第10話

 その後の記憶は、途切れ途切れだ。


「――っ! ――っ! ――っ! ――っ! ――っ! ――っ!」


 僕の叫びと共に周囲の人間が殺し合い、自殺し合い、無数の赤い花が咲いた。


 三年かけて、世界中の水源に流し込まれたホーリースライム。

 人体から排出されることも、同化することもなく、生存本能によってスライムたちは人間の脳内に寄生したのだ。

 つまり、全人類は僕の支配下。


…………。


 もっと早く気付けば、シャーリーを助けることができたのに。


「あぁ……、なんで」


 後ろで多くの人々が僕に跪く。

 国土が滅んで更地になり、なにも遮ることのない青空には、薄い雲が浮かんでいる。


「王よ。ご命令を」


 王様? 冗談じゃないよ。

 僕は魔王でもないし、だとすると人類王 じんるいおう? 

 とんだ出世だ。

 僕のことをスライムテイマーの底辺だって、さんざん見下してきたくせに。


 僕が欲しかったのは。

 いつも、ずっと、ただ一つ。


「あーあー。もう、自国を滅ぼすなんてやりすぎだよ! キレる十代、怖すぎる」


 え。


「シャーリー?」


 振り返る僕を、シャーリーはバツが悪そうに眉を寄せた。

 首にうっすら赤い線が残っている彼女は、答え合わせのように頭上を指さす。


「これ、フェニックスっ!?」


 死者を生き返らせる伝説の不死鳥が、大空を旋回して消える。


「私はバードテイマーだって忘れてた? 約束したでしょう、死んだあとでも、また会いましょうって」


 僕はその場で泣き崩れた。


 


 

 

 

 

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