第11話【ネタバラシ】

わたくし、キルクルス王国 準王族 バンテッド公爵家が長男【ウィリアム・Vヴォーン・バンテッドは婚約者である、カートレット伯爵家が長女【シャーロット・カートレット】と婚約破棄し……」


 むだに長い前髪のイケメンが、苦しげな表情で言葉を絞り出す。

 青みがかった長い銀髪を一つに結わえ、長いまつ毛に縁どられたセルリアンブルーの瞳が憂いを帯びている。鼻筋の通った顔は精悍で、下唇が少し肉厚なのがセクシーだ。青を基調とした礼服もかっこいい。

 鼻水やよだれをたらして、泣きついてきた弱虫ウィルが、よくぞここまで成長したものだと感心してしまう。


「聖女【メアリー】を妻とします」


――よっしゃ! 生存フラグ立ったあぁっ!


 メタ読みするとしたら、ここでようやく【シャーロット・カートレット】としてせいを受けてからの、約18年におよぶチュートリアルが終了することになる。


「どうだ、この悪女め。ざまあみろっ!」


 ごちんっ!


 あ、イテッ。つーか、人の顔をぞうきんにするなんて、なかなかの良い育ちをしているなぁ。

 ふかふかだから思ったより痛くないけど、絨毯の毛が目に入ってすごい痛い。

 これは完全に計算外だった。私が今、演じるべきは、世界を混乱に陥れた世紀の大悪女だというのに、涙目なんて格好がつかない。


 というか、前髪掴んで涙でぐちゃぐちゃになった顔を、衆目に見せつけるなんてどんなプレイだよ。ウィルもすごい引いてるよ。


「チッ。ねぇのかよ。泣けよ、喚けよっ!」


 て、あ、蹴るのね。

 暴力のレパートリーが貧弱な上に、語彙も貧弱すぎて退屈すぎる。

 あらかじめ拷問対策に、痛覚遮断魔法を自分にかけておいたんだけど、痛みがない分、ものすごくつまらない。

 この茶番じみた進行もテンプレートすぎて、この国の未来が不安になってくる。


 あ、やべ。あくびこらえすぎて、さらに涙が出てきた。

 まぁ、鼻水よりはマシだよね。

 

 あー、早く処刑してくれないかなー。


 世紀の大悪女【シャーロット・カートレット】


――彼女が日本人の魂を持つ、前世の記憶もち転生者であることを誰も知らない。

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