第2話:俺にできること
珠々と別れ帰宅した月輝は、部屋着に着替えるとベッドに寝転がり、静かに考えていた。
(あの子、俺といる時だけ何気に楽しそうなんだよなぁ)
カレンダーを見るともうすぐGWという名の大型連休。特に予定はない。ならば。
(何も予定ないんだったら、この機会にゆっくり話――聞いてやろうか)
そして翌日。連休前最後の仕事を終え、珠々に提案をした。
「せ……先輩? いいんですか? 私なんかが、先輩のお宅に?」
「ああ、そうだ。家なら、誰にも聞かれはしないさ。後輩が困ってるのを助けるのが、先輩の役目だ」
ということで、翌々日。月輝が朝食を食べ終わって掃除中のところ、珠々が訪問。
「山内さんっ! あと10分待って!」
バタバタと掃除を終え、珠々を招き入れた。
「すみません。張り切りすぎちゃって、お昼ご飯作っちゃいました!」
「お、おお……ありがとう。一緒に食べようか」
珠々が差し入れしたのは、一口サイズのサンドイッチだった。それも、2人で食べるのには十分すぎる量だ。
そして月輝が口を開くところから、話が始まる。
「山内さん。こっちに来る前、誰かにいじめられたとか……あったのか?」
「いえ、そんなんじゃなかったんです。私、昔から全然喋らない子で。それで仲間外れにされやすくて。中2の時に、それを見かねた担任の先生が『無理に教室に来ることないから、これ以上辛い思いする前に、保健室登校に変えたらどうか』って提案してくれて。うちの両親も賛成してくれたので、今年の3月、学校卒業まで保健室で過ごしました」
珠々は小学校卒業後、中高一貫校に進学するも学校の雰囲気に全く馴染めなかったと言う。
「修学旅行も行けなかった、ってことにもなるよな……」
「はい。両親が気を遣って、後日家族旅行したんです。その時の思い出は私の宝物です」
「よく孤独に耐えたよ。そんな中で簿記とか色々資格取ったんだから、偉いさ」
月輝は無意識で彼女の頭を撫でてしまう。
「あっごめん、つい……」
「いいんです」
珠々は照れながらも、喜んでいるようにも見える。
その後珠々が作ったサンドイッチを食べながら、ゆっくりテレビを観ていた2人。
「先輩?」
「ん?」
「2人の時だけ、下の名前で呼んでくれませんか?」
「いいよ……じゃあ、珠々」
珠々が笑顔に変わる。その様子を隣で見て、一安心した月輝だった。夕方になると、珠々は自分の家に戻る。その際に。
「次の週末も、また付き合ってくれませんか?」
「もちろん」
☆☆☆
週末になる度に珠々は月輝のもとを訪ね、色んな話をしたり、テレビを観たり、ゲームをしたりしていた。少しずつ、珠々の方から距離を縮めてきていた。気がつくと6月に入っていた。
「私、月輝先輩といると……落ち着くんです。今まで1人ぼっちが当たり前だった私に希望を与えてくれました。だから今、心がときめいてます。私――」
珠々の真剣なまなざしが、月輝に放たれる。現在進行形で、見つめ合っている。
「月輝先輩のことが好きです。ずっと一緒にいたいです。なので、私……これからどうしたらいいですか?」
月輝はこの告白に一瞬驚いたが、
「そうだなぁ……珠々、俺の彼女になるか? 君に寂しい思いなんてさせないから」
珠々の頭を撫でた後、そっと抱きしめた。
「ぜ……是非! よろしくお願いしますっ……!」
これまで孤独な環境で生きてきた彼女に対してできること。それは先輩として、そして1人の男として彼女を守ること。知り合って2か月、これがゴールではない。最初の1歩だ。
「家から着替え持ってきますっ!」
「え? おい、まさか……?」
「はい。彼女になった記念に、お泊りさせてください!」
珠々は月輝に抱きついた後、着替えを取りに家に戻っていく。
(初っ端から懲りない子だ。でも逆に飽きないし、これから楽しみだな!)
珠々も、彼女を見送る月輝も、何かと幸せそうな顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます