第2話 俺の時代が来た……!!
「———ふむ……ホントに何なんだよコレ」
俺は、目の前でペットボトルを浮かせている青白いオーラ———【魔力】(俺が呼んでいるだけ)を眺めながら零す。
現在学校はお昼休みで、普段なら友達と昼飯を食べている時間帯だが……今は人気のない旧校舎の更に最奥に位置する空き教室にやってきていた。
ここなら魔力を使ってもバレないし、旧校舎ということもあり、誰か来れば廊下の床の軋む音で分かるので更に見つかりにくくなるという、正に一石二鳥な場所である。
「まぁ多少埃っぽいのを我慢すれば、だけど」
ただ、魔力という謎に満ちて、もしかしたら俺の日常を楽にしてくれる代物を調べるためと考えれば余裕で我慢できる。
どうせ貰ったなら有効活用しようぜって話だ。
「さて、有効活用とは言ったものの……この魔力……どうやって使うんだ?」
空き教室で一人、ペットボトルを浮かせると言う神業を発動させながらうんうんと唸る。
今のところ使えるのは念力っぽい何かのみで、他に何が出来るのか分からない。
そもそもこの念力とか言っても、ただ魔力を対象の物に伸ばして纏わして動かしているだけである。
本物の念力がどんなモノなのか知らないのでそもそも念力なのかすらも分からないが。
俺は自宅にあるラノベの中での魔力の運用方法を思い出してみる。
うーん、やっぱ魔力と言えば魔法だよな……。
ただ、正直魔法なんかあっても全く使い道がない。
だって日本はラノベの中のような激戦区でも危ないモンスターが居るわけでもないからである。
何なら日本は世界でもトップクラスに安全な国と言えるだろう。
てかもしそんな化け物が居たら、今頃世界の幾つかの国は滅んでるよきっと。
何なら日本なんて言う島国はとっくに沈んでるだろ。
なんて考えていると、一ついい案が浮かんだ。
「あ、身体強化やってみるか」
そう、ラノベ御馴染みであり平和なこの世界でも使い道が多々あるであろう『身体強化』である。
これさえあれば、まず体力テストで負けることはないだろう。
更に言えば、肉体労働も楽に出来て、陸上選手とかになればオリンピックにも出られるかもしれん。
「ふふ……最高だな、身体強化」
俺は口角が上がりそうになるのを抑えながら、ラノベでの身体強化の使い方を取り敢えず真似てみる。
まず心臓辺りの魔力を意識して全身に回す。
魔法に比べてややこしいことが少ないからか、将又イメージが簡単だからか分からないが、案外簡単に全身に魔力を纏うことが出来た。
全身が青白いオーラに包まれている。
「これで……身体強化出来てんのか?」
正直全く身体能力が上がった気がしないんだが。
試しに軽くジャンプしてみるが……案の定普段の俺と一ミリも変わらない。
他にも机を持ち上げたり壁を軽く殴ってみたりもしたが、全て今までと何ら変わりはなかった。
ちゃんと重たいし痛い。
「……まあそうだよな。そんな簡単にできるわけ無いよな」
少し落ち込んでしまったが、寧ろコレで出来たら「ラノベの主人公より俺の方が才能あるんじゃね?」とか調子に乗ってたと思うので丁度良かったのかもしれない。
何事も慢心しないことが一番だ。
「うーん……でも何で駄目なんだ? もしかして念力専用とか?」
まあ正直念力だけで十分だと思わないこともないが……一度でいいからスポーツ万能のイケメンに勝ちたい。
ただ、俺が必死で努力したところで素の身体能力に差があり過ぎるので、魔力がなければ負け確定である。
「…………あ、そう言えば身体強化って全身の細胞をどうちゃらこうちゃらとか……」
何のやつだったかは忘れたが、確かそんなことが書いてあった気がする。
しかし、全身の細胞に魔力を込めるとか纏わせるとか言われても、俺がそもそも細胞一つ一つを知覚してないのに出来るわけがない。
それにもし出来たとしても副作用がどんな感じで出るかもイマイチ分からないのも難点の一つだ。
「はぁ……使いたかったな、身体強化。このオーラが勝手に細胞に作用して身体を強化してくれればいいのに……」
なんて思った刹那———。
「お、おお……?」
突然全身が燃えるように熱くなるが、反対に頭は恐ろしく冷たくなり冴えている。
更に今まで感じていた身体の重力が消え、何でも出来そうな全能感が俺の意識を支配する。
ゆらゆらと揺れていた青白いオーラは、俺の身体の表面に薄い膜のように覆うと、それ以外全て体内へと戻った。
「え……もしかして出来た?」
俺は恐る恐るペットボトルのキャップを握る。
『グシャッ』と言う音と共にキャップが紙の様にあっさりぐしゃぐしゃになった。
もはやキャップだった頃の姿は見る影もない。
「……」
俺は無言で空き教室を出ると……五〇メートルは裕にありそうな廊下を本気で走る。
『ドンッ』と床を蹴る音と同時に、五〇メートル以上ある廊下を体感僅か二、三秒で端から端まで走り切った。
踏み込んだ場所だけ床に綺麗に穴が空いている。
「…………フフ……フフフフフフ……フハハハハハハハハ———ッ!!」
思わず高笑いが漏れ、不気味な笑い声が旧校舎に響くが、どうせ誰も居ないので気にしなくても結構。
俺は拳を握って何度もガッツポーズしながら喜びを露わにした。
「よし、よしッ! 何かよく分からんけど出来たぞ……ッ!! クックック……遂に来たぞ……俺の時代が……!! これでイケメン万能野郎の高木に勝てる!! しゃあああああああ!! 身体強化最高! 魔力最高!! 誰か知らないけど、俺に魔力をくれてありがとう! フハハハハハハ!!」
俺は結局、そんな感じで授業開始残り五分のチャイムがなるまでずっと喜びの雄叫びを上げ続けていた。
「……コレが、最強能力の一角———【魔力】の力……。確かに凄まじいわね……」
俺がこの時、実は誰かに見られていたことなど知る由もない。
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