第14話 VSゴブリン

 ———ゴブリン。

 異世界系のアニメ、漫画、ラノベのどれかを見たことのある奴らは絶対に知らないはずがない程にメジャーなモンスターの一体である。


 緑色の体色。

 人間の小学生程度の身長。

 辛うじて局部を隠す、腰に巻かれたボロボロの布。

 木の棍棒や死体から拾った武器などを携帯している。

 知能はそこそこで、力は大人の男性ではギリギリ勝てない程度。

 初心者が狩る雑魚モンスター。


 それが、俺達が認識しているゴブリンの特徴である。

 しかし、俺の目の前に居るゴブリンは———-。


「ギャギャッ!!」

「ぐッ……臭いし、そこそこ力強いな……」


 身体強化を施した俺といい勝負をするほどの実力だった。

 幾ら本気で身体強化してないとは言え、人間の膂力は遥かに超越している。

 

 そんな俺といい勝負をする奴が大人の男性がギリギリ勝てない程度?

 頭湧いてんのか。

 その世界の人間の力は全員ゴリラ並の力持ちだな。


 俺は内心そんな愚痴を吐きながら麗華先輩の方を向くと……六体中五体を相手取っていたはずなのに、一瞬で始末していた。

 麗華先輩は剣に付着した血を飛ばしながら、ゴブリンの大振りな棍棒の連続攻撃を回避する俺に声援を送ってきた。


「柚月君、頑張って倒すのよ! 本気で戦えば十分敵うはずよ!」

「……っ、本気ですか……!? くっ……筋肉痛、まだ治ってないんですけどねえ!」

「ギャギャ?」


 俺はそう叫ぶと、俺の脳天をかち割ろうと振り下ろされる棍棒に手を添える。

 そして一気に手で棍棒を人間離れした握力で掴むと強引に棍棒を横にずらす。

 それによって突然力の向きが変わったことで体勢を崩したゴブリンの脇腹を思いっ切り蹴り飛ばした。


「吹き飛べ———ッ!!」

「ギャウ!?」


 俺の蹴りによってゴブリンが十メートル程吹き飛んでいる間に【身体の限界一歩手前まで強化出来たらいいのに】と願い、明日は動けないほどの筋肉痛を覚悟して全身を強化する。

 同時に俺を覆う青白く薄い膜のようなオーラが濃くなり、身体がより熱くなった。


「よし、一気に決めるぞ……!!」


 俺は思いっ切り地面を蹴って陥没させながら駆け出す。

 先程とは比較にならない速度で迫る俺を、野生の本能なのか、ゴブリンは咄嗟にジャンプをして回避行動を取った。


 しかし、その程度の動きは予測済み。


「【脚力を強くしてくれ】!!」

「ギギャッッ!?!?」


 俺は他の部分の強化率を下げ、代わりに脚力の強化率を限界まで上げる。

 更に速くなった俺は、飛び上がるゴブリンの足を掴み———。


「だりゃあああああああ!!」

「———ッッ!?!?」


 そのまま減速せず、全力で地面に振り下ろした。

 あまりの衝撃にアスファルトの地面が陥没する。

 ゴブリンは肺の空気が全て抜けたのか叫び声すら上げず地面に叩き付けられた。

 しかし……ゴブリンはフラフラと立ち上がる。


「ガギャ……」

「……まだ生きてんのかよ……耐久力化け物だなコイツ」


 俺はウンザリとした気分で、構える。


 倒れている内に何故追撃しないのか疑問に思うだろう。

 だが、今俺が追撃していれば棍棒で俺の頭が吹き飛んでいた。

 

 ゴブリンはフラフラだが……戦意は全く衰えておらず、俺を殺さんと鋭い眼光で睨んでるのだ。

 棍棒はアレ程の衝撃を受けてもしっかりと握っている。


「……次でラストだ。次で決める」


 俺は一步踏み込むと、ゴブリンに向かって全力で拳を振るう。

 対するゴブリンは棍棒を全力で振り下ろしてきた。


 

 念力発動。



 俺の全身から放出された魔力がゴブリンの棍棒に纏わり付き、その動きを停止させた。


「グギャ!?」

「ふんッ!!」


 俺は腕をバンザイした状態で動きを止めたゴブリンの胸を思いっ切り拳を打ち付けた。

 弾き飛んでいくゴブリンは壁に激突すると……グッタリと身体から力が抜け、一ミリも動かなくなった。


「はぁ……はぁ……勝った……」


 俺は身体強化を解き、崩れ落ちる様に地面に寝転がる。


 おかしいな、物凄くこの状態に既視感があるぜ。

 つい最近こんなことあったな。

 

 そう、例えば……スライムとの死闘の時とか。


 俺……めっちゃ雑魚モンスターと死闘繰り広げてんな。

 幾ら何でもダサ過ぎでは?

 

 俺が物凄く複雑な心境で地面に寝転がっていると、麗華先輩が優しい笑みを浮かべて言った。


「よく頑張ったわね。まさか一人でリーダー核のゴブリンを倒せるとは思ってなかったわ」

「…………リーダー級?」


 え、リーダー級って……そのモンスターの等級より一つ上の上位個体のアレか?

 確かゴブリンが最下級下位モンスターだったかから……最下級中位?

 確かに若干身体が大きい気がする……え、マジ?


 俺が混乱しながら俺の倒したゴブリンと麗華先輩の倒したゴブリンを比較する。

 すると……確かに俺が倒したゴブリンの方が大きい。

 通りで物凄く力が強かったわけだ。


「———麗華先輩、酷いです」

「筋肉痛、完全に直してくれる人呼んであげるわ」

「ありがとうございます、マジで感謝します」

 

 俺はやっとこの痛みからおさらば出来ると分かり、緊張の糸が解れてそのまま気絶してしまった。



 因みに、本当に筋肉痛も完治してもらった。

 とても身体が軽くて最高です。

 

 

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