第18話 強者VS強者を間近で見る雑魚と……

「……やばい、エグい、マズい」


 俺は目の前で縛られ、仮死状態となっている暗王に魔力を注ぎ込みながら……半泣きで呟いた。

 何がやばくてエグくてマズいのか。

 それは……。

 

「おいおいおいおい魔力が湯水の様に吸い取られるんだが!?」


 そう、魔力の消費量である。

 

 当たり前だが、俺の魔力は無限じゃない。

 普段は全ての魔力を使い切る前に俺の身体が悲鳴を上げていただけだ。


 ただ今回は……自分に使うのではなく相手に使っている。

 それが何よりも問題だった。


「あぁ……普段から外部に魔力を使わない弊害が出たなぁ……くそッ」


 どうやら、外部に魔力を使うと馬鹿みたいに魔力を食うらしい。

 正直今のままでは、目の前の化け物を縛り付けておけるのは、三分……いや二分で限界だろう。



 それが解ければ俺は———終幕死ぬ



「麗華先輩ぃぃぃぃぃ! 朱音さぁぁぁぁぁぁぁん!! どうかこの哀れな少年を助けて下さいぃぃぃぃぃ!!」


 もはや懇願するしかない。

 常に魔力を供給し続けなければ直ぐにこの化け物は眠りから覚める。

 そうなればもう俺を許しも手加減もしてくれないだろう。


 つまり、死。

 完全なる敗北。

 享年十七歳。

 童貞はおろか、彼女すら出来ず人生の終わり……。


「あ、やばい……何かネガティブな考えしか浮かんでこないんですけど、やだー」


 俺は頭をぶんぶん振って一度思考をリセットする。


 諦めるな、俺。

 最後まで勝ち筋を探せ。

 大丈夫、俺は雑魚でも【魔力】は最強だ。


 考えろ。

 考えろ考えろ考えろ……!!




「———あっ……ある。魔力を供給しなくてもいい方法が……!!」


 

 

 そこで一筋の光が俺に差した。

 俺は直ぐ様思い付いたことを実行するため残った魔力を使い、発動。


「———【目の前の少女が二時間眠り続けてくれたらいいのに】———」


 ごっそりと魔力が持っていかれる。

 そして遂に、人生で初めて魔力の九割以上を失った。


 頭が痛い。

 胃液が逆流しそうだ。

 足が震える。

 耳鳴りが五月蝿い。

 視界がチカチカする。



 ただ、成功した。



 目の前の化け物みたいな少女は……年相応の寝顔を俺に晒している。

 既に彼女を縛るモノは、何も無い。

 ただ、人間……果てには生物は、睡魔には勝てない。

 勿論一部例外はあるかもしれないが。


 俺は見た目だけは可愛らしい暗王の寝顔を眺めながら深く深くため息を吐く。


「ふぅ……あー、危なかった……さっきもヤバかったけど、今回は別の意味でヤバかった」


 次からは最低でも残り二割までに魔力の使用は抑えよう。

 じゃないと俺が死ぬ。


 そこでふと、思い出した。

 異世界で魔力切れをわざと起こし、回復したら更に魔力切れを起こす……なんて手法がラノベやら何やらである。

 

 そしてそんな手法を取る主人公らに同じ魔力持ちとして言わせてみれば———。


『ごめんなさい、もう二度と主人公をヘタレだとか言いません。生意気言って本当に申し訳ございませんでした』


 もうこれに尽きる。

 何なら尊敬の念が湧いてくるほどだ。


 俺じゃあんなの耐えられんわ。

 多分一、二回で心折れるって。


「ふぅ……んなぁことは放っておいて」


 俺は、未だに下から響いてくる剣戟の音に耳を傾ける。


 どうやら下の戦いは……まだまだ続いているらしい。

 

「……取り敢えず、コイツからいち早く離れたいし、この子の保護者に引き取って貰うか」


 俺は眠る暗王を担ぎ、下の階へ歩き始めた。


 


 


 

 


「———おう……マジか。この世の地獄は此処にあったか」


 俺は一階に降りて、衝撃的な光景を見た。

 正確には一階の窓から、だが。



 目の前に———地獄としか言えぬ光景が広がっていた。



 グラウンドは火の海。

 木々は既に焼けて灰と化している。

 サッカーのゴールやテニスコートやバスケットゴールなどの金属類は、ドロドロに溶けてもはや原型を保てていない。


「…………何してんの、本当に」


 宙を飛ぶ麗華先輩が炎の鎧を纏い、赫い刀を振るえば真紅の炎の斬撃が飛ぶ。

 対する敵の男は、うんざりとした表情で斬撃を見上げながら、俺の背丈の二倍はある大剣を振るうと漆黒の炎の斬撃が発生する。


「くたばりなさい———『剣帝』」


 麗華先輩の真紅の炎が。


「いや、だから俺は戦う気は———って聞いてないよな……」


 敵側の男の漆黒の炎が。


 二人を結ぶ一直線の中間でぶつかり合ったのち、派手に爆発した。

 その爆風は物凄く———。


「やり過ぎだよアンタら! いやこれは無理ゲーで草ぁぁぁああああああああ!?!?」

「…………」


 廊下のガラスを軽々と砕き、俺は担いだ暗王共々吹き飛ばされた。

 そして直ぐ近くの廊下の壁に激突。

 更に此処に来て暗王の身体が衝突した俺をクッションの様にして来やがった。


「———グホッ!? な、何で俺がこんな目に……」


 壁と暗王の身体に板挟みになり、何とか身体強化でダメージは減らしたもののボロ雑巾のようにボロボロの俺氏。

 ただこの見た目だけ可愛い少女はこんな時もスヤスヤ気持ちよさそうに寝ている。


 くっ……何て羨ましい……!

 俺だってこんな現実から目を逸らしたいんだけ……ど…………。


 俺の思考はそこで途切れる。

 いや、正確には、思考が停止した。



「———貴方……」

「は、はひっ!」



 目を覚ました暗王が、俺を見ている。

 それも超至近距離で。


 そう、解けたのだ。

 俺の掛けた眠りの効果が解けたのだ。

 先程の爆風と壁に激突した衝撃によって強制的に。


 白い双眼の奥に俺が映る。

 そしてそこに映る俺の瞳に少女が映る。

 お互いに、まるで時が止まったかのように見つめ合う。


 ただ———。

 

 マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ!!


 俺の全身が、本能が目の前の彼女から今すぐ離れろと警鐘を鳴らしていたが。

 そして思考も、この状況が最もヤバイことに気付いている。


 ただ、俺の身体は動かない。

 否———動けない。


 目の前の少女が……暗王が俺の上に馬乗りになって見下ろしている。

 無意識だろうか、俺が起き上がれないように座っていた。

 そして暗王が口を開く。


「ねぇ———」


 ああ、俺の命も此処までか……。

 どうせなら最後に彼女の一人くらい———





「貴方は…………だれ?」





 ———作りたかった…………は?



「は?」

「??」


 いや、は?


「どうしたの?」

「いやいやいや……は?」


 俺は不思議そうに小首を傾げる暗王(?)を見て呟いた。



「———……え、記憶喪失パティーン?」 

「??」 



 どうやら俺は……まだギリギリ死ななくてもいいらしい。



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