第4話 魚の傾向を探れ1

 「それでは沢村さん。新しい魚の傾向を探るために、何か私に質問はありますか?」

 「え! 急に言われても……。まだ魚自体も目にしていないんですよね? 何で現れたって分かったんですか?」

 「その魚は餌を一つしか持って行かないからです。今までの魚とは少し特徴的だったので」

 ――隠語のせいで、何の話してるか分かりずれぇ。

 「持っていかれた下着の傾向は?」

 「沢村さん……。下着ではなく餌と言ってください」

 「……はい」

 「捕られた餌の傾向は、こんな感じです」

 黒川さんは床に散乱している下着類をいくつか拾い上げてテーブルに載せた。

 テーブルでコーヒーをすする男女の真ん中に、まるで付け合せかのように添えられたパンティが余りにもシュールで気が散りそうになる。

 テーブルに並べられた3枚のパンティを見る。

 至って普通の女性用下着なのだと思う。

 ――よく知らないが。

 「ん? なんで捕られたのに手元に残っているんですか?」

 「予備も買っているので」

 「そう言うことですか……。一回の犯行で1枚しか餌を持って行かないなら1月で3回しか現れていないってことで間違いないですか?」

 黒川さんが頷く。

 「現れた時間帯は?」

 「私が学校に行っている平日、大体10時から17時の間に来ているのかと思います。その内、2回が月曜日です。」

 「じゃあ、月曜休みの人の可能性がありますね。平日、特に月曜を狙うのは確実として、あとは餌の傾向ですね……。正直、この3枚だけでは何とも言えない気がします」 

 「そうですか……それならまた彼が来るまで一旦様子見ですね。ではこれをどうぞ……」

 黒川さんから渡されたのは紙袋を覗く。

 「これ大学のレポートですか!?」

 「必修科目のいくつかの過去問です」

 「ありがとうございます!」

 「後、これも持っていってください――」

 黒川さんはテーブルに並べられたパンツを無造作に掴むと。俺が持っている紙袋に押し込んだ。

 「え?」

 「もしかしたら傾向が掴めるかも知れないので、持って行ってください」

 まさかの手土産に俺が固まっていると、

 「――洗ってますよ?」

 黒川さんが言った。

 ――そういうことじゃないから……。

 

 

 

 

 

 

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