出航

 ブォーーー!

 まだ暗い藍色の空に船の出航を知らせるサイレンが響き渡る。

 船はとある島へ向け進んで行く。船の艦長及び船員は、搭乗している客を安全に島へ届けるため業務をこなす。

 数十人もいる乗客のほとんどが部屋で過ごす中、甲板かんぱんには乗客二名の影があった。しかし船が向かう先へワクワクする他の乗客とは異なり、二人は浮かなく何かを心配するような表情をしていた。

 「いたか?」

 「ううん、どこにも…」

 一人の青年が連れ青年に問いかける。その問いに連れは首を横に振り、落胆したように答えた。乗船直前、連れの冥瑳ブォーーー!

 まだ暗い藍色の空に船の出航を知らせるサイレンが響き渡る。

 船はとある島へ向け進んで行く。船の艦長及び船員は、搭乗している客を安全に島へ届けるため業務をこなす。

 数十人もいる乗客のほとんどが部屋で過ごす中、甲板かんぱんには乗客二名の影があった。しかし船が向かう先へワクワクする他の乗客とは異なり、二人は浮かなく何かを心配するような表情をしていた。

 「いたか?」

 「ううん、どこにも…」

 一人の青年が連れ青年に問いかける。その問いに連れは首を横に振り、落胆したように答えた。乗船直前、連れの冥瑳めいさは青年から「刹那が船に乗っているか?」確認するよう頼まれていた。

 「……」

 「まさくんの言う通り、やっぱり乗ってないみたい刹那くん」

 「…そうか」

 連れの報告に正は、更に表情を暗くする。

 船に乗船する少し前、刹那の家によった正。彼は、昨晩から刹那が家に帰って来てないことを刹那の母から聞かされていた。

 昨日、刹那に対し「勝手にしろ!」と言っていながらも内心では彼のことを心配していたのだ。

 「太陽が昇りしだい警察が捜索を開始するらしいから心配しないで」と刹那の母からは言われている。

 「だから気にしないで、見つけ次第あの子も島に向かわせるから。そのとき正くんはあの子を叱らないでいつものように笑って迎えてあげて。叱るのは親の役目だから…」

 刹那の母は正のことを責めず、優しい顔で彼の手を取る。優しい笑顔を向けてくれていてもそんな刹那の母の手が震えていたのを正だけが知っている。

 「…わかりました」と刹那の母との約束を守るよう決意の表情を浮かべた正は、その場を後にした。

 そんな早朝のやりとりを正は、冥瑳に説明した。

 「…そっか、じゃぁ大丈夫なんだ」

 改めて正から話しを聞き、ホッと安心した表情を見せる冥瑳。しかしそれに反して甲板から徐々に遠のいてく昨日踏み入ったあの山を見つめる正の顔は、まだ浮かないままだった。

 「どうしたの?」

 冥瑳の目に、まだ浮かない正の横顔が映る。

 「…大丈夫だよ。あの刹那くんだ、いつも見たいに気まずい顔しながらも戻ってくるよ」

 「…だと良いがな」

 「ほら、キャラメル。これ食べて一息入れよ」

 「…そうだな」

 冥瑳は、昔から知る喧嘩した後の刹那の行動を口しつつポケットから取り出したキャラメルを一つ口へ投げ入れた。そんな冥瑳の安心している様子を目にしながら正は、受け取った一粒のキャラメルを口に運んだ。

 暗い藍色の空の下やがて昇る太陽を待ちつつ船は島へ向けゆっくりと前進する。


――――――


 ザク、ザク、ザク、

 薄暗く山の中で一つの足音が鳴り響く。

 「こりゃ~どこもかしも雪まみれだな」

 男は木や辺りの地面に残っている雪を目にしつつそう愚痴をこぼす。

 男は町からこの山の手入れや管理を任されている者だ。昨晩発生した大雪による影響を朝早くから確認しに来たのだ。それからも男は辺りを確認しつつ同様な愚痴を零す。

 山の中を歩き進めること数分、遠くのほうから聞こえてくるブォーーー!という大きな音が男の耳に入り出したころ。男の目にはあるものが映っていた。

 「なんだあの小屋?」

 男の目に映っているのは、山の奥でポツンっと建てられている木で作られた一軒の小屋。男はふとした興味駆られ、小屋へと近づく。

 コン、コン、コン、

 「すいませーん」

 三回扉を叩き男は呼びかける。…しかし男の呼びかけに反応は無かった。

 コン、コン、コン、

 「?すいませーん。どなたかいらっしゃいませんか」

 …もう一度呼びかけるも小屋からの反応は無かった。

 「ったく、誰もいねぇの…か」

 反応の無い小屋に対しても口癖のように愚痴を零す男。ふと扉に手を掛けると鍵がかかっていないことに気づく。

 「失礼しま~す」

 鍵がかかっていないことに気づいた男は、この小屋に何があるのか?この小屋は何なのか?そんな好奇心に駆られてか?小屋の中へ足を踏み入れた。


 「真っ暗で何も見えねぇ」

 小屋の中に光は無く真っ暗だった。扉を開けたままだから入口付近は認識できたが、それでもまだ太陽の出ていない早朝。目視で中の様子を認識することは出来なかった。

 男はポケットから腕時計を取り出すと備え付けられたダイヤルを調整し、ライトをつけた。そしてそのライトを部屋の中へ向けた。

 次の瞬間、男は手で口元を押さえながらその場で膝を着いた。

 「はぁ、はぁ、なんだよ…これ」

 男は苦悶の表情を浮かべつつ顔上げ、もう一度小屋の中を見る

 ライトで照らされた小屋の中、男の目に映ったその光景。

 部屋の至る所に飛び散っている血の跡。ボロボロの棚や囲炉裏。そして…布団の上で横になっている上半身裸の男。男の身体には幾つもの切り傷があり、その上には男の首元に刃を向け横たわっている一本の刀が置かれていた。

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羅雪 春羽 羊馬 @Haruakuma

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