第4話:彼女の笑顔が消えた日

 月輝と珠々のお盆休み最終日はそれぞれ実家に顔を出し別々に過ごしていた。休みが明け再び顔を合わせ、2人の時間が動き出す。亮太が帰省中で地元にいるうちに3人で食事をしないかというお誘いがあり、更なる楽しみができた。


「行こー!」


珠々の明るい声で、1日が始まる。新人教育の全日程を終え、今月から正式に人事課の一員として働いている。それでもこの部署は4人しかいない、小さな会社なのである。


 亮太との食事は9月に入ってすぐの週末だ。前日のこの日まで変わりなく仕事をし、月輝と手を繋いで帰った珠々の笑顔が消えたのは、月輝と別れ家に入ってからのことだった。


――あんなに仲良かったはずの例のネット友達から、LINEとTwitterの両方ブロックされていたのだ。


 ここまで友達に変わった様子は見られなかった。珠々に彼氏ができたこと、お付き合いが順調なことも、自分のことのように喜んでいたはずだった。なのに突然、裏切られてしまった。


(あのグループには、まだいる…よね。)


珠々はグループLINE上で彼女に声をかけたが完全無視で他の人と楽しそうに話していた。


(何で…何で突然ブロックされた? 私のような友達いない1人ぼっちの女は、いらない…?)


夕食を作れないまま、珠々は泣きじゃくっていた。精神的に不安定のまま、当日を迎えてしまった。


 月輝が支度している間、珠々からLINEが届いた。


『具合悪いから、食事会は休みます。月輝くんごめん。亮太さんに伝えて。』


(珠々、何があった…?)


あんなに元気だったのに、謎だ。彼女本人から聞き出したいのは山々だが、今は休ませてあげようと思い、月輝は1人で出発した。


 場所は以前珠々と行ったファミレスだった。


「珠々ちゃん、昨日まで何ともなかったんだろ? どうしたんだろうね…。」


月輝から話を聞いた亮太も心配そうにしている。


「思い当たること、何もねぇのよ…。」


「よくお泊りデートするってこないだ聞いた時はびっくりしたけどさぁ、その時にしたんじゃないの?」


そう疑われても仕方ないが、


したけど…それが引き金になるような覚えはないな。それか、友達との間で何かあったとか――」


訳を探る暇もないまま、注文した食事が届いた。食べ終わった後。


「月輝に何か思い当たることがないんだったら、友達関係の可能性はある。本人が口を開いてくれるか分からないけど、気に障ることがないようにな。」


亮太からそう言われ解散。亮太は来週末に学生寮に戻るが、それまでにいい報告ができるかの保証はできない。それでも。


(俺を頼ってほしい――)


月輝はそう思っていた。


 月輝がアパートに着くと、そこには立ち尽くす珠々がいた。泣き尽くしたのか、彼女の目は赤い。それでもかすかに微笑みながら月輝の方を向いた。


「月輝くん、おかえりなさ――」


月輝の方から抱きしめる。


「珠々、何ともなくてよかったよ…。」


「うん。月輝くんに会いたくなって、外に出たんだ。そうしたらタイミングよくいたから…。月輝くんさえいれば、私――大丈夫だよ。。」


珠々のこの時のこの言葉は、説得力があった。だから、月輝からは何も言わないことにした。彼女が一体何を抱えていたのか知りたかったのだが、彼女から語られることは一切なかった。


☆☆☆


 1週間後。学生寮へ戻る亮太を見送ってから、月輝が珠々を連れて向かった場所は。


「どうしてここへ?」


「先輩に言っておこうと思ってさー。」


辿り着いたのは、侑生が住む会社近くのアパートだった。


「侑生先輩、来ましたよー。」


「はいはい。お前から話あるとは珍しいな。で、どうしたんだ?」


月輝の後ろに隠れていた珠々がひょこっと現れる。


「あら? 山内さんが何故ここに?」


「実は――この子とお付き合いしているんです。」


「え…えぇ!? い、いつからよ?」


侑生が目を丸くし驚くのも無理もない。


「今日でちょうど3か月です。というのもありまして、1番最初に先輩に報告したかったんです。」


「まじで全然分からんかったわ。話は分かったから、これからも仲良く。な?」


珠々に笑顔が戻る。1度は消えたが、月輝はいつまでこの笑顔を守れるのだろうか――

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