第13話 これがフィクションとリアルの違いか。

「———つまり、俺と偽物の恋人となって男を避けるための良い傘として使いたいってことですか?」

「まぁ極端に悪く言えばそうよ。毎日毎日知らない男子に告白されて面倒なのよ。絶対誰かと付き合うことなんてあり得ないのに、ね」


 俺の確認の言葉に、麗華先輩は少し疑問を残すような感じで言った。


 因みに何故俺が麗華先輩のいる生徒会室に居るかというと……しっかり学校で大炎上した俺は、終始嫉妬や羨望の眼差しを只管ひたすら向けられながら午前中の授業を終え、逃げるのと『恋人のフリ』という言葉の真意を訊くためだ。

 正直教室でご飯を食べる勇気など俺にはないのも大きな理由の一つであるが。


「なら別に俺以外でも良くないですか?」


 わざわざ俺にする理由がいまひとつ理解できない。

 正直俺より見た目良くて性格良くて有能な男は腐る程いると思う。


「麗華先輩の美貌なら、どんな男もイチコロだと思いますよ?」

「それじゃあ本末転倒じゃない。それに同じ界隈の人でないと何かと面倒なのよ」

「まぁ……それは確かに」


 麗華先輩は『月光』の最高幹部だから、もしもの時はデート中であれ何であれ、彼氏なんか放って行かないといけないんだよな。

 そんな一刻を争う時に、相手が異能力者じゃなかったらデートを抜ける言い訳とか考えないといけなくもなるわけか……。


「それに比べて柚月君なら同じ組織で異能力者同士だし、私的には柚月君が現時点で一番接しやすいもの」

「うーん……」


 そう言われて悪い気など勿論しないわけだが……如何せんデメリットがなぁ。

 勿論俺が大学生とかなら、大して他の人と関わらずとも何とかなるから即答で了解するよ?

 だってこんな美人とフリとは言え付き合えるなんて一生縁のないことだと思うし?


 だが、今の俺は必ず何かしらでクラスメイトとは関わらないといけない高校生。

 そんなクラスメイト達に毛嫌いされていると色々と面倒な事になるなど容易に想像できる。


「あの、失礼なのは承知で訊くんですけど……俺が麗華先輩と付き合って何のメリット———電話?」

「あら、柚月君もってことは……組織からね」


 俺の言葉を遮るように俺と麗華先輩のスマホが鳴る。

 どうやら組織からの様だ。


 俺が電話に出ると、麗華先輩が自分のスマホの電話を切って俺に近付く。

 ただ近付かれると色々緊張するので、周りに誰も居ないしスピーカーにした。


「もしもし、石田柚月です」

『あ、柚月様ですね! そちらに麗華様はいらっしゃ———』

「私も居るわ。それで用件は何? 近くでモンスターでも現れたのかしら?」


 結構大事な話をしていた時に邪魔されたからか、少し不機嫌そうに麗華先輩が答える。


 因みに俺は組織でも最高幹部直属の部下になったせいで新人なのに『様』付けで呼ばれる。

 なんでも直属の部下は優秀な者しかなれないらしく、階級も上から『首長』『最高幹部』『副幹部』『最高幹部直属組織員』『上級組織員』『中級組織員』『下級組織員』『訓練生』といった風な感じでまさかの四番目らしい。


 新人で雑魚のこの俺がだぞ?

 何かもう申し訳ない気持ちで一杯だわ。

 

 なんて俺が考えている内に話は終わったらしく、麗華先輩が電話を切ってくれる。

 

「ありがとうございます。ところで……やっぱりモンスターですか?」

「……そうよ、タイミングが悪いことにね。はぁ……あの話はまた後でしましょうか。どうやら近くで丁度いいモンスターが魔力に釣られてやって来たらしいわ」

「丁度いい、ですか?」


 何が一体丁度いいのだろうか。

 俺的には魔力のせいで勝手にモンスターが寄ってくるのは嫌なんだが。

 てか、意地でも恋人のフリをしてほしいんだな。


「そうよ。丁度いいのよ、柚月君のレベルにね」

「…………え?」


 俺がマヌケな顔を晒す中、麗華先輩はクスクスと笑っていた。










「———これも私と恋人のフリをするメリットの一つよ」

「いや、これは組織の人間である限り変わらないですよね?」

「……」


 俺の指摘に麗華先輩が無言で少し頬を膨らませながらジト目で俺を睨んできた。

 物凄く可愛いが……そんなことで簡単に釣られると思ったら大間違いである。


 因みに現在俺達は、絶賛学校を抜け出してモンスターの現れた場所に走って向かっていた。

 何で走っているかと言えば……何でもモンスターが現れた場所は異能力者以外見えず入ることも出来ない結界を張っているらしく、モンスターの自体の等級も低いためそこまで急がなくてもいいとのこと。


 どおりで一般人だった頃の俺がモンスターを人生で一度も見たことが無いわけだ。

 そして俺がスライムに会ったのは、俺が異能力者になったせいで結界を通り抜けていたかららしい。


「———着いたわよ」

「……こいつ等ですか……? 物凄く臭いんですけど……」


 俺は目の前で麗華先輩を見ながら醜い笑みを浮かべている緑色の汚い人型モンスター達を眺める。


 物凄く臭い。

 鼻が曲がりそうなほど臭い。

 

 俺が顔を歪めながら訊くと……麗華先輩は別の意味で顔を歪めながらも慣れたように手元に剣を召喚した。

 …………手元に剣を召喚した?



「こいつ等は———ゴブリンよ。私が一番嫌いなモンスター」



 ———どうやらこの臭いコイツ等が、ファンタジーご定番のゴブリンらしい。

 マジで臭すぎて鼻がもげそう。


 

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