第11話 大きい餌を好む魚1

 夕方、一人テレビゲームをしていると呼び鈴が鳴った。

 玄関の覗き穴を見ると、黒川さんが立っていたので鍵を開ける。

 「今日は無用心じゃありませんでしたね」

 ――あんたに言われたくない。

 「そう言ってる黒川さんもあまり施錠してませんよね。危ないですよ」

 「私の部屋に盗む物なんてありませんから」

 「いやいや、黒川さん女性なんだからもっと警戒したほうが……」

 「私を襲う人間なんていませんよ」

 「そんなこと言ってられませんよ!」

 「沢村さん……何かするつもりなんですか?」 

 「――しないとは言い切れませんよ?」

 冗談交じりに言う。

 「そうですか……」

 いつもの無表情で返答されるものだから、心配になって、

 「えっと……冗談ですよ?」

 「分かってます。上がってもいいですか?」

 「あ、どうぞどうぞ」

 「これ、手土産です」

 「あ、ありがとうございます」

 手渡された缶コーヒをテーブルに置いて着席する。

 「それで、今日はどうしましたか?」

 「そろそろ、とある魚が現れる時期なので協力していただこうと思いまして」

 「どんな魚なんですか?」

 「ブラジャーだけを持っていく魚です」 

 「ブ、ブラジャーだけ?」

 「はい。大体1から2ヶ月置きに出没するんですが一度出没するとその月は平日休日問わず現れるんです。今回は2ヶ月間が開いたので今月は来る気がします。ですから今週の土日に一緒に張り込みしていただこうと思いまして」

 「なるほど……分かりました」

 自分でも、こんな突拍子もない案件にさらっとOKを出せてしまえることに驚く。間違いなく、慣れ始めている。

 「じゃあ、明日は朝の10時には私の部屋に来てください」

 「結構早くから始めるんですね」

 「寝坊が心配でしたら泊まって行きますか?」

 「いや……大丈夫です」

 「それでは、また明日」

 黒川さんはそう言って部屋を去っていった。

 

 

 

 

 

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