第12話

――12年前。


「あー」


 その頃のシャーロットはやさぐれていた。

 生まれ落ちた瞬間から、前世の記憶を継承した彼女にとって、この【リーテ学園】に通うことは拷問に等しい。


 学業は前世補正でなんとかなり、魔力のコントロール等は家庭教師でまかないたかったのだが。


「学園で人脈を作ること。これは貴族として生まれたものの仕事であり義務だ」


 という伯爵実父の理屈に、社会人だったころの記憶が刺激されて、シャーロットはしぶしぶ学園に通うことになった。

 そして、盛大に後悔した。


 普通に考えれば、社畜アラサーの魂持ちが小学生に囲まれて勉強し、彼らの行動に合わせて、子供らしい振る舞いをしなけれなばらないのだ。なかなかキツいものがある。


 人脈どころか、友達付き合いなんて無理だ。ごめんだ。

 そう結論付けたシャーロットは、行動に移すことにしたのだ。

 ターゲットはすでに決めていた。


「死んでくれ」


 見た目が子供、頭脳と言動はコミュ障オタクで、思考回路はあらゆる意味で終わっている。


「へ」


 そこらへんにいたカラスが、一斉にウィリアムをいじめていたガキどもへ襲い掛かかり、いじめっこたちはあっさり逃走した。


 生まれて六年目のクソガキだが、そこは腐っても貴族。英雄の名を冠した【リーテ学園】に通うだけのことはある。

 目玉を抉ろうとしたカラスのくちばしを、ことごとく魔力でガードし、生徒の護身用として持たされるアミュレットのバフ効果で、逃走速度と防御を底上げされている。

 結果、負傷者0人。これでは狙いである【校内暴力による退学】には及ばない。

 とはいえ。


「おい、大丈夫か?」


 彼女はもちろん、助けた相手が誰だかわかっている。

 自分が行ったのはただの校内暴力ではなく、公爵家の長男をいじめっ子から守ったという――身分の上下をわからせるための校内暴力であり、伯爵家の権威に泥は塗らないよう絶妙なセコイ計算でもって、行われた処世術でもあるのだ。


 校内暴力による退学が狙えないのなら、不敬罪による退学を狙おうとして、ぞんざいな態度をとるも。


――キモっ。


 シャーロットはドン引きした。

 顔の造作が整っている分、涙と鼻水のぐちょぐちょ具合が悲惨さを増しており、ウィリアムの青い瞳は、ヤクをキメたやべーヤツのようどろどろに蕩けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る