第7話 いや異能力って何だよ
———これは一体どういった状況なのだろうか。
俺は、言葉にしがたい緊張感に耐えながら、対面に座る白銀の美少女をぼんやりと眺めて心の中で呟いた。
そして俺を生徒会室に連れてきた張本人である白銀の美少女———白百合麗華先輩は、俺をほっぽって誰かと電話している。
……一瞬でも告白かも、なんて思った俺を張っ倒してやりたい。
全く関わりのない俺にあの白百合麗華様が告白するわけないわな。
そんなの全く考えなくても分かるわ。
ただ、今頃クラス内———果てには学校内で「モブ顔の名前も分からん奴があの白百合麗華先輩に指名された」と広まっていることだろう。
その中ではガチ恋勢や噂大好きな奴も多数いるわけで……変な邪推とかされるのだろうか。
なんて俺がぼーっと考えていると……いつの間にか電話を終え、お茶とお菓子(めちゃくちゃ高そうな和菓子)を出してくれた白百合先輩が俺を見ていた。
その紺碧の瞳に晒された俺は、あまりの美しさに一瞬息の仕方を忘れてしまうが、直ぐに立ち直って本題を此方から訊くことにした。
「……白百合先輩は何で俺を呼んだんですか? 一応全く関係ないですよね、俺達」
「そうね、確かに今までは全く関係なかったわね。でも……これからはそうではなくなるわ」
…………え?
それは一体どういうことですかね?
少し口角を上げ、老若男女全ての人間を魅了しそうな笑みを浮かべる白百合先輩の言葉に困惑する。
『これからはそうではなくなる』……?
つまり、これから俺達は何らかの関係になるということで……ま、まさか……!?
俺はつい先程自分で否定したばかりの一つの考えが再び頭に浮かんだ。
あまりにもありえない考えだが……残念ながらもうこれ以外のモノは俺の出来の悪い成長不足の脳みそでは思い付かなかった。
「……これからはそうではなくなる、とは一体どういう事で……?」
俺が恐る恐る訊くと……白百合先輩は椅子から腰を上げて突然前のめりになって俺の両手を握り、パニックになった俺に告げた。
「———石田柚月君、私の所属する対異界生物・異能力組織———『月光』に来ないかしら?」
………………はい?
「……つまり、この世界にもファンタジー的な生き物とか超常現象的な能力を持った異能者が居て、それを倒すための組織があると……」
「そうよ、たった一回の説明でよく理解できたわね。偉いわ」
えへへ~~それほどでも……じゃねぇんだよ!!
あの超絶美少女の白百合先輩に頭を撫でられるという奇跡体験で思わず精神年齢が著しく低下してしまったが、騙されてはいけない。
今目の前にいる美少女は、俺を平穏な日常から危険な非日常へと導こうとしているのだ。
危険が大嫌いなこの俺を。
「……その『月光』って組織が何なのかは分かりましたけど……何で俺を勧誘するんですか?」
まぁ大方もう聞かなくても理由は分かるんだけどさ。
そんな俺の予想通り、白百合先輩はあっさりと述べた。
「勿論貴方が異能力者……正確にはその中でも特殊な【魔力】と呼ばれる力を宿した特別な人だからよ」
「この【魔力】ってそんなに特殊というか……特別なんですか?」
だってこの魔力、念力と身体強化程度の事は出来ても、所詮俺の身体の限界以上の事は出来ないんだぞ?
それに魔法が使えるかなんて分からないし。
そんな感じの思いで言った言葉だったのだが……白百合先輩は大きく目を見開いて驚愕の表情を見せていた。
しかし直ぐに真剣な表情になると、分かっていない俺に優しく教えてくれる。
「まぁ今まで異能力と無縁な生活をして来たんだし、しょうがないわよね……。柚月君」
「は、はいっ!」
突然下の名前で呼ばれたために思わず吃ってしまうが、白百合先輩は大して気にせず尋ねてきた。
「柚月君が考える異能力って、自由が効く力だと思うかしら?」
「……まぁある程度は縛られるんじゃないですかね?」
だって【風の刃】とかの異能だったら、大きさとか形、速度は変えれても、大まかな仕組みは変えれないはずだ。
簡単に言えば……【風の刃】が【炎の刃】に変わることは絶対にありえない、ということである。
白百合先輩は、俺の回答が気に入ったのか顔を綻ばせては再び俺の頭を撫でてきた。
わーうれしー!
思わず惚れちゃいそう!
……まぁ絶対惚れませんけど。
どうせ叶わないんだから。
「うん、素晴らしい答えね。正しく柚月君が言った、その通りよ。どんな異能力であろうと、異能力である限りある程度縛りがあるの。でもね、柚月君の持つ【魔力】って言う異能は———」
「自分の限界以外に縛りがない……?」
「そう! それが【魔力】の特異性であり、強みであると同時に弱みでもあるのよ。だからこの異能力を持った人は経験を積めば積むほど、様々な異能を見れば見るほどに強くなっていくの」
……なるほど。
確かにそれはとんでもなく強いな。
この異能力は大器晩成型だが、始めの内は組織でみっちり鍛えて、段々実践をこなしていけば……どんな状況にも対応できる万能な異能力者になれるというわけだ。
俺がやっと自分の身に宿る【魔力】と呼ばれる異能力の凄さを理解したところで、再び白百合先輩が問い掛けてきた。
「それで……私達の組織に入る? 入ってくれたら勿論強くするし、給料だってあるわ」
「……因みに幾らくらいですかね……?」
別にお金に釣られたわけじゃないぞ。
ただ……そう、危険なことをするんだからそれ相応のお金を貰わないとやっていけないということだ。
心の中で弁明をする俺に、白百合先輩は言った。
「そうね……最初の頃は、大体月五百~千万円よ。昇格すれば一億、なんてこともあるわね?」
「———入ります、是非入らせてください!!」
俺は白百合先輩の手を握ると、速攻頭を下げた。
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