第12話 詰みそうな学校生活

 すいません、遅れました。

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「———全身痛いんだが……」

「何よ、筋トレでもしたの? アンタにしては珍しいじゃない」


 俺がぎこちない歩きで玄関に向かっていると、我が母親が不思議そうに見てくる。

 親からの詮索程面倒なことはないので、取り敢えず話を合わせることにした。


「そそ。俺もそろそろモテたくなったんだよ」

「へぇ……前は厨二病になったり今回はモテたくて筋トレ……アンタ頭でも打ったのかしら?」

「実の息子にひでぇ言い草だこと」

「実の息子だから言うのよ」

「はいはい学校行ってきまーす」


 普段ならもっと言い返したりしていたかもしれない。

 だが今は、身体が痛過ぎてそんなことに意識を割く余裕がなかった。

 俺は適当にあしらって玄関を出る———。


「———は? いや……は?」


 出た瞬間、目の前に止まっていた黒塗りの如何にも高そうな車を見て混乱する。

 

 な、何だよこの車……ウチの両親遂に借金でもしたか?

 完全に見た目ヤクザの車なんだが……。


「か、母さーん! 家の前にヤクザが止まってるけど借金でもし———」

「———ヤクザみたいな車で悪かったわね」


 …………もっと分からん。

 何で貴女が此処にいるのよ。


 俺はギギギッ……という効果音が聴こえてきそうな程ぎこちなく振り向いた。

 勿論全身全霊最高傑作の愛想笑いも忘れずに。


「……おはようございます、麗華先輩。今日も清々しい朝ですね」


 振り返れば車の後部座席の窓が開いており、そこからムッとしてジト目で此方を見る麗華先輩がいた。


「おはよう、柚月君。それで、他に何か言うことは?」

「……ごめんなさい」

「いいわ、許してあげる。でも……次間違えたら許さないわよ?」

「はい……」


 笑顔の圧力に軽々と屈した俺は、素直に頷く。

 すると意外にもあっさりと許してくれるではないか。

 

 やはりこういう時は、無駄に言い訳なんてしない方がいいらしい。

 まぁ釘はしっかりと刺されたが。


「ところで……麗華先輩は何の用なんですか? 何か聞かないといけないことでもありました?」


 俺は麗華先輩がここに来た意図がイマイチ分からず首を傾げる。


 昨日、俺が家に帰る時に首長が一緒に付いて来て、俺を雇う事を親に伝えていたので、特に伝え忘れていることなど無いと思うのだが……何か新しい報告だろうか?

 てか、ウチの母さんあんな怪しい組織の言うことをよく一ミリも疑わなかったな。

 確かにやってることはしっかりと日本の防衛だけど……異能力のことは伏せられてたし明らかに怪しいやん。

 少しくらいは疑え。

 首長もあまりに飲み込みが早くて若干引き気味だったのは鮮明に覚えてるぞ。


 麗華先輩は苦笑しながら、昨日のことを思い出してテンションが下がった上、何がしたいのかさっぱりのせいで頭に『はてな』を大量に浮かべる俺に言った。


「———別に組織のことで報告することは無いわ。ただ、柚月君は私の正式な部下になったんだし……一緒に学校行きましょう?」

「因みに拒否け……」

「勿論無いわ。さあ、車に乗って?」

「……はい……」


 こうして俺は、仲良くなるという名の下に麗華先輩と一緒に行くことになった。

 









「———麗華先輩、車ありがとうございました。気持ちよかったです」

「そう? 喜んでくれたなら良かってわ」

「でも、それをマイナスにしてしまうほど気まずいです。視線に溶かされそうです」


 結局俺を乗せた車は、学校の正門の前に停まった。

 そこからさもいつも通りと言った雰囲気を醸し出しながら車を降りる麗華先輩の後ろを、なるべく目立たないようにそっと降りたのだが、まぁ当たり前というか案の定というか……普通に沢山の生徒に見つかって現在進行系で猛烈な数の視線を浴びていると言うわけだ。


「おい、麗華先輩の車から誰か降りてきたぞ!」

「しかも男じゃねぇか!?」

「だな……誰だアイツ? やっちまうか?」

 

 やめて、殺さないで。

 

「相変わらずお美しい麗華さ…………は?」

「誰よアイツ。麗華様に金魚のフンが居るじゃない」

「ふふっ、今直ぐ消去しなきゃ」

 

 やめて、消さないで。

 それと金魚のフンは酷くない?

 必死に生きてる金魚に謝れよ。


「麗華先輩……皆んな殺気立ってるんですけど」

「そうみたいね」

「そうみたいって……」


 周りに視線を巡らせて何事もなく歩き始める麗華先輩。

 そのあまりの他人事な態度に俺は少し引いてしまうが……何を思ったのか突然麗華先輩が此方を見て美しい花のような笑みを浮かべた。


「ねぇ……柚月君」

「何ですか? 助けてくれるんですか?」

「私、良いこと思い付いたの」


 俺の懇願の瞳と言葉を無視して話し続ける。

 それと、良いことが俺にとってはあまり良くないことだと何となく分かる自分が怖い。


「……因みに良いことって……?」

「今後一緒に登校するし、一緒に仕事もするのだから———」


 麗華先輩は悪戯っぽい笑みを浮かべると……俺の腕を抱き込み、若干俺より低い身長を活かして上目遣いで言ってきた。




「———私と恋人のフリ……しないかしら?」




 俺氏———学校生活詰んだ模様。




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