第6話 筋肉は世界の共有財産 Part6

絶望に打ちひしがれながら、マッチョに向かって下りていくハラユキ。

すると、突然何かが光りだした。


「うおっ!」

「まぶしー!」


オリビアの閃光弾か!?

と思ったが、光ったのは一瞬で消え、視界を奪うほどではなかった。

だがその後、マッチョ達の様子がおかしくなった。


「ち、ちからが・・・」


マッチョ達が、みるみる弱くなっていく。


「も、もしかしてコレは!?」


よく見ると、オリビアが何かを投げたみたいだ。


「オ、オリビアー!」

「いいオトリになってくれたハラユキ、おかげでこちらも簡単に近づけた!」

「えっ、でも何で兵器をもう1つ持ってるんだ?」

「お前に渡していたのは模倣品だ。ハラユキなら、きっとドジるだろうと思い、

こっそりすり替えておいたのだ。」


敵を騙すにはまず味方からとは言うが、その良きお手本と言える。


「なんか釈然としないけど、これでマリリンスに勝てるぞ!」


そして、オリビアが一気にマリリンスに剣を振りかざす。


「バカめ!」


マリリンスはまた目を光らせる。


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


オリビアは吹き飛ばされた。


「な、なぜ・・・」

「愚か者め、魔族の私には、そんなオモチャなど効くはずも無かろう。

よくも我が帝国を穢してくれたな。これから、貴様らをたっぷりとかわいがってやる」


マリリンスは、まったく弱る気配が無い。

それどころか、さらに筋肉が膨れ上がっているように見える。


「そ、そんな・・・キンニックヘボビタンEが効かないのか?」


詠唱内容がくどいので省略するが、ハラユキも魔法で応戦する。

しかし、マリリンスにはダメージが無い。


「バカが、私に魔法が効かぬ事ぐらい、この前学んだであろう?」

「くそ、勝つのは不可能なのか・・・」

「さて、まずは無筋の貴様からじっくりとかわいがってやるか」


マリリンスが、じわりじわりと近づいてくる。


「ヤバい、どうするか・・・」


すると、オリビアがハラユキに向かって叫ぶ。


「ハラユキ、雷の魔法を全力で放て!」


よく分からないが、他に良い手も浮かばないので、

ハラユキは雷魔法を放つ。


「頭を打ったらピカピカ光る!目の前チカチカ電気が走る!

痺れるお肌に肩こり改善、カミナリ様のお土産ド~ン!」


強力な雷魔法が、マリリンス目がけて放たれる。


「バカめ、そんな魔法など効かないといっただろ」


しかし、強烈に放たれた雷魔法の光は、想像以上にまぶしかった。


「くそ、前が見えん!」


マリリンスの目は光にやられ、まぶたを開く事が出来ない。

その隙に、ハラユキとオリビアはマリリンスから距離を置き、茂みに隠れる。


「よし、少し時間を稼げたな。」

「オリビア、一時的には目くらまし出来たけど、すぐにマリリンスの目は

回復するぞ。この後どうするんだ?」

「思い出せハラユキ、アスタロットンは、どうやってあの強大な力を得た?」

「えっと、確か虹のクリスタルで力を得たはずだよな」

「そうだ。いくらマリリンスの筋肉がすごいと言っても、

キンニックヘボビタンEがまったく効かないのはおかしい。

つまり、マリリンスも魔王から特殊なアイテムを貰っているんじゃないか?」

「そうなのか?確かに、キンニックヘボビタンEがまったく効かないのは不思議なんだよな・・・」

「おそらく、マリリンスはどこかにアイテムを隠しているはずだ。」

「でも、どこに?ビキニ姿で隠せるようなところが無いんだが。」


確かに、マリリンスはマッチョ用のビキニしか身につけていない。

とても隠せるようなところは見当たらない。


「いったい、どこに・・・」


隠し場所を考察しているうちに、マリリンスが近づいてくる。


「隠れても無駄だゴミ人間ども。今すぐ、観念して出て来い。」


体中の、至る筋肉をピクピクさせながら近づいてくる。


「どうした?怖いのか?心配しなくても、私のこの磨き切った筋肉で

おまえたちを包み込んでやるぞ!

我が筋肉に抱かれながら昇天させてやる!」


筋肉は実にすばらしいが、筋肉の使い方が邪道なマリリンス。

のっしのっしと、ハラユキとオリビアを追い詰める。

その時、オリビアが何かに気付いた。


「おい、ハラユキ、見ろ!大腿四頭筋(だいたいしとうきん)を!」

「どこだよそれ?」

「足のフトモモのとこだ、見ろ!」


マリリンスの太ももを見る。やはり、素晴らしい筋肉だ。

しかし、筋肉の使い方(以下略)


「なんだよ、大腿四頭筋がどうしたんだよ」

「バカ者、よく見てみろ!」


再度、ハラユキは大腿四頭筋をよく観察した。


「あれ、あの筋肉だけ、動いていない。」

「そうだ。あの筋肉だけ違和感がある。私の予想だが、あいつの強化アイテムは

大腿四頭筋の中にあるんじゃないか?」

「たしかに、可能性はあるけど、どうやって取りだす?」

「いい考えがある。」


オリビアはハラユキに耳打ちをし、再度マリリンスに挑戦する。


「おや?覚悟が出来たようだね。では、我が筋肉を心と体で受け取るがよい」


マリリンスは、筋肉を膨らませながら2人に迫ろうとする。


「この筋肉バカが、そんな鍛えすぎた筋肉なぞ、グロテスクな見た目にすぎん」


マリリンスを煽るオリビア。マリリンスが憤る。


「愚か者め!筋肉は夢、筋肉は希望、筋肉は正義!

うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」


マリリンスが一気に襲いかかってきた。


「くらえ、マリリンス!再度雷撃魔法をくらわせてやる!」


ハラユキが、雷魔法を放つ準備をしている。


「バカめ、目くらましにしかならん魔法など、目をつぶれば

何の問題も無いわ!」


マリリンスが目を閉じた瞬間、オリビアがマリリンスに飛びかかる。


「これでもくらえ!」


オリビアは、何かの液体が入った筒を取り出し、

それをマリリンスの口の中へ注ぎ込む。


「ぐ、ぐわああああ、すっぱい!!!」


何かを口に入れられたマリリンスは、もがき苦しむ。


「よし、今だ!」


大腿四頭筋めがけて、剣を突き刺し、強化アイテムを取りだした。

マリリンスの大腿四頭筋から、セルリアンブルーのクリスタルが出てきた。


「おお、やった!」


強化アイテムを取りだされたマリリンスは、

みるみるうちに体がしぼんでゆく。


「う、うわああああああああああ」


先ほどまでの逞しすぎる体をしたマリリンスとは、

まるで別人のようなもやしっ子になっていた。


「な、なんだコイツ。クラスの隅っこでひっそりと気配を消している

ような奴みたいに、ヒョロヒョロじゃないか。」

「どうやら、これがこいつの正体だったみたいだな」

「ところでオリビア、さっきマリリンスに何を飲ませたんだ?」

「ああ、アレは晩御飯に使おうと思っていた酢だ」

「・・・酢?」

「そうだ。酢は、筋肉を柔らかくする性質を持っている。

なので、一気に大量の酢を飲ませた事により、あいつの筋肉が

一時的に柔らかくなり、簡単にクリスタルを取り出せたのだ。」

「そ、そうすか。」

「ソースじゃない、酢だ。」

「・・・」


マリリンスは、涙を浮かべながら二人に懇願する。


「た、たのむ。魔王様からいただいたそれを返してくれ。それがないと、あの美しき

筋肉を身につける事が出来ない。」


先ほどまでの強気全快なマリリンスが、幻だったかのような弱弱しさだ。


「聞け、マリリンス。お前の身につけていた筋肉は、所詮は造り物でしかない。

そんなもの、真の筋肉とは言えないんだ。」


なぜか、オリビアが筋肉について説き出す。


「お前は筋肉を愛し、筋肉のために生きてきたんだろ?

なら、こんなアイテムに頼らず、自らの力で鍛え上げた筋肉こそ、

本当に美しい筋肉だとは思わないのか」


良く分からないが、マリリンスは何故か目に涙を浮かべて、感動している。


「た、たしかに、私は筋肉を愛するがあまり、間違った方法で

筋肉を愛してしまっていたのか。」


本当に良く分からないが、筋肉美学とでも言うのでしょうか。

うん、そういう事なのだろう。


「だがマリリンス、お前のやった事は罪だ。我々と一緒に来てもらおう。

そして、罪を償ってもらう。筋肉への、裏切りも込めて」

「いや、もう筋肉は関係ないだろ。」


こうして、マリリンスを無事討伐に成功した。

そして、たくさんいた元マッチョの男たちは、兵器の力でもやしっ子のようになっていた。


「俺達、なんであんなに筋肉にこだわってたんだろ?」

「きっと、筋肉の名を語る悪魔に取りつかれていたんだ」

「そうだな。筋肉はもう必要ないな。」

「よし、これからは頭の時代だ。さっそく、家に帰って勉強するぞ!」


その勉強を、変な方向に使われなければ良いが・・・


マリリンスの力が弱まった影響か、荒れていた島周辺の海は穏やかになっていた。

ハラユキ達はシャルルの兄を救い出し、船で街へと戻った。


「ハラユキさん、オリビアさん、本当にありがとうございました。

無事に兄を連れて帰ってきてくれて。」


シャルルは、目に涙を浮かべながらお礼を言う。


「色々大変だったけど、無事に助け出せてホッとしてるよ。

これからは、二人で宿を経営していくのかい?」

「はい、兄弟2人で、頑張っていこうと思います。

でも、いつかはハラユキさんも一緒に・・・」

「えっ、何?」

「い、いや、何でもないです!本当に、ありがとうございました!」


ちょっと慌てた様子で、シャルルは深くお礼を言った。


「じゃあ、お元気で」


ハラユキとオリビアが去ろうとしたところ、シャルルの兄が慌ててやってきた。


「ま、待ってくれ!」


息を切らしながら、シャルルの兄は2人を止める。


「俺も別れの挨拶させてくれ。それと、俺の名前も覚えていってくれよ。」


そういえば、シャルルの兄の名前をまだ聞いていなかった。


「俺の名は、オンボロギンボグゴリルルレートヂモボリボリブルボンガルバル

ドドリゴンマラデロサントーランビルボランゲラードララニーロング

ソロバーナラソローリンブナラーボノビングルリアンダローメンドラン

ゴワーシバーシブレーモードーラングランゴジバルセセビットマンダロン

ビロビロデロリンバークスモークスブランドールミットランダロード

ケッタンサンボーランバークニットサンドレア・リンスだ。

好きなように呼んでくれ!」

「じゃあ、シャルルのお兄さん。お元気で!」


ハラユキとオリビアは、トレフゴルドを後にした。

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