第3話:幸せのひと時

 そのまま一緒に寝た2人。珠々が先に起き、月輝が起きるまで目の前で待っている。ゆっくり顔を近づけると、鼻息が当たったせいか月輝が目を覚ます。


「お、おはよ……ってびっくりしたぁ。先に起きていたんか」


「はいっ! えへへっ!」


照れながらも、目をつぶる珠々。


「しょうがねぇなぁー」


察した月輝は、そっと口づけを交わした。


 朝食を食べ終わった後、珠々がスマホを取り出し黙々とやっている。


「何やってんの?」


「実は、Twitterデビューしようかと思いまして!」


珠々の顔は、好奇心で満ちている。


「いいんじゃないか? 今から友達作っても、遅くないだろ」


「はいっ!」


「ただ――」


「ただ?」


押し倒す。


「何かあったら、。君が好きだから……力になりたい」


そして、再び口づけ。さっきより熱く、長めに。


「俺からも言ってなかったけど、仕事の時以外は敬語も先輩もいらないから。ってことでよろしくな、珠々」


「は、は……うん。月輝くん」


家族以外の年上の人に対してのタメ口は珠々にとっては違和感があったが、仕事では先輩でプライベートでは初めての彼氏。こんな贅沢なことはないだろうと、このひと時を楽しんでいたのだった。


 週が明け、お付き合いが始まって最初の出勤日。


「行くぞー珠々!」


「行こっか、月輝くん」


会社の目の前まで手を繋ぎ歩く。会社に着くと、先輩後輩の関係。退社すると、再び恋人関係。切り替えが大変だが、月輝のさりげないフォローで珠々の毎日が充実していく。そして、珠々の笑顔も、自然と増えていく――


 この日の仕事中は。


「月輝、ここどうやるんでしょう?」


退社すると、すぐさま手を繋ぎ。


「月輝、一緒にご飯食べに行こー?」


珠々は仕事中も楽しそうだが、月輝と2人きりの時の方がもっと楽しそうだ。


「そうだなー、最近できたファミレスでも行く?」


「行く行く!」


 ファミレスにて夕食を食べ終え、そういえばと月輝は珠々に尋ねる。


「珠々、Twitterの方は順調か?」


「うん、順調。同い歳の女の子からフォロー来て、お話してるところなんだー!」


本当に順風満帆の珠々だ。月輝もひと安心。


(何があっても、この子は俺が必ず守る!)


「月輝くん?」


「ん? あ、すまん。最近よく笑うようになったから、その……可愛いよ」


「あー照れてる~」


「照れてねーし。その……週末は、覚悟しとけよ」


月輝は上手くはぐらかし、珠々と共にアパートへ帰っていった。


☆☆☆


 7月、珠々は19歳の誕生日を迎えた。月輝はケーキとご馳走を用意し盛大にお祝いした。そして、これからも一緒にいることを誓った。


 それから時が過ぎ8月。珠々はTwitterで知り合った例のネット友達とLINEをいつの間に交換しており、今期放送中のアニメについてグループLINE内でよく話しているようだ。


「行くぞー!」


「はーいっ!」


2人が向かうのは、地元で毎年この時期に行われる盆踊りの会場だ。そこには。


「おやー、月輝。その女の子は、もしや……?」


この青年は、月輝の高校時代からの友人で現在は市外の大学に通う田中たなか亮太りょうただ。夏休み中で帰省してきている。


「ああ、そうだ亮太。彼女だよ」


 珠々は緊張しながら、口を開く。


「は……初めまして。お付き合いをさせていただいております、そして月輝くんの職場の後輩でもあります、山内珠々です。今年の春に社会人になったばかりです。お2人は……?」


「高校の時からの友達さ。って紹介が遅れたね。田中亮太です。よろしくね」


「は、はいっ!」


自己紹介を終えると緊張が和らいだのか、月輝と見つめ合い微笑む珠々。


「年下の子なのに、しっかりしてるな。それとお人形さんみたいで可愛らしいこと」


「そうだろ~? だから、守ってやりたくなるんだ」


「ほう。月輝がそんなこと言えるようになるとは、見直したわ」


「はは、何だそれ」


月輝が亮太と笑い合う様子を見ながら、珠々は自慢の彼女になれたことを誇りに思えたのだった。

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