現代世界で【魔力】を手に入れたら、ファンタジーに巻き込まれるらしい

あおぞら

第1章 魔力に目覚めた高校生

第1話 魔力を手に入れる一般人

 二〇二三年、日本。

 何の記念日でも祝日でもない普通の平日の朝。



 俺、石田柚月いしだゆずきは———【】に目覚めた。



 突然何言ってんだコイツ、と思うかもしれない。

 寧ろそうだと思ってくれ。

 俺の精神安定剤になるから。


 しかし……魔力に目覚めたのと言うのは決して俺の頭がおかしくなったとかでも夢でもない。


 気付くきっかけは特に何ということもなかった。

 朝起きたら心臓辺りに違和感を感じ、不思議に思っていると……突然右手から、暖かくもあり冷たくもある青白い可視できるオーラのような半透明な何かが現れた。

 それは触れても火傷とか言う外傷も起きず、ただ見えるのみ。


 以上、それだけ。

 後は適当に馴染みのある【魔力】と言う名前を付けただけだが……まぁ大体同じ様なものなのではないだろうか。


 そしてそんな全厨ニ病患者が喜びそうな魔力に目覚めたわけだが、俺の最初の反応はと言うと———。


「…………」


 ———無、である。


 何も感じない。

 嬉しいとも、面倒だとも、面白そうだとも、何も。

 現実味がないせいか何の感情も湧かず、ただただ無心に消したり再び顕現させたりを繰り返すだけだった。


 だってさ、魔力があったところで『うおぉぉすげぇ!! ……うん、で?』としかならんだろ。

 いや、確かに便利かもしれんけどさ……万が一バレたら絶対色々と面倒なことが起こりそうだし。

 俺的にはそんな面倒な事も危険な事もしたくないわけよ。

 てかそもそもの話、この変なのが魔力なのかすら分からないんだし。


「こういうのは真の厨ニだけに授けろよな全く……俺はラノベで見ているだけで満足だっつーの」


 俺は棚に並べられたラノベに目を向けながらため息を吐く。

 確かに俺は、人並みより少しオタク気質なところはあるが、それ以外特に何の変哲もない普通の一般高校生ピープルであり、こんなよく分からん力が覚醒するような人間では断じてない。

 何ならこんなのより顔をイケメンにして欲しかった。


 青春時代に一度はモテたい人生だったよ。


 何故俺が……という違和感が全く拭えないものの、今考えていても仕方ない。

 この不思議な力の研究をするにも、今日は学校だし、朝ごはんとか支度とかしないといけないから時間もない。


「早くご飯食べなさーーい!!」

「あいよー、今行くーー!!」


 俺は一階から声を掛けてくる母親に返事をしながら、ベッドから出て青白い魔力を消し、いつも通り朝食を摂るために下へと降りた。

 








「———なぁ母さん、俺が魔力に目覚めたって言ったらなんて思う?」

「は? アンタ厨二病が再発でもしたの?」

「さ、再発とか言うな! もしもだよ、もしも!!」


 朝ごはんはシンプルなもので、食パンの上に目玉焼きが乗っているオンザライスならぬオンザパンだった。

 そんな目玉焼き食パンをもそもそと食べながら聞いてみたのだが、予想以上に手酷い言葉が帰ってくる。

 俺は直様半目で見てくる母親に仮定だと述べるが、イマイチ信じてもらえていないようで、未だ訝しげに見られていた。解せぬ。

 

「それで、何でそんな頭のおかしいことを言い出したの?」

「んー、夢に出てき———だから厨二病じゃないからな!? 流石に厨二病は卒業したから」

「ふーん、ならラノベは捨てるの?」

「それとこれとは全く話が別だからな? 絶対に捨てないでよ? ごちそうさま、今日も美味しかったよ。だから捨てないで!」

「はいはい、とっとと学校行きなさい」


 ひらひらと手を振る我が母親。

 やはり、普通の人にあんな突拍子もないことを言ったところで厨二病扱いされるだけだった様だ。

 もう二度と言わねぇ。


 俺は取り敢えずこのよく分からん魔力的なモノは放っておいて、歯磨きをしながらクローゼットの中にある制服を取り出す。

 今日も今日とて学校な訳であり、何の特別性のない普通を地で行く様な俺は、真面目に学校に通ってそれなりの大学を出ないと将来楽を出来ないのである。

 

 ほんと、持っている人は良いよな。

 イケメンとかスポーツ万能とかは今更望まないから、何か仕事に出来る才能が欲しかったよ。

 それにしても邪魔だな、歯ブラシ。


「念力で歯ブラシでも浮かせられたら楽なんだ、け……ど…………」


 俺は目の前で起きた現象に唖然とした。



 ———浮いてる。


 

 何がって? 

 そりゃあ俺の歯ブラシが、だよ。

 手で持ってないし触れてもないのに重力に逆らってんのよ。


「え、何、どういう状況? 俺、もしかしてマジックの麒麟児?」


 頭が混乱しているせいか非常に頭の悪いことを言う俺。

 しかし、直ぐに歯ブラシが朝見た青白い半透明なオーラに包まれていることに気付く。

 同時に俺は顎が外れそうになりながら声を漏らした。



「……マジで俺、魔力みたいなのが使えるようになったの?」



 この瞬間———俺の普通で平穏な日常が終わりを迎えたことを、この時の俺はまだ知らなかった。

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