第10話 餌の調達2
「それじゃあ沢村さん。レジに行きましょう」
「分かりました」
レジに向かうとセール商品の調達を早めに切り上げた人たちが列を作っていた。
ざっと数えて20人以上。稼動しているレジは2台で客の一人ひとりが持っている商品の量からも10分以上は待ち時間が必要な気がする。
黒川さんと列の最後尾に並ぶ。
「だいぶ並びそうですね。沢村さんは何か買うものありますか? 男性用下着もセールですし、私が並んでますので見てきてもいいですよ」
「いや。別に俺はいらないです」
「そうですか」
「今回、たくさん取れてよかったですね。でもこんなに買い込む必要あるんですか?」
買い物カゴ満杯の下着を眺める。
「ええ。餌を安く調達できるなら買い溜めといたほうがいいので。腐りませんし。」
「まぁ確かに。もしかして、黒川さんの部屋に散らばっていた下着も買い溜めたものですか?」
「ええ。ブラジャーはいくつも買うと結構な値段になるので。こういうセールのときにまとめて買ってるんです」
「へえ。そうなんですね」
「それで沢村さん。さっきの女性が言っていたことについてですが単独でパンツを買いに行くのは厳しかったですか?」
「――はい。正直、ちょっときつかったです。視線が痛いというか」
「そうでしたか。今度来るときは一緒に行動しますね」
「そうしてくれると嬉しいです」
「ところで沢村さん。一緒に行動すると話しをしておいて、申し訳ないんですが、トイレに言ってくるので会計をお願いしてもいいですか?」
「へ!?」
「財布は渡しておきますので。――尿意が限界なので行ってきますね」
黒川さんは俺に買い物カゴと財布を渡すと、小走りでトイレを探しにいってしまった。
――また、ひとり!?
取り残された間も少しづつ進んでいく列。女性用下着いっぱいのカゴを俺1人でレジに出すのはできるならば避けたい。
しかし、このタイミングでもう一つのレジが解放された。
黒川さんが戻らぬまま列は進んでいき、ついに俺の番が来る。
「次の方、どうぞー」
女性の従業員に呼ばれて、カゴをレジに置く。
俺は女性と目を合わせないように下を向いていたが、ちらちらと女性が俺を見ているのを感じる。
後方の列でひそひそ話しが聞こえる。きっと俺のことだ。
俺は耐え切れず、
「彼女に会計を頼まれてて――はは」
言わなくていい言い訳を言った。
「そ、そうなんですね」
従業員さんも反応に困っている。
彼女というのは嘘だが、会計を頼まれているのは本当なのだ。それでも俺が言っていることは彼女たちには苦し紛れの言い訳に聞こえるのかもしれない。
――言いたい。
俺にはそういう趣味があるわけではないのだ、と。
「ちょっとあんた。彼女さんどうしたのよ」
急に背後から声が聞こえて振り返ると、さっきのパーマおばさんが立っていた。
「――トイレ行ってまして……」
「あはははは。あんたも大変ね! でもあんたいい彼氏さんだわ!」
おばさんのおかげで、ひそひそ話しも冷たい視線も急に消えた。
「沢村さん。お待たせしました。トイレが混んでいまして」
会計を終えたところでようやく、黒川さんが現れた。
「あ! あんた! また彼氏さんこんなところに置いてって!」
おばさんが黒川さんに詰め寄る。
「あんた。 やさしい彼氏さんなんだからもっと大切にしないと!」
「すみません……」
「分かればいいのよ。じゃあ、あたしは帰るから。 あー羨ましい羨ましい」
おばさんはそう言って姿を消した。
「――それじゃ、沢村さん。私たちも帰りますか」
「はい」
デパートから出て駅へ向かう。
「沢村さん。今日は色々とすみませんでした。遅刻して、1人で無茶ばかりさせて」
黒川さんが俯きながら言う。
「いや。いいんですよ。これから少し気をつけてくれれば」
「ありがとうございます。おばさんが行ってたとおり沢村さんは優しいですね」
黒川さんは俺を見るとやさしく微笑んだ。
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