第10話 心読まれながらの会話って変な感じだな

「———ち、因みにどの程度の頻度でやって来るんですかね……?」


 俺が恐る恐る訊くと、麗華先輩は少し考える素振りをした後……突然机を三回指で叩いて音を出した。

 

 な、何してんだ……?

 もしかして、分からないから誤魔化し———えぇ……?


 戸惑う俺の目の前で突然机が光りだしたかと思えば、麗華先輩が机を指で叩いた所から三回光の波紋が生まれる。

 その波紋が机に広がると同時に、机に様々なデータや統計を表すグラフが映し出された。


「こ、これは……」

「コレがここ数年間の日本で一日に現れるモンスターの個体数を示したグラフね。そしてコレが、ここ一週間の出現個体数と……出現した地域を示したグラフよ」

「……嘘ですよね、流石に」

「あら、嘘なわけないじゃない。全部本当の数値よ? これで私が心して聞いてって言った理由が分かったかしら?」


 ……分からされましたわ。

 いや何だよ、ここ二日の出現数一,五倍でその現れたモンスターの内の八割がウチの住んでる所の周辺ってどうなってんのよ。


 俺が愕然としながらグラフを眺めていると……笑いながら、けれども慰めるように朱音さんが俺に肩を組んできた。


「まぁそんな落ち込むなよ、柚月。大丈夫、そこらのモンスターなら片手間でも倒せるようにアタシが鍛えてやるからな」

「あ、朱音さん……せめて死なない程度で鍛えてくださいよ」

「お、それは約束できんな。でも大丈夫、ウチの幹部の中に回復系が得意な奴がいる。死んで五秒以内なら蘇生まで出来る腕利きだぞ?」


 いやそういう問題じゃないねん。

 「治るからじゃあ大丈夫かー」とは絶対ならんだろ。

 俺は死にたくないって言ってんだけど。


 俺は、朱音さんのフォローしているようで全くフォロー出来ていない言葉に若干恐怖を抱きながらも……案外それ以外に方法はないのかと何故か思い始めてきた。

 正直この組織に入る時点である程度の危険は承知済みなわけだし、逆に力の使い方を教えてくれるなら本当に何かの片手間程度の容量で近寄ってくるモンスターを倒せるようになるのかもしれない。


 ……結局は俺次第やないかーい。


 そんなクソくだらないツッコミを自分に入れつつ、再び二人の美人お姉さんのおもちゃに徹することとなった。











 ———二時間後。

 

 俺が案の定抵抗するまでもなく麗華先輩と朱音さんに玩具にされていると……二人の男女が突然部屋に現れた。

 それも、まるで瞬間移動でもして来たかのように、唐突に俺の視界に姿を表したのだ。


 おぉ……これも異能の力なのか……?

 転移系だと思うけど……そう言えば何気に自分以外の異能見るの初めてだな。


 皆んなどんな異能力を持っているんだ、と目を輝かせていると……見た目三十代くらいの男と話していた二十代くらいの女が男にお辞儀すると、一瞬にして姿を消す。

 結局一人残った男は、此方……正確には麗華先輩を見ながら口を開いた。


「———ごめんね、麗華君。幹部たちはキミら以外仕事を与えちゃってね……今日は来れないんだ」


 男がそう言うと、麗華先輩の眉がピクピク痙攣し、漫画で言うところの『ゴゴゴゴゴゴ……』という威圧感が身体から溢れ出ていた。


「へ、へぇ……私達をこれ程待たせておいて、他の幹部は来られないですって? 首長、私のこと嘗めてるのかしら?」

「いやいやそんなつもりは全く無いんだよ。ただモンスターが異常にこの街に現れたから幹部を動かさざるを得ない状況に追い込まれてしまってね……何人かは音信不通だけど」


 どうやら目の前にいるこの男が『月光』の中で最も位の高い人の様だ。

 ただ、正直彼が醸し出す雰囲気的に全然強そうに見えない。

 何なら麗華先輩とか朱音さんの方がよっぽど強そうなオーラを纏っている。


「よく気付いたね、石田柚月君。僕の力は残念ながら戦闘向きじゃないんだよね」

「……っ、何で俺の考えが……」


 俺、一言も言葉にしていないんだが……もしかして、読心的な異能力なのか?


「正解。理解力も推理力も高くてとても助かるよ」

「おい首長、あんまりその能力は初対面の奴に使うなよ」


 朱音さんが厳しく避難するように言うが、男はどこ吹く風で聞き流していた。

 そして男は一番大きくて荘厳な椅子に座ると……俺に向けて笑みを浮かべた。


「一先ず……遅れて悪かったね、石田柚月君。僕も色々とやらないといけないことが立て込んじゃってね」

「あ、いえ、御二方に良くしてもらっていたので全然大丈夫です」

「ははっ、仲が良くなってくれて嬉しいよ。どうしても力の強い異能力者は仲があまり良くないからね」


 そうなのか……それにしては麗華先輩と朱音さんは結構仲が良さそうなんだけど……。


「二人は幹部の中で一番年齢が近くて仕事を共にすることも多いからね」


 相変わらず思考を読まれながら会話をするのには全く慣れず、違和感しか無いが……まぁ恐らく悪い人ではないと思う。

 全然首長のことは知らないのでまだはっきりと断言することは出来ないが。


 

「まぁそれはおいおい仲良くなって行こうよ。でも取り敢えず———ようこそ、我が『月光』へ。歓迎するよ」



 こうして俺は、非日常へと両足を突っ込んでしまった。

 


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