第7話 コインランドリーの魚を探れ1

 コインランドリーに設置されたボロボロのソファーに黒川さんが座っていた。

 俺には全く気づいていない様子でぐるぐると回る洗濯機の中身を眺めている。

 「黒川さん。こんにちは」

 「――沢村さん。こんにちは。奇遇きぐうですね」

 「そうですね。まぁ、コインランドリーってそんなに多くないですし、今まで会わなかったのが不思議ですけどね」

 「そうですね」

 「もう少しいったところに、もっと新しいコインランドリーあるの知ってますか?」

 「はい。あっちは混むので嫌いです」

 「俺も同じです」

 レトロな雰囲気ふんいきか漂うコインランドリーの壁にはオーナーが手書きで書いたと思われる注意書きが、ベタベタと貼られている。

 ――洗濯物を盗むな。

 そう書かれた張り紙が、風化したセロテープで辛うじて壁に吊られている。

 ダッフルバックから取り出した洗濯物を洗濯機に投げ込む。

 コインランドリーからアパートまでは歩いて5分ほどなので、いつもであれば部屋に戻ってしまうが、今日は黒川さんがいたので俺もソファーで待つことにした。

 「沢村さんもここで洗濯が終わるのを待つんですか?」

 「え? そのつもりですけど」

 「それなら調度いいです。洗濯が終わったら沢村さんを訪ねるつもりだったので」

 「そうだったんですか。どうかしました?」

 「私の洗濯物を誰かがぬすんでいるようなんです」

 「え!!」

 「今回はその魚探しを手伝ってもらます」

 ――そうなると思ってたよ。

 「それで、俺は何をすればいいんですか?」

 「張り込みをしてもらいます」

 「張り込み?」

 「ここのコインランドリーを使ってずいぶんと経ちますが、被害には前々から結構遭っていたんです。ですから、何度か魚をこの目で見ようと張り込みしたりしたんですが、女の私だと魚も警戒してしまうようで」

 「それで男の俺に張り込みしてくれ、と?」

 「その通りです。ただ、くれぐれも脅かしたり捕まえたりしないでくださいね。それと、手を出しもらってもいいですか?」

 また、パンツを握らされると思って警戒していると、

 「――お金?」

 5000円を渡された。

 「はい。張り込んでいる間の食事にでも使ってください。返さなくて結構です」

 「いや、お金なんてもらえませんよ……」

 「下着のほうがいいですか?」

 「それはもっと違いますけど!!」

 「沢村さん。自身を安売りしちゃいけませんよ」

 ――なんでこの人に、説教じみたことを言われなければいけないのか……。

 「沢村さん。今日も釣り日和びよりなので、私の洗濯物はしばらく放置していきます。他の利用客に迷惑がかかるようでしたら、取り込みをお願いします。では、魚が現れたらよろしくお願いしますね。――後、映像でも撮っていただけると嬉しいです」

 そう言って、黒川さんはコインランドリーを出て行ってしまった。

 

 

 

 

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