第5話 身も心も支配された街、リンストル Part4

3日間、リーカーの住処に身を隠し、再びライブの日が訪れた。

オリビアはプレゼントっぽく包まれた大きめの箱の中に入り、

ライブ会場へとハラユキとリーカーによって運ばれた。

そして、いつも通りアスタロットンのライブが開始される。


「みんな~、今日もアスたんのライブ来てくれて、ありがと~!!」


会場は、相変わらず熱気に溢れている。

同時に、汗臭さも溢れている。

さらに、気持ち悪さも溢れている。

そんな中、リーカーが例の作戦を実行しようとしていた。


「アスた~ん!今日は、特大のプレゼントがあるよ~!」

「プレゼント~?なになに?」

「このビッグな箱を見てくれ、コイツをどう思う?」

「すごく。大きいです」

「大きいのはいいからさ、このプレゼントを受け取ってくれよ!」

「うん、ありがと~!」


そして、舞台上へオリビアの入った箱を持って行き、

予定通りアスタロットンに接近する。


「じゃあ、開けてもいい?」

「待って、アスたん。すごく高価なプレゼントなんだ。


俺が開けるから、アスたんは目をつむって、向こうを向いててくれるかい?」


「うん、いいよ~!」


そして、後ろを向いてアスタロットンが目をつむった。

チャンスが訪れる。

リーカーは箱のリボンをしゅるしゅると取り、

箱を開けた。

そして、オリビアが飛び出し、アスタロットン目がけて剣を振り下ろす。


「くっ!!」


しかし、寸での所で避けられてしまった。


「しまった、仕留められなかった」

「箱が開いた瞬間、一瞬殺気を感じたんだよね。

だからおかしいと思って、すぐに後ろを振り向いたんだよ」


作戦は失敗した。

そして、ファン達はぞろぞろとオリビアとリーカーに近づいてくる。


「まさか、リーカーにかけた術が解けてたのは計算外だったよ。

でも、このアスたんファンのみんなの攻撃を、2人だけで凌げるかな?」


数百人はいるであろうファン達。

とても、2人で歯が立つ数では無い。


「くそ、万事休すか・・・」


その時、ハラユキがライブ会場客席の後ろからファン達に声をかける。


「おーい、アスたんのライブ再開まで、俺のギャグを見てくれ!」


そして、ハラユキがギャグ(魔法詠唱)を始める。


「ピカピカ電球オシリに突っ込み、痺れる刺激で大混乱!

上から下まで走る電流、放電作業で鼻からド~ン!」


ハラユキの鼻の穴から、高圧電流が放たれる。

ついでに鼻垂れる。

会場客席のど真ん中に雷が落ち、ファンは片っ端から体が痺れた。

そして、全ファンの動きを封じた。


「オリビア、今だ!しばらくはこいつらの動きを封じられる!」


チャンス到来。

オリビアは剣をアスタロットンに向け、


「これで決まりだな。アスタロットン。覚悟は出来てるだろうな」


剣を高く上げ、アスタロットンに猛突進する。


「ダメ、やられる・・・」


その時だった。


「お願い、やめてーーーー!!」


アスタロットンの声?

いや、違う。

別の女の子の声だ。


「アスタ姉ちゃんを殺さないで」

「お願いだから」

「アスタお姉ちゃんをイジメないで!!」


舞台横から、子供たちが20人ほど出てきた。


「な、何だあの子たちは?」


子供たちは、泣きながらアスタロットンを助けようとしている。


「お前たちは、魔族の子供か?」


良く見ると、人間では無かった。

魔族の子供たちが、ぞろぞろと出てきたのだ。


「お願いだよ、アスタ姉ちゃんを見逃してよ!」


子供たちは、泣きながらオリビアに懇願する。


「君たちは、アスタロットンの仲間なのか?

もしかして、利用されているとか?」

「ちがうの、お姉ちゃんは私達のためにやってたことなの」


何か事情がありそうなので、詳しく聞いてみた。


「ぼくたち、魔族の孤児なんだ。大魔王からも見捨てられて、

生き延びれず死んだ仲間もたくさんいたんだ。

そんな中、アスタ姉ちゃんは僕達を助けるために、

新魔王の配下となって、この場所を支配するよう言われたんだ。

みんなから食糧とかは、全てぼくたちに食べさせるための事だったんだ」

「そうだったんだね」

「お姉ちゃんは魔族だけど、決して人の命を奪うような悪い事はしない人だよ。

だからこそ、能力を使ってファンの人を増やし、食べ物とかを恵んでもらう代わりに

せめてみんなに楽しんでもらおうと思っただけなんだよ」


たしかに、アスタロットンは誰ひとりとして殺してはいない。

むしろ、考えようによっては人々を幸せにしてた。


「そんな話、信じろというのか?」


オリビアは、いまいち納得していない。


「まてよオリビア」


声をかけたのは、リーカーだった。


「アスタロットンは、確かに特殊能力を使って人々を洗脳し、無理やりファンにはした。

しかし、不思議なものでな、ライブが終わった後、みんな感動で満たされていた。

洗脳された影響が無いと言えばウソになるが、本気で不幸に感じている人はいない」


そう、洗脳されていた人たちは、全員澄んだ目をしていた。


「なぁ、女剣士さん。アスたんを許してやってくれないか?」


そう言ってきたのは、ファンの一人だった。

ハラユキの雷魔法による衝撃で、ファン達の洗脳が解けたようだ。


「確かに私たちは洗脳され、貢がされていた。しかし、どこかアスたんの

優しさが伝わってきた。それは、この子供たちに対する思いの強さが、

私たちにも伝わったのだろう。

だから、決して誰ひとり恨んではいない。これは本当だ。

どうかお願いします。アスタロットンを、助けてあげてほしい」


みんな、オリビアに向けて頭を下げた。


「なぁ、オリビア。俺も、アスタロットンが悪い奴とは思えない。

クエストクリアにはならないけど、クエストのために命をむやみに奪うのは違うと思う。

魔王討伐に向けて遠回りになるかもしれないけど、ここは、俺からも

みんな同様の気持ちでお願いしたい」


オリビアは、剣を鞘におさめた。


「だが、ギルドや王様には何て言うんだ?可愛そうだから見逃したとでも言うのか?」

「そ、それは・・・」


討伐としてこの地へ来た以上、オリビアの言う事も最もだ。

このままでは、罪人扱いを受ける可能性もある。


「まって!」


アスタロットンが口を開く。


「私も、本当に申し訳ない事をしたと思ってる。この子たちを救うために、

新魔王に従って、みんなに迷惑をかけた。

せめて、傷つけないようにと気をつけていたつもりだけど、

やっていた事は、やっぱ悪い事よね。いくら、この子たちのためとは言え・・・」


アスタロットンは、目に涙を浮かべながら言う。


「オリビア、俺も長い期間洗脳されていたが、不思議と嫌な気分は一つもない。

それは、アスタロットンが本当の悪い奴では無い証拠だと思うんだ。

彼女のライブは、不思議と心を温かくしてくれた」

「リーカー・・・」


殺伐とした空気は収まり、静かな雰囲気になった。


「よし、ここはひとつ」


ハラユキが突然、舞台に上がった。


「みんな~、暗い顔してないで、笑って~!!」


そして、ハラユキがワンマンショーを始めた。


「さあ始まったよハラユキコミックショー!今からこの棒をおしりから

入れて、口から出しまーす!」


ズボッ!


「おお、いた~い!!」


アホな芸をするハラユキ。

しかし、その馬鹿馬鹿しさゆえに、子供たちも大喜びだった。


「あはははは!おもしろーい!!」


気がつくと、そこにいたみんなが笑っていた。

この場は、まるで世界一大きな舞台で大爆笑を取っている雰囲気だった。

そしてショーが終わり、ハラユキがアスタロットンに話しかける。


「アスたん、君がやった事は良くは無かった。けど、君は能力など使わなくても

十分魅力的な女性だ。心から優しく、何より人を引き付ける力を持っている。

これからは、能力など使わず、正当にアイドルを目指してはどうだろうか?」


男達も全員、笑顔でうなずく。


「ありがとうねハラユキ。私、小さい時からアイドルに憧れてたの。

だから、魔王からもらった力を駆使すれば、子供たちも幸せにできて、

私も幸せになれると思ったの。

でも、それは偽りの姿だった。それじゃ、この子たちもみんなも幸せにできないよね。

やっぱりわたし、ちゃんとしたアイドルになりたい」


アスタロットンは、大粒の涙をポロポロと出しながらも、笑顔を見せる。


「大丈夫だよ。アスたんは、立派なアイドルだよ。

だって、君の笑顔は、誰よりも素敵だ。その笑顔だけで、

みんな心が温かくなる。

これは、アスたんが本物のアイドルという証拠だよ!」


一同も、ハラユキの言葉に乗っかる。


「そうだよアスたん、君は最高だよ!」

「アスたんは女神!」

「アスたんこそ究極のアイドル!」

「アースーたん! アースーたん!」


男達は、アスたんコールをしながら、大いに盛り上がる。

そして、オリビアがつぶやく。


「何こいつら、キモ!」


そして、アスタロットン最後のライブが行われる。


「みんな~、ここでのアスたんライブは最後になるけど、

またみんなの元に帰ってくるねぇ~!約束するよ~!」

「ア~スた~ん!!!!!」


過去最高の盛り上がりをみせ、ライブはつつがなく終了した。


「ハラユキ、ありがとう」


ライブが終わり、ハラユキに話しかけるアスタロットンは

とてもすがすがしい表情をしていた。


「あのね、私が能力を手に入れられたのは、この虹のクリスタルなの。

なんでも、むかし魔王が作ったと言われるクリスタルらしくて。

私の持つチャームの力や魔法に対する耐性が増大するというのもあって、

魔王が私に預けたの。

そして、この街でこの子達を育てる環境を貰える代わりに、

この街を支配する事を契約させられたの。

でも、もう必要無いわ。このクリスタルを持って行って。

そうすれば、討伐したも同然になると思うから」


ハラユキは、虹色のクリスタルを手に入れた。


「ありがとうアスたん。これを、ギルドに持って帰って説明してみるよ。

そして、君が本物のアイドルとして世界に羽ばたく事を心から祈るよ!」


ハラユキのくせに、くさいセリフを言う。

あー、くさい。


「心配するな、この街の後始末は俺が動く。

だから、心配せず戻って、次のクエストに挑んでくれ。

この街のみんなも強力してくれる。

それに、街が元に戻れば、出て行った女性達も帰ってくるだろう」


リーカーは、この街に残り元の状態へ戻すため尽力をつくすようだ。


「分かった、この街の事はリーカーにまかせるよ。

一時期とは言え、同じ女(アイドル)を愛した男。

誰よりも信頼に値するよ」


良く分からない絆が発生している。

愛したというか、ただのアイドルのファンというだけなのに・・・

そして、オリビアがつぶやく。


「何こいつら、キモ!」


アスタロットン、そして子供たちも、笑顔で見送りをしてくれた。

そして、ハラユキとオリビアはその場を後にした。


ギルドへ戻り、戦利品である虹色のクリスタルをシューラに預け、

判定結果、このクエストの達成が認められた。

「よし、クエストクリアだ!これで魔王に1歩近づけたぞ!」

「そう言えば、A級クエストは他にもあるんだよな?

いったい、いくつクリアが必要なんだろ?」

「まあ、詳しくはシューラに聞いてみようではないか」


二人は、シューラに今後のクエストについて確認しに行った。

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