恋はいつの間にか始まっていたようで、それに気づいた時にはもう、終わっていた。

こばなし

僕は君のことが――

 友だちの女の子に彼氏ができた。僕は、その第一報告を聞いた。


 良いことだ、と思ったから、


「おめでとう」


 と言ったんだ。そしたら、


「あんまり嬉しくなさそうじゃん」


 と彼女が言った。


 そんなはずはない。親友と呼んでも差し障りない彼女のことだ、僕が笑顔で喜ばずして誰が喜ぶんだ。


 彼女の言葉にそうやって反論するつもりだったのに。


 僕が選んだのは沈黙だった。


 二の句を接げないまま、顔は徐々にひきつり、笑顔どころかぐちゃぐちゃになりそうで、僕はそっぽを向いて、彼女から顔を見られないように必死になった。


「え、なに? 私が他の男に取られていやんなっちゃった~?」


 僕の表情が見えていないのか、彼女はからかうような調子で顔を覗き込もうとしてくる。


 いつもは心地良く感じる彼女の距離の近さが、今だけは、ひどく不快だ。


「やめ、やばいから、今」


「いやいや、恥ずかしがるなし~」


 日本語にもなっていないような、キャラでもない言葉を連発しながら、彼女の追撃を逃れる。


「ごめん、あとで」


「あ、ちょっと!」


 ついには彼女を振り切って走り出した。


「待ってよ!」


 後ろから呼びかける彼女の声に、歩を緩める。振り返りはしない。


「……明日もまた、会えるよね」


「……」


 その問いかけに、頷きすらしなかった。


 ――彼氏と仲良くしてろよ。


 そんな最低な言葉が喉から出かかって、必死に飲み込んだ。


 嚙み殺すように歯を食いしばって、全力で走った。


 緩やかに陽が沈んでいく帰り道で、僕は悟った。


 僕は、恋をしていた。


 同時に、失恋をしたのだ、と。

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恋はいつの間にか始まっていたようで、それに気づいた時にはもう、終わっていた。 こばなし @anima369

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