで良い」
腰に手をあて、アーロンが微笑む。それを見て、イオルは自分の眉間にしわが寄っていたことに気付くのだった。
「悪い。そろそろ行くか」
「そうだね。あまり長居も……」
長居も良くない。セルフィアがそう言おうとした直後、突然空気が張り詰めた。
「何!?」
「ミシャ、多分わたしたち追い付かれた」
「……らしいな」
「さっさと片付けよう」
セルフィアがミシャを抱き寄せ、二人を守るためにイオルとアーロンが立つ。四人の前に、三人の男たちが姿を現した。
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