第13話

「ふん。思ったより、頑丈のようだな」


 ヤバイヤバイヤバイ……。


 シャーロットは戦慄した。

 対峙している六歳児からは、前世の職場で暴れていたメンヘラストーカー女と同じ匂いがした。ちょっとでもスキをみせたら、全力で縋りついてくる凄みと覚悟を感じる。

 

 けどちょっと待て、六歳児相手に結論を急ぐな。

 前向きに考えろ。とりあえず、デメリットに目をつぶってメリットだけ考えろ。


「お前、私の婚約者になれ」

「え?」


 つまり公爵家の長男で、王位継承権をもつこのショタを婿にする。これで、このクソッタレ学園生活での自分に課せられたミッションは八割ぐらい達成されたことになる。

 あといじめられてボッチなのもいい。その他大勢のガキどもと烏合うごうするよりも、大人どころか周囲に見放されているコイツと一緒にいた方が、向こうから近づいてこないし、攻撃してきても潰せばいいし、なによりも私の精神衛生は守られる。


「聞こえなかったか? 恩人に対する、態度じゃないぞ」

「え、あ、はい。ごめんなさい」


 うーん。試しにきつめで話しかけてみたけど、ものすげー嬉しそうな顔をしているのがフツーに怖い。

 このままじゃ将来、ヤンデレメンヘラストーカーになる未来しか見えない。

 尊厳破壊が窮まって、自己肯定感がマイナスに振り切っているこのショタを矯正するには、成功体験を積み重ねるしかないな。

 学校を抜け出すいい口実にもなるし、うん、いいことづくめだ。こまかいことは気にしちゃダメだ。全力で、現実逃避じゃ、ヤケじゃ、ヒャッホー!


「私はシャーロット・カートレット。伯爵家の長女で、一応君と同じクラスメイトだ」

「ぼ、ぼくは、ウィリアム・Vヴォーン・バンテッド……です。あの、助けてくれてありがとうございます。お礼を」

「うん。そのお礼が、カートレット家への婿入りだよ。私は君を歓迎する」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る