第6話 筋肉は世界の共有財産 Part2

ハラユキが目を覚ますと、そこは浜辺だった。

さっきまでの嵐がウソのように、周辺は晴れている。


「俺、助かったのか?それとも、ここは天国なのか?」


と、安心したのも束の間。ハラユキの周りは、マッチョな男達で囲まれている。

これが可愛い女の子の姿をした天使だったら、どれほど天国だっただろうか。

が、現実は筋肉の囲いが見えるだけ。


「な、なんだ!?」


マッチョな男たちは、じっとハラユキを睨みつけている。


「あ、あのぉ・・・」


恐る恐る尋ねると、一人のマッチョが口を開いた。


「筋肉無き者は人に非ず」


そして、ほかのマッチョ達も口々に同じ事を言い出す。


「筋肉無き者は人に非ず」

「筋肉無き者は人に非ず」


何を言っているのか分からないが、ヤバいという事はすぐ理解した。


「お前には、筋肉裁判が必要だ」


と言った瞬間、ハラユキを担ぎ出し、マッチョな男たちはすごい勢いで走り出した。


「おい、ちょっと!いきなりなんだよ!?」


ハラユキの抵抗など、マッチョの前では無力に等しい。

気がつくと、石で造られたお城のような建物に連れてこられた。


「く、くそ、いきなり変なとこに連れてきやがって、何なんだよいったい!」


ハラユキの言葉など無視するように、マッチョな男達は整列しだした。


「筋肉は大宇宙」

「筋肉は大宇宙」

「筋肉は大宇宙」


マッチョ達が口をそろえて唱和しだす。


「やばい、コレは、色んな意味でヤバい・・・」


そして、石の城から、綺麗な筋肉をした女性が出てきた」


「マリリンス様、罪深き男を一人連れてまいりました」


どうやら、その女性がマリリンスのようだ。

ほんとに、素晴らしい筋肉をした女性だ。

マッチョウーメン。


「聖なるマッチョ達よ、ひざまずくがよい!」


マッチョ達は、揃ってひざまずいた。


「この男が罪深き男か。ふむ、確かに罪深き体をしておるな。

その方、なぜ筋肉を付けぬ?」

「えっ、そう言われましても」

「貴様は筋肉を何と心得る?」

「えっと・・・、ムキムキ、ですかね」

「貴様、筋肉を侮辱しておるのか?」

「いや、筋肉を侮辱も何も」

「判決を言い渡す。貴様は、筋肉死刑だ!」


今まで聞いた事のない死刑方法だ。

しかし、どんな形であれ、こんな所で死にたくはない。


「じょ、冗談じゃない。こうなったら、ギャグ魔法でやっちまうか!」


そして、なんとなく使い慣れた気がする炎の呪文を唱える。


「毎日毎日激辛パラダイス、口に詰め込む鷹の爪!

辛さと辛(つら)さが同居してるから、気合一発火柱ボ~ン!」


巨大な火柱が、マッチョ達を包み込む。


「よし、この間に逃げ出すか」


そう言って出口に走っていったが、出口前には、マッチョ達が待ち伏せていた。


「おろか者め、貴様は筋肉をナメていたな」

「な、なぜだ?なぜ魔法が効かない?」

「真の筋肉に、魔法など効かぬ。いや、全ての攻撃は効かぬ」


筋肉万能説。


「そんなバカな!?どんな筋肉だよ」


まだ諦めず、ハラユキは稲妻と氷の魔法も唱えた。

しかし、真の筋肉の前では歯が立たなかった。

ハラユキは、絶対絶命のピンチを迎える。


「弱い、弱いわ。筋肉無き貴様は、虫けら以下よ。

この者を牢獄へ入れておけ。明日の夜、筋肉死刑を決行する」


マッチョ達は、筋肉で雄たけびをあげた。(胸筋を激しくピクピクする)

マッチョ達に運ばれ、ハラユキは牢獄に閉じ込められた。


「ど、どうすればいいんだ・・・魔法も効かないんじゃ、

何をやっても太刀打ち出来ないぞ・・・」


もはや絶体絶命のハラユキ。

すると、同じ牢獄に一人の男がいる事に気付いた。

見た感じは、他の男達と同じようなマッチョ男子だった。


「あのぉ、何で牢獄に入ってるんですか?」

「実は、筋肉が原因でマリリンスに投獄されました。」

「筋肉が原因で?」

「はい。私の筋肉が足りないばかりに、マリリンスの怒りを買ってしまったのです」

「そ、そうなんですか。しかし、見たところ見事な筋肉を持っていますが、

何がいけなかったんです?」

「私の・・・」

「私の?」

「私の、上腕二頭筋がだめなんです。仕上がりが足りなかったため、

マリリンスの反感を買いました。よって、投獄されたんです。」


何がどう違うのかさっぱり分からないが、マリリンスはこの上腕二頭筋の

何かが気に入らなかったんだろう。

何かはさっぱり分からないが。


「じゃあ、あなたも死刑に?」

「おそらく。何度鍛えても、私の筋肉はダメだったので、いずれ死刑は確定でしょう。」

「そんな無茶苦茶な・・・」

「私がいけないんです。本物のマッチョに憧れて、この島に来てみれば

トンデモ魔族の巣窟でした。家族の反対も押し切ってこの島に来たのですが、

失敗でしたね。あぁ、妹の言う通り、島に来るのを止めておけばよかった」

「ん?妹!?」

「はい、妹が一人います。いや、家族はその妹だけですけどね。」

「もしかして、シャルルの事ですか?」

「えっ、何でシャルルの事を!?」


ハラユキは、シャルルから兄を助けて欲しいと言われた事を話した。


「そうだったんですか。シャルルには心配ばかりかけたな。」

「なんで、この島にわざわざ来たんですか?別に他の街でもマッチョにはなれるでしょ」

「最初は、マリリンスに筋肉をすごく褒められ、自惚れてこの島へ渡りました。

しかし、来てみればケタ違いのマッチョがゴロゴロおり、私など相手にならないほどでした。

でも、ここで鍛えれば、他の人と同じようなマッチョになれると信じていたのですが、結局はこのザマです」

「あぁ、マリリンスに目を付けられたというのは、そういう意味だったのね。」


どうやら、マリリンスはマッチョとして見込みのある人間を片っ端からスカウトし、

この島で作り上げていたようだ。

ただし、理想のマッチョになれない者は、このような目に会うという、

とても理不尽な環境にあるらしい。


「しかし、このままだと死刑にされるのを待つだけになる。どうすれば・・・」

「確かに、このままだとアウトです。しかし、死刑の前に最後のチャンスがあるんです」

「最後のチャンス?」

「はい、筋肉の美しさをうまくアピール出来れば良いんです。私は、今まで

それで死刑を免れてきました。今度はうまく行くかは保証が無いですが、

それで一旦は逃れられるかもしれません。」


「いや、俺は筋肉皆無なんだけど・・・」

「諦めるには早いです。筋肉は無くても、マッチョポーズで魅せられる可能性はあります」

「マ、マッチョポーズ?」

「はい。明日までまだ時間はあります。今から、私のマッチョポーズトレーニングを

受けてください。もしかしたら、死刑を免れるかも知れません」


無茶苦茶な方法ではあるが、助かる術はそれしかない様子。

一か八か、マッチョポーズ大作戦で乗り切る作戦に出る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る