第14話 俺のパンツ、盗まれる2
「黒川さん! 本当に黒川さんじゃないんですよね!?」
「何度も言いますが私ではありません」
俺は黒川さんに何度も同じ事を聞きながら、ベランダの隅々を探し回っていた。室外機の隙間も探したし、部屋から出てべランドの外も探し回った。
結局パンツは見つからなかった。
「沢村さん。きっと、下着泥棒の仕業です」
「――いや、絶対そんなことはないです。きっと、風の仕業です」
「今日の風を思い返してください。洗濯物が飛ばされるほどの風なんて全く吹いていなかったじゃないですか」
「――いや、俺たちが部屋にいるときにきっと強風が吹いたんですよ」
俺は黒川さんの推測を否定しつづけた。
今まで数回、黒川さんの下着を下着泥棒が盗んでいくところを目撃してきたが、結局のところ、俺は第三者であって被害者でも何でもなかった。コインランドリーの一件のように出過ぎなければ、俺には実害がなかったので、大きな恐怖は感じなかった。
――俺の知らぬ間に、誰かがベランダの前に来て俺の下着を盗んでいった。
怖くて考えたくもない。
「沢村さん。落ち着いてください。下着泥棒の仕業だと断定できたらすぐに警察に言いましょう」
「――断定なんてどうすればいいんですか!? そもそも、男が下着泥棒にあったなんてほとんど聞いたことないですし、警察も取り合ってくれませんよ!」
俺は怖さのあまり、声を荒げていた。
「沢村さん。――私が張り込みます」
「本当に言ってるんですか?」
「はい。それが確実です」
黒川さんは、俺にしっかりと戸締りすることを忠告すると、俺が洗濯物を干す日にまた来ると告げて部屋を出ていった。
その日、俺は黒川さんに言われた通りに朝早くにコインランドリーで洗濯を済ませて、午前中の早い段階には洗濯物をベランダに干していた。
黒川さんと下着泥棒の張り込みをしたときと同じように、部屋の電気は消して、俺は黒川さんと部屋で息を潜めていた。
「黒川さん。さすがにこの前みたいに都合よく下着泥棒が来るとは思えませんよ。この前のブラジャー好きの下着泥棒は現れる時期に決まりがあったから張り込めましたけど、俺のところに来ている奴は全く情報がないんですよ?」
「――確かにそうですが、味をしめて直ぐに現れる可能性もあります」
「そういうもんですかねぇ……」
俺は今一納得いかないまま、監視を続けることにした。
その音に最初に気づいたのは黒川さんだった。
寝転がりながらスマホを見ていた俺を黒川さんが小さな声で呼んだ。
「沢村さん。ベランダから音がします」
「本当ですか!?」
俺は息を殺しながらカーテンに近づくとゆっくりとカーテンの隙間から外をのぞいた。
室内と室外の明暗に目が順応できず目をしばしばしていると、
「下着ドロボーーー!!」
真横で唐突に黒川さんが大声を上げたのでひっくり返りそうになった。
黒川さんは窓を勢いよく開けるとベランダの手すりを優雅に飛び越えて、下着泥棒に飛び掛った。
黒川さんの行動そのものよりも、思った以上に運動神経がいいことに驚く。
「観念してください。下着泥棒!」
黒川さんは下着泥棒に馬乗りになりながら言うと、下着泥棒が被っていたフードを剥ぎ取った。
そこには女性の姿があった。
垂れ目のおっとりとした顔つきのその女性は急いで手で顔を隠したが遅かった。
「――あなたは!?」
「黒川さんの知り合いですか!?」
「知り合いといえば知り合いですが接点はほとんどありません」
「じゃあ誰なんですか?」
「沢村さんも知っていると思ったのですが――」
「――知らないんですけど……」
「沢村さんの隣人です。私とは逆側の」
「えええええええええーーーーー!!」
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