第8話 まさしく男心をくすぐる場所

「———じゃあ……入るって言葉も聞けたことだし、今から行きましょうか」

「…………はい? 行くって何処に?」

「勿論、組織に」

「学校は?」

「勿論早退ね。でも大丈夫。だって私、生徒会長だもの」

「素晴らしいですね、生徒会長って。それに柔軟な考えをお持ちの白百合先輩も」

「でしょう? あと、白百合じゃなくて麗華でいいわ。それじゃあ行くわよ」

「最高です、麗華先輩。最低でも五年は付いて行きます」

「ふふっ、何よその中途半端な数字」


 ———こんな会話をした後、外装だけ普通でそれ以外めちゃくちゃ高そうな車に乗って揺られること三十分。

 どうやらようやく目的地に到着したようで、車が止まり、運転手だったスーツ姿の大柄な男が後方座席の扉を開けて頭を下げた。


「麗華様、柚月様、到着致しました」

「ご苦労だったわ。相変わらず良い運転技術ね」

「滅相もございません」

「ほら、柚月君も降りて」

「あ、はい」


 俺が二人のやり取りをぼんやりと眺めていると、白百合先輩に急かされ慌てて車を降りる。

 降りると同時に俺は目の前の光景に驚きのあまり唖然とした。


「———ふ、古びたアパートだと……!?」


 そう、まさに厨二病が好きそうな適度にボロいアパートが目の前に建っていた。

 恐らくこれは地下があって、そこに沢山の組織で働く人が居たり目を見張るくらいのコンピュータやモニターなどの機械類が設置されているのだと思う。


「ふふっ、ボロいのは見た目だけよ?」

「勿論分かってますよ、麗華先輩。本当は地下にすごい施設があるんでしょう?」


 俺が期待に胸を膨らませ、目を輝かせながら訊くと……麗華先輩が驚いたように瞬きをした。

 

 よし、その反応は勝ち確ですわ。

 これ絶対地下施設やん、めっちゃ楽しみなんだけど!


「よく分かったわね? その通りよ。ほら、こうして……」

「おぉ!」


 麗華先輩がアパートの一階のインターホンを鳴らすと、突然インターホンから横に長い光が射出され、麗華先輩の全身をスキャンするように三往復した。

 そのあまりの男心をくすぐるカッコ良さに思わず歓喜の声が漏れる。

 更に更に……。


『スキャン完了しました。No.5———【氷炎姫】白百合麗華様、おかえりなさいませ』

「お、おぉぉぉぉ……!!」


 無機質な女性的な声が、如何にも厨二病が好きそうな二つ名の付けられた麗華先輩の名前を呼ぶ。

 そしてインターホンのあった壁が突然長方形に押し込まれるように動き、引き戸の様に横に移動して中からよく映画とかで見る基地みたいな近未来的な構造の廊下が現れた。

 光が床と天井から発せられており、暗さなど一ミリも感じない。


 お、おっふ……これはマジで凄え……。

 いや、流石月給億円出せる組織だわ。

 あまりの凄さに脱帽だよ。


 もう興奮が収まらない俺に、麗華先輩がクスクスと楽しそうに笑った。


「ふふっ、男の子ってやっぱりこういうの好きなのね」

「勿論ですよ、麗華先輩。男は結局こういうテクノロジー的な物が好きなんですから。勿論俺も大好きです」

「———なら、これからもっと興奮すると思うわよ?」


 だから、早くおいで? と言わんばかりに廊下を進んで行く麗華先輩を、俺は期待に胸を膨らませながら追いかけた。













「おわぁ……やべぇ……」


 中に入った俺を待ち受けていたのは……もうあまりの凄さにただ只管ひたすら『すげぇ』しか言葉が出ない程の光景だった。


 まさにドラマで見る様な超巨大モニターを始めとした大小様々なモニター。

 何が何だか分からないが、至る所に所狭しと設置されたボタンのある机。

 そんな超ハイテクなモノを使いながら忙しなく動く組織の人々。

 

 どれも一度は画面の中で見たことのある光景であり、同時に自分が絶対に現実では見ることはないだろう光景。

 それが、少し手を伸ばせば届きそうな程すぐ目の前にあった。


 おいおい……こんな厨二の夢みたいな空間マジで現実にあるのかよ!?

 俺、こんなのフィクションの中だけかと思ってたぞ!


「麗華先輩っ! ここは異能力者の居場所とか異界の生物の発生とか生態の特徴とかを調べる所ですか!?」

「ふふっ、そうよ、正解。それにしても……物凄い楽しそうね? 私もこの組織の一員だから、喜ばれると少し鼻が高いわね」


 そう言って微笑む麗華先輩は、珍しい白銀の髪と紺碧の瞳と相まって女神の様だった。


「……っ、そ、それはよかったです」


 あまりの美しさに見惚れそうになるも、あまりジロジロ見るのも失礼かと思い、直ぐに目を逸らす。

 そんな俺の行動すら分かっていたかのように、麗華先輩は俺に向けて微笑ましそうな表情を浮かべていた。


 くっ……これが年上の余裕と言うやつなのか……とてもじゃないが俺では敵わん。

 何で男が年上好きな人が多いのか、少し分かる気がする。


 そんなことを考えていると……麗華先輩が申し訳なさそうに言った。 


「あの……後半に水を差すようで悪いのだけれど……そろそろ契約の話に移ってもいいかしら?」

「あっ……す、すいません! あまりに凄くて少しはしゃぎ過ぎちゃいました……」


 あー、恥ずかし。

 こんな年上美女の前でめっちゃ子供っぽい所見られるの結構羞恥心エグいな。

 

 俺は穴があれば入りたいと思ってしまうほどの羞恥に、思わず顔を赤くしながらぺこぺこ頭を下げた。

 しかし、麗華先輩は物凄く心が広いらしく、迷惑をかけた俺を責めないのだ。

 それどころか……。


「ふふっ、全然良いのよ、喜んで貰えて何よりだわ。これから貴方も此処で働くのだから、他の所は後で私が案内してあげるわね」


 そう言ってふんわりと笑いかけてくれる。

 俺はそんな姿に見惚れながらも感謝の言葉を述べる。


「あ、ありがとうございます!」


 何だよここ……もしかしなくても神か?

 こんな素晴らしい場所をとんでもなく美人な先輩に案内して貰えるって最高じゃん。

 多分、これのためなら給料半分でも全然いいわ。


 ———何て、俺は浮かれに浮かれまくりながら麗華先輩について行ったのだが……この後、物凄くショッキングなことを告げられるなど、この時の俺は微塵も考えていなかった———。


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