第9話 愛のままにわがままに、アイツはあの子を傷つけた

クリスタルと共にエビルソイルへ入った二人。

魔王のいるエリアを見渡してみる。


「こ、これがエビルソイル!?」


二人は驚いた。

そこは、異様な雰囲気・・・かと思ったら、

緑は生い茂り、綺麗な川や木々、自然溢れる素敵な場所のようにしか見えない。

出来れば、ここでピクニックしたいと思うほどだ。


「思っていたのと違うな。ここに魔王が本当にいるというのか?」


どこを見渡しても、魔王の城と思わしきものも無い。

それどころか、建物一つ見当たらないのだ。

しばらく歩いてみるも、辺り一面が自然の大地。何も無い。


何か手違いでもあったのではないかと疑う。


「本当に何も無いな。もしかして、魔王が仕組んだ罠なのか?」

「さあ、どうだかな・・・」


歩けど歩けど、何も無い場所。

同じような景色を、ひたすら見ている状況だった。


「何だこれは!?同じような景色ばかりで、何も無いじゃないか!」

「マジで、詰んだのかな・・・」


途方に暮れる2人。

その時、目の前に1人の少女が現れた。


「ねえ、2人は魔王を倒しに来たんでしょ?」


ようやく、エビルソイルで初の人物に会えた。

いや、初の生き物に会えたという状況だった。


「き、君はここの住人なのか!?」


やっと現れた希望の光と言わんばかりに、食い入るように聞くハラユキ。


「う~ん、そうかもね」


曖昧な返事が返ってくる。だが、それでも唯一の情報源となりそうな子だ。


「君、名前は?」

「あたし、ミルフィーっていうの」


どうやら、名前はあるらしい。

おそらく人間だと思うが、何か不思議な感じがする。


「おい、ここはエビルソイルという場所で合っているいるのだな?」

「・・・そうだよ。ここは、そう呼ばれているみたいだね」


何か釈然としない言い方だが、とりあえず来た場所に間違いは無いのだろう。

と、思うしかない。


「なあ、ミルフィー。ここのどこかに、魔王の城らしき建物は無い?」

「・・・あるよ。ついてきて」


さっそく大きな手掛かりゲット?

二人はミルフィーについて行く。


「あのね、ここから北に向かったところに、1つだけ漆黒色の花があるの」


なんとも不気味な色の花だ。そんな色の花は、聞いた事がない。


「その花が何か関係しているか?」

「・・・そうだね」


どうも引っかかる言い方だが、信じて進むしかない。

そして、案内された場所に着くと、ミルフィーの行った通り漆黒色の花があった。

この花だけ、異様な雰囲気を出している。


「あきらかに違和感ある花だな」


その花のまわりには、丸いくぼみのようなものがあった。


「ねえ、3つのクリスタル、持ってるでしょ?」


ミルフィーは、何故かクリスタルの事を知っていた。


「そうだけど、何で知ってるの?」

「わたしね、元々はこの場所に住んでいたの。パパやママ、色んな友達もいたよ。

大好きな、恋人も」


リア充っ子だった。


「でもね、魔王が誕生してから、みんないなくなっちゃった。

パパもママも、友達も。み~んな、いなくなっちゃった」

「え、じゃあ、何で君はここにいるの?」


それまで明るい表情で話していたミルフィーが、

少し悲しそうな顔で話し出す。


「実はね、その魔王が私の恋人なの」

「なんだって!?」


衝撃の事実が明らかとなった。

まさか、魔王の恋人が今、目の前にいるのだから。


「ど、どういう事だ!?お前は、魔族と付き合っていたのか!?」


オリビアも、さすがに驚きの表情を隠せなかったようだ。


「ちがうよ。彼はね、人間なの」

「えっ?」

「そう、ただの人間だったの。けどね、ある日4つのクリスタルを手に入れて

突然すごい力を手に入れたの。そして、魔王になって世界を支配すると言いだしてね、今は魔王として生きているの」


なんと、魔王は人間だった。

魔族が支配していると思い込んでいたが、何らかのタイミングで

クリスタルを手に入れ、大きな力を手に入れたようだ。


「じゃあ、そのクリスタルのうち、3つをあの魔族達に配り、

残りの1つは魔王が持っているという事か」

「そうだよ。最後の1つは、すごいクリスタルだよ」


魔王として名乗れるぐらいだ。そうとうな力を持つクリスタルと予想できる。


「じゃあ、君は魔王の恋人という事もあり、ここで生きているというわけか」

「生きている・・・のかなぁ」


何やら、意味深な言い方をするミルフィー。


「だが、そうなると最後のクリスタルはいったいどんな力があるんだ?

3つを配下に渡しても問題ないぐらいの、すごい力が・・・」


すると、突然地面が揺れだした。


「な、なんだ?地震!?」


先ほどまで、とても穏やかな雰囲気の場所が、急に暗雲を立ち込め、

ダークな雰囲気を醸し出す。


「早く3つのクリスタルをそのくぼみに置いて」


突然、ミルフィーが指示を出す。


「えっ、ここに?」


ハラユキも、良く分からないまま3つのクリスタルを窪みに置いた。


「この黒いお花に、強力な魔法を打ち込んで。

そしたら、ここの真の姿が見えてくるよ」

「真の姿?」

「うん。この黒い花は、真の姿を隠すための魔法の花。

この花を壊すためには、クリスタルの力と、強力な魔力があれば壊せるよ。

早くしないと、二人は死んじゃうよ」

「死ぬ?どういう事!?」

「ここはね、部外者を排除するための魔法が発動しようとしてるの。

それが発動すると、私以外の生き物は確実に死ぬの。

昔、たくさんの人が死んだように・・・」


もはや迷っている暇は無い。ハラユキは魔法を唱える準備を始める。


「でも、いったい何の魔法を唱えればいいんだ?」

「炎、氷、雷の魔法をすべて一体化したギャグ魔法を

花にぶつけて。それで、花は壊れるよ。」

「なんで、ギャグ魔法の事を?」

「魔王が言ってたの。くだらない魔法だと最初笑っていたけど、

後々は驚異になるかもって言って」

「驚異?」

「そう。それは、ギャグ魔法にはもう一つの隠れた力があると」

「えっ、隠された力?」

「うん。だから、すべてを一体化したギャグ魔法を放てば分かるよ、きっと」


しかし、ハラユキは今までそんな方法を実施した事が無い。


「ハラユキ、考えている余裕は無いぞ。周辺の雰囲気が、かなりヤバくなっている。

とりあえず、全部入ったギャグをかませ!何とかしろ!」


無茶ぶりするオリビアだが、今はそれしかない。


「くそー、もう、勢いでやるぞ!」


そして、ハラユキ全力の全属性魔法を唱える。


「氷の刃をお尻に刺したら、痛くてケツから炎出た!

稲妻が走る痛みをこらえて、輝くオシリでプリプリフラーッシュ!!」


すると、光の玉のようなものがケツから出て、黒い花目がけて飛んでいく。

そして、クリスタルが浮かびだし、光の玉と一体となって黒い花を包み込む。

そして、黒い花は爆散した。


「よし、やったぞ!」


すると、目の前のミルフィーの姿が、少しづつ薄くなっていく。


「どうしたんだ!?」


オリビアがミルフィーの肩に触れようとしたが、触ることが出来なかった。


「ありがとう、私はね、この黒い花と命を共有していたの。

この世界で、永遠に生きられるようにと、魔王がそうしたの。

その3つのクリスタルの力を使って、この花を作ったんだよ。

だから、この花が消えると、私も消えるの」

「そ、そんな!」

「気にしないでね。このままじゃいけないし、早く魔王を倒さないと

世界が大変な事になるよ。

だからお願い、早く彼を、・・・・・を倒・て」


そして、ミルフィーは姿を消した。


「最後、なんて言っていたんだ?」

「さあ、良く聞き取れなかった。魔王の名前だと思うが」


すると、お花畑一面のような場所が、一瞬にして魔王城の前に変わり、

先ほどのピクニック気分になるような風景から、殺風景な風景へと変わった。


無事に、偽りの世界から解放されたようだ。

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