第17話 一か八かの賭け
———はてさて、これからどうしようか。
俺は存在を消した(厳密に言えば姿と気配を隠しただけだが)後、毒針を全力で投げてみたが……あっさりはたき落とされた。
なので細心の注意を払いながらゆっくりゆっくり暗王とか言う厨二チックな名前の少女から離れていた。
対する暗王はというと……。
「は……? ねぇ、どこに行ったのぉ? 私にも気配が感じられないとかあり得ないんだけど!?」
絶対に捕まえられると確信して遊んでいたというのに、俺という格下に逃げられて物凄く焦っていた。
どうやら『逃げられても自分なら絶対に見つけられる』とでも自負していたのかもしれない。
へっ、ざまぁねぇ。
やっぱり見た目は良くても中身がダメじゃ美人とは言えねぇな。
あ、そう言ったらこの世の結構な数の美人が美人じゃなくなりそうだな。
俺はそんなくらだらないことを考えながらも、暗王から意識を逸さず、麗華先輩の下へ向かっていた。
廊下の薄い板とコンクリートの下では、絶えず物凄い戦闘音が響いている。
そのあり得ない程の爆音のお陰で俺は見つかってない。
姿と気配は隠せても音は隠せないもので。
麗華先輩様々である。
ただここで、俺は一つの見落としに気付いた。
「あ、あれ……? 今俺が麗華先輩の所に行ったらマズくない……?」
そう、俺が麗華先輩の下へ行った時の弊害である。
先程から戦闘音がかれこれ数分に渡って継続しているなら、相手が麗華先輩と同レベルと考えるのが妥当だろう。
そうすれば、俺はお荷物でしかなく、何なら新たな最高幹部級のアタオカを合流させてしまうだけになってしまうのだ。
俺が倒さないといけない……?
この化け物を?
後ろをチラッと見る。
俺側の担当になる辺り、麗華先輩が戦ってるのよりは弱いだろう。
仕方ない、やるか。
作戦変更。
今から奴を麗華先輩が俺を助けに来てくれるまで足止めする。
既に警戒心MAXの格上相手を。
ははっ、何て無理ゲー。
こちとらまだまだ異能力者になって間もないねん。
幾ら何でも相手が強過ぎるだろ。
しかし、愚痴ったところで状況が好転するわけでもない。
俺が何とかしなければ、確実に捕まる。
ならば———。
「さて……ここが正念場だな」
一縷の望みに、賭けてみよう。
「———へい、そこの可愛いお嬢さん。俺と一緒にお茶しない?」
「…………何を企んでるのぉ?」
先程の隠れていた机付近に戻ると、俺の身体の気配を消す効果を解除。
俺が立ち上がると同時に苛立ちの篭った暗王の双眼が俺を射抜く。
そして訳のわからないことを言い出した俺を不愉快げに言葉を発した。
よし、予測通り直ぐに攻撃して来ない。
俺を、まだ殺す訳じゃない。
それだけ確認出来れば、時間稼ぎも可能。
俺はへらりと笑みを溢して自嘲する。
「いや、だって俺じゃお嬢さんに勝てないのよ。俺、クソ雑魚だもん」
「男が『だもん』はキモいわぁ」
「ぐはっ!? だ、大ダメージ……ふっ、や、やるじゃないか……」
暗王の思わぬ精神攻撃に胸を押さえる。
そんな俺の様子を暗王は呆れた様に見ていた。
「はぁ……何でこんな頭のおかしい奴が【魔力】の異能力を持ってるのかしらぁ」
うるせぇ、真のアタオカ。
仮に実年齢が三十とかだったらただの痛い奴だぞ、その格好。
俺は内心の苛立ちは他所に、近くの椅子に座る。
そして、身体強化を解除。
驚いた様に目を見張る暗王。
「……何が目的ぃ?」
「ほら、もう抵抗しないからさ。その『創世』って組織のこと教えてくれん? 条件によっちゃ無抵抗で寝返るよ。だってどうせ此処で何してもお嬢さんから逃げられないし? なら痛くなくて楽な方がいいよね」
「……まぁいいわぁ、ターゲット君が何か変な動きを見せた時点で異能力を使えばいいものぉ」
なるほど、暗王の異能力は捕縛に向いているのか。
つまり暗王は直接的な戦闘が苦手と。
まぁ俺より断然強いけど。
ただこれで俺の作戦の成功率も上がった。
それにしても……ほんと頭が痛いな。
そう、俺は先程から強化全開の頭をフル回転させている。
そもそも普段の馬鹿な俺じゃこんな作戦思い付く訳ない。
痛みを決して外に出さないようにしながら俺はある時を待つ。
あと、二十秒。
「えっとぉ……まず『創世』について話すわよぉ」
「おー! ……てかその『創世』は『月光』と何が違うんだ?」
あと、十五秒。
バレるなよ。
「そんなの単純———掲げる大義よぉ」
「掲げる大義? えっと……『月光』が日本を陰から守る……だったか」
あと、十秒。
頼む、上手くいってくれ。
「そうよぉ。アイツらは私達異能力者を徹底的に一般人に知られないようにしてるのぉ。そして日本政府も」
「だからそれに反対する奴らが『創世』を作ったのか?」
あと、五秒。
気付くなよ……。
「そうよぉ。私、縛られるの嫌いなのぉ」
あと、三秒。
「へぇ……でも、俺だったら———」
あと、一秒。
「お前みたいな奴———」
あと、零秒。
今だ。
「———【完全に縛りたい】———けどな」
「何言っ———っ!?」
瞬間———暗王の周りを完全に囲う存在を隠した魔力が暗王を縛り付けた。
暗王は抵抗しない。
否、出来ない。
———何もかもが俺の魔力によって縛られているから。
思考も。
呼吸も。
筋肉も。
血液も。
心臓も。
そして、時間さえも。
「ふぅ、危ねぇ……少しでも攻撃されてたらアウトだったな」
正直、コイツじゃなきゃ無理だった。
俺を自分より下と確定させ、従順になった俺をみて気配の感知を怠るような傲慢な奴でないと。
恐らく朱音さんなら常に気を抜かない。
幾ら存在を隠していたとしても、僅かな変化で気付かれていただろう。
それに、体外に影響を及ぼすモノは言葉を発さないと発動しない。
どうやら俺が発動する時は魔力がほんの僅かに言葉に篭るらしい。
つまり、相手が超武闘派なら俺が言葉を言い終わる前に警戒して脱出又は俺の口を塞いでいただろう。
まぁ、そうされる確率を下げるために対話を望んだ訳だけど。
「此処からは俺の魔力が尽きるのが先か、麗華先輩が相手を倒すのが先か」
ただ、一先ずこの賭け———。
「マジで頑張ってくださいよ、麗華先輩」
俺の、勝ちだ。
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何か主人公が頭良さそうに見えるんだが。
因みに普段はただの馬鹿です。
毎日7時と18時頃に上げる予定です。
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