第12話 派手すぎた祝勝パレード Part2

ハラユキは、恐る恐る声のした方を振り向く。


「まさか、そんな・・・」


聞いた事があるのも当然。

そこにいたのは、シューラだった。

黒い羽根を生やした、いつもと雰囲気の違うシューラがいた。


「シューラ、なぜ」


ハラユキは、ショックの色を隠せない。


「シューラ、お前、どういうつもりだ!?」


オリビアの厳しい表情には、どこか信じたくないという感情も感じ取れる。


「どういうつもりだと?どういうつもりもない。

私こそが真の魔王、シューラウド様だからな!」


突然、魔王と言いだすシューラ。


「そんな、魔王はアンボニーだろ?」


ハラユキは動揺した。いったい、何が何なのか分からない。


「アンボニー?ああ、魔王のフリをした小物か。

あんなゴミクズと一緒にするな。

奴は、偶然手に入れたクリスタルの力を利用したにすぎん。

そもそも、このクリスタルは私の物なのだからな」


クリスタルはシューラの所有物?

しかし、ハラユキは信じたくない気持も合わさり、確認を行う。


「シューラ、本当に君が魔王なのか?

そのクリスタルは、君が作った物なのか?」


実は何かの間違いではと思いたいハラユキ。

しかし、シューラウドの返答は残酷なものだった。


「クリスタルを作った?違う。このクリスタルは、私の力の結晶として

私の体の一部となっていたものだ。あの一件さえ無ければ、

クリスタルを手放す事など無かったのだがな」

「あの一件?」

「そうだ。かつて私の討伐を試みて向かってきた勇者、

ダイナマイトビンゴとの戦いによってな!」


シューラウドは、怒り顔で語りだした。

しかし、何というヒドイ名前の勇者なんだ・・・


「あれは忘れもせん、私はダイナマイトビンゴとの死闘の末、

何とか奴を倒した。しかし、私も瀕死のダメージを受けた。

その結果、私の中に作られたクリスタルの力に耐えきれず、

私の体は爆発しそうな状態だった。

私はやむおえずクリスタルを解放し、何とか一命は取り留めた。

しかし、解放した衝撃でクリスタルはどこかへと消えてしまった。

私は体の回復を待ち、ほとんど力を失った状態でクリスタルを探す

こととなったのだ」


クリスタルに関する、不明だった部分が全て明かされた。

しかし、こんな形で判明してほしく無かったと思うハラユキ。


「その、どこかへ飛ばされたクリスタルが、偶然アンボニーの手に渡ったと・・・」

「そうだ。あのゴミムシがいた場所に、偶然落ちたのだろう。

その結果、奴は魔王もどきとなり、世界を征服しようとしたのだ。

だが、クリスタルによる強大な力を手に入れた奴に勝てるわけもなく、

私は他の方法を探すべく、旅をした。

そして、この国に大きなギルドがあると聞き、

それを利用する方法を思いついたのだ。

ギルドの冒険者を利用すれば、

いつかはクリスタルを取り戻せる可能性があると思ってな」

「なるほどな、それで私とハラユキを利用したわけか。

占い師のフリをして、王様にクリスタルの事を吹き込んだのもお前だな」

「そうだ。王が動かなければどうにもならんからな。利用させてもらった」

「まさか、俺達がここに来る事も計算していたのか?」

「それは偶然だ。A級冒険者も少なくなり、半ば諦めかけていたがな。

だが、お前達の情報を聞き、希少なチャンスと思ってな。

お前達にクエストを進めてもらう形を取ったのだ。

おかげで、ついに私は本来の力を取り戻した。

本物の、魔王としての力をな!」


一般人のアンボニーですら、あれだけの力を手に入れられるわけだ。

それを、4つの力を身につけた真の魔王シューラウド。

簡単に太刀打ち出来る相手ではない。


「しかし、傑作だったぞ。あんなバカっぽい魔法で

あれだけの威力が出るのだからな。

アイドルに魅了されたり、筋肉で圧死しそうになったり、

オリビアに至っては、手籠めにされそうになった事もあったな」

「ちょっと待て、ギルド報告をした際には、そこまで話して無いぞ、

なんでそんなに詳しいんだ?」

「忘れたかハラユキ、貴様がギルド登録をした際にC級ライセンスの

バッチを渡しただあろう。あのバッチには特殊な細工をしていてな、

お前達の行動を把握できるように、私に通信出来るよう仕組んでおいたのだ。

状況次第では、次の手を考える必要もあったのでな」

「くそ、このバッチで・・・」


ハラユキはC級ライセンスバッチを捨てた。

しかし、今となっては何の意味も無い。


「まあ、クリスタルは取り戻せた事だし、お前たちには感謝している。

しかも、ハラユキは面白い魔法が使えるしな。

どうだ二人とも、私の部下にならないか?

お前たちなら、私の右腕と左腕としてかわいがってやる」


真の魔王からスカウトをいただきました。が、喜べるわけがない。


「俺たちを配下にして、どうするつもりだ?」

「決まっているだろ。この世界を支配するだけだ。考えてもみろ、

お前たちも、この国にいいように利用され、魔王討伐というリスクを背負わされ、

命からがら戻ってきたのだろ。都合の良い存在として使われている。

この勢大なパレードが終わったら、何も変わらんいつもの日常だ。

くやしくないのか?

それだけの力を持ちながら、扱いは小さなものだ。

ダイナマイトビンゴも生きていれば、同じようなものだったろう。

だが、私ならそのような扱いはしない。

お前たち二人に、最高のポジションを与えてやる」


確かに、いいように利用された感はある。それは事実だ。

ハラユキもオリビアも、決して良い待遇を受けたわけではない。


「悪い、シューラ。いや、シューラウド。お前の言う通りだと思うところはある。

あるけど、やっぱり俺は人間だし、人々を苦しめるような事はしない。

俺は、お笑い芸人だ。人々を苦しめるんじゃなく、笑顔にするのが俺の役目だ。

少なくとも、俺はそう思っているよ。だから、お前の要望には応えられない」

「私も、お前の要望には応えられんな。お前が私好みの男で、地位も名誉もあり

私に好き勝手自由な生活をくれるなら考えたが、

私の要望には応えられそうにないからな。だから、私もお前の要望には従わん!」


まるで、要望に合った内容であればシューラウド側に付くかのような

感じにも取れたが、下手にツっこむと殴られそうなので、ハラユキは言葉を飲んだ。


「そうか、残念だ。お前たちとなら、楽しくなりそうだったがな。実に残念だ」


先ほどまで、笑顔で話していたシューラウドの顔から、笑顔が消えた。

そして、シューラウドは手を上にかかげ、大きな漆黒の玉を作りだす。


「これはダークボール。この街ごと、吹き飛ばせる威力を持つ技だ。

死の街と化するがよい」

「おい、やめろシューラウド!そんな事をすれば、この街が・・・」


ハラユキの言葉など聞こえなかったかのように、

ダークボールは城に向かって放たれ、ゆっくりと進む。


「いかん、皆、逃げろーー!!!!」


城にいた者、その周辺にいた者、慌てて逃げ出すが、

逃げ出したところで、助かりそうにない。


「ハラユキ、急いで魔法を!」


ハラユキは急ぎ全属性のギャグ魔法を放った。


「まんまる氷を炎で炙り、電気の力でチンをする。

ついでにボールが股間にチンして、痛みと涙でポロポロドーン!!」


光の玉を作りだし、どこからとは言わないが作りだし、

ダークボール目がけて飛んでいき、ぶつかる、


しかし、光の玉は簡単に飲み込まれてしまった、


「ま、まるで効かない・・・」


ダークボールを消滅させるどころか、進行を止める事すら出来ない。


「その程度の魔法で、私のダークボールが消せると思ったか?愚かだな、ハラユキ」


絶望の状態。

このまま、この国は消滅するのか・・・


「ハラユキ。今なら攻撃を止めてやってもいいぞ。

土下座してお前達が私の部下になってくれるならな。

そうすれば、この場は助かるぞ」


シューラウドの仲間になれば、街は助かる。

だが、仲間になれば、絶望の未来が待っている。

ハラユキは、必死で考えた。考えたが・・・


「お、俺は・・・」


ハラユキは、精神が崩壊しそうな勢いで、選択を迫られる。


「アホかハラユキ、仲間になったところで、あの玉を止める保証はない。

何でもいいから、今はあの玉を止めるため全力を尽くせ!」


オリビアは、脳筋的な力強い言葉でハラユキを鼓舞する。


「バカな女だ。剣士としての実力は本当に素晴らしいが、

頭はあまり良くなかったらしいな。

少々惜しいが、この街もろとも消えるがいい」


ダークボールは、そのまま城の方へと進んで行く・・・

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