第5話 身も心も支配された街、リンストル Part3

ライブ当日、会場へ向かうと、いつも通りファンの男達が集まっていた。

みんな、まだかまだかと息を荒だてている。


「いいかハラユキ、私がパーを出せという時は、顔をつねる。チョキの時はわき腹をつねる。グーの時は足を踏む。これに合わせて出せば良い。絶対に間違うなよ」

「わかった。頑張って合わせるよ」


そして、アスタロットンが舞台に姿を現す。


「みんな~、今日もアスたんのライブに来てくれてありがと~」


会場が、大歓声に包まれる。


「今日は、みんなが待ちに待ったイベントの日だよ~!願いを叶える、ジャンケン大会だ~!」


会場が、さらに大歓声に包まれる。


「準備はいいな、ハラユキ」

「ああ、いつでも大丈夫だ」


ハラユキは、集中力を高めた。


「じゃあ、行くよ~!じゃーんけーん、ポン!!」


の、ポンの寸前、オリビアは全力で足を踏む。


「痛てええええええ!!!」


ハラユキは痛烈な痛みを抑えながら、グーを出す。

おかげで、無事に勝利する。


「じゃあ、次行くよ~!じゃーんけーん」


再び、ポンの寸前に今度は顔のほっぺを全力でつねる。


「ぎゃああああああああああああああああ!!!!」


痛みを必死にこらえながら、パーを出す。

おかげで、無事に勝利する。


「じゃあ、どんどん行くよ~!!」


ジャンケン大会は、順調に進んでいった。

そして、気がつくと残りはハラユキとリーカーだけになっていた。


「しまった、そう言えばリーカーもジャンケンが鬼のように強かった」

「おい、どうするんだよ、もう体が限界なんだが・・・」

「根性出せハラユキ、勝利はもう目の前だ。気合で乗り切れ!!」


そう言いながら、けっこう楽しそうな表情をしているオリビア。

対するハラユキは、痛みに耐えるので必死だった。


「じゃあ、行くよ~!じゃーんけーん」


全力で足を踏み、悲鳴を上げながらグーを出すハラユキ。

しかし、リーカーもグーを出したため、引き分けだった。


「う~ん、あいこかー。じゃあ、もう一度行くよ~!!」


ハラユキの顔は青ざめた。


「じゃーんけーん」


わき腹を超全力でつねり、泡を噴きながらハラユキはチョキを出す。

しかし、リーカーもチョキを出したため、また引き分けだった。


「だ、だめだ、もう限界だ・・・」


涙を流しながら、倒れそうになるハラユキ。

すると、アスタロットンが


「このままじゃ、決着付かないなぁ。じゃあ、二人で何か対決して、勝った方が私と握手ね!!」


思わぬ提案をしてきたアスタロットン。

だが、ハラユキからすれば、少しありがたい気もした。


「よし、ハラユキ。男同士らしく、決闘をしよう!」

「・・・えっ!?」


ハラユキ、大ピンチ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は戦うなんて出来ない」

「男らしくないぞハラユキ、俺と勝負しろ!」


けっこう、強引で脳筋なリーカーだった。


「待てリーカー、ハラユキは剣術の経験は無い。どう考えても不利だ。それに、お前に有利な事で勝負しても、アスタロットンも納得行かないだろう。

そこで、このような勝負はどうだ?

二人で1人1人、アスタロットンの前で口説き文句を言い、良かった方と握手をするのはどうだ?」


会場がざわつく。それもそのはず、今までに無い展開だったからだ。

アスタロットンも、思わぬ提案をされて少し戸惑う。


「どうだろう、アスタロットン。せっかくだから、二人の男から真剣に口説かれる気分を味わってみるのも一興だぞ!」


オリビアの提案に、アスタロットンも迷っていたが、


「いいよ、アスたんを最高の言葉で口説いてね!!」


会場は盛り上がる。が、同時に嫉妬と取れる罵声も混じっている。


「よし、ハラユキ、ちょっと予定は変わったが、例の作戦を実行するぞ」

「・・・分かった」


二人は、この瞬間を待っていたと言わんばかりに、何かを実施するようだ。

舞台に上がった二人は、口説く順番を決める。

まずはリーカーからだ。


「アスたん。俺は、君を見てから冒険者だった自分を捨て、君に全てを捧げる事に決めた。だから、君のためなら死ぬことだって出来る。愛してる、アスたん」


なんとも歯の浮くようなセリフだが、表情は真剣そのものだ。

そして、客席からはブーイングが飛ぶ。


「ありがとう、リーカーさん。これからも、アスたんをいっぱい応援してね!」


リーカーは、あまりの嬉しさに大粒の涙が出ていた。

そして、ハラユキの出番が来た。


「アスたん、俺の口説き方は独特なんだ。それは、ギャグで君を魅了するやり方だ。

だから、そこで俺のギャグを見ていてくれ!」


いきなり、頭のおかしい事を言っているように見えますが、

実はこれこそが二人の作戦だったのだ。


では、昨晩考えた二人の作戦会議の様子をご覧ください。


---------------------ここから--------------------------


「作戦はこうだ。まず、ジャンケンで優勝を取り、舞台に上がる。そして、握手の代わりにギャグを見て欲しいと言い、ギャグと見せて詠唱開始。そして、全力でアスタロットンに魔法をぶつける。これで、ミッションコンプリートだ」


「そ、そんなうまく行くかな・・・」


「大丈夫だ。お前の魔法はふざけているが、強力だ。奴とて、至近距離でくらえば一溜まりもない」


「でも、うまくいっても観衆はどうする?大暴れする可能性が高いぞ」


「それはあるな。だから、舞台の奥から全力で逃げろ。私も、合わせて逃げる。逃げ切ったら、別々でギルドへ戻るぞ」


「分かった。不安だけど、とりあえずその方法で行こう。けど、あの子にいきなり魔法をぶつけるというのは、気が引けるな・・・」


「相手は討伐対象だ。気にする事は無い。心を鬼にしてやれ!」


「なんか、俺達の方が悪い奴らに思えてきた・・」


---------------------ここまで--------------------------


ハラユキはギャグ披露と称し、魔法を唱え始めた。


「今日~はとっても激辛いちばん、口に含んだデスソース!辛さと辛(つら)さが一度に来ました、口から飛び出す火の球ボ~ン!」


大きな火の球がハラユキの口がら現れ、アスタロットンめがけて火の球が飛ぶ。

そして、アスタロットンに命中した。

アスタロットンを包み込むように、巨大な火柱が立った。


「よし、やったか?」


火柱が消えるまで様子を見ると、アスタロットンに目立った外傷は無く、そこに立っていた。


「あ~ん、あつ~い! ちょっと火傷しちゃった!」


小さな火傷すら見当たらない。ダメージは、ゼロと思ってよさそうだ。


「も~、いくら情熱がすごいからって、こんなに熱くしちゃダメだぞ~!」


なぜか、客席から大歓声が飛んだ。


「それとも~、私をその程度の魔法で殺すつもりだったのかな~」


先ほどまでの、アイドルのような可愛い顔つきから一変、

アスタロットンの表情が、悪魔のような顔つきに変わった。


「最初から気付いてたよ、あなたともう一人の人が私を狙ってたのは。けど、面白そうだから泳がせてたのよね」


計画はバレていた。ファンのふりをしたつもりだったが、アスタロットンには見抜かれていた。


「けど、あなたの魔法が面白いから気に入っちゃった!あなたも、私の虜にしてあげる!!」


アスタロットンが光りだし、目から出た光線がハラユキに直撃する。


「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」


ハラユキが吹き飛ばされる。


「おい、ハラユキ、大丈夫か!?」


オリビアがすぐにハラユキに声をかけるが、ハラユキの反応が無い。


「ま、まさか死んだのか・・・」


すると、ハラユキが少しづつ動きだす。


「おお!ハラユキ、無事か!」

「あ、あす・・・」

「ん?」


「アスた~~~~~~~~~~~ん!!!」


ハラユキは、他の男達と同じ状態になっていた。


「アスた~ん!最高!俺の全財産あげる~!ハァハァ(;´Д`)」


完全に、アスタロットンの虜になっていた。

ほとんど貯金も無いくせに、全財産あげるとか言いだしてる。


「おい、ハラユキ!いい加減にしろ!とっとと目を覚ませ!」


しかし、オリビアの声はハラユキに届かなかった。


「仕方がない、無理やり連れ出すか」


オリビアはハラユキの腕を引っ張りながら、会場を抜け出そうとする。


「や~ん、怖かった~!みんな~、あの悪い奴やっつけて~!」


その瞬間、ライブに来ていた観客達が表情を変え、二人に殺意を向けてくる。


「コロス。アスたんを傷つける者は、コロス」


一斉に男達が襲いかかってきた。


「アスた~ん、アスた~ん」


まだラリっているハラユキ。

オリビアは、ハラユキをかかえながら走って逃げるのは不可能と考えた。

だが、大量の男達を相手に戦うのは危険すぎる。

オリビアは、何か良い方法は無いかと考える。


「どうするか・・・よし、一か八かだ」


オリビアはハラユキに向かって


「おい、ハラユキ。あの遠くにある山の頂上に、アスたんが裸でお前を待っているぞ!」


かなり強引な方法を取るオリビア。そして・・・


「ア、ア、アスたああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!」


ハラユキは、目をハートにするという超古い表現をし、山の頂上目指して全力でダッシュしていった。


「よし、うまくいった」


続いてオリビアも、追いかけてくる男達をかわしながら、何とか逃げ切った。

オリビアは、ハラユキが全力で走って行った方向へ向かう。

すると、涙を流しながらうなだれていたハラユキがいた。


「う、うう・・・」

「何をメソメソしているんだ」

「あ、アスたんがいない・・・」

「そうだな。いないな」

「よ、よくもウソをついたな・・・許さん。許さんぞ!!」


ハラユキが、めずらしく怒りを露わにしている。


「なんだ、なんか私に文句でもあるのか、あ!?」


先ほどまで怒りを露わにしていたハラユキは、急におとなしくなった。


「うう、アスた~ん、アスた~ん」


もはや、ハラユキはアスタロットンの完全なファン。

底なし沼へと入りこんでしまった。


「どうしようもないな、このグズは。しかし、奴が特殊能力で多くの男達を魅了していた事は確かだ。女が一人もいなかった所を見ると、おそらく女には効かないのだろう」


アスタロットンを色々と分析していると、誰かの足音が聞こえた。


「誰だ!?」


オリビアが振り向くと、そこにはリーカーがいた。


「待て、オリビア。俺はお前たちを攻撃しに来たんじゃない」

「・・・リーカー、お前、正気に戻ったのか?」

「ああ。何故か分からんが、先ほどお前たちが舞台で暴れた瞬間、俺は元に戻ったようだ。お前たちをひそかに追いかけていたら、ここへ辿りついたんだ」


どうやら、リーカーはアスタロットンの呪縛を逃れる事が出来たようだ。

そこで、リーカーがあのような事になった経緯を聞いた。


「俺も、A級ライセンスを取得した際、ここに来てアスタロットンの討伐をするつもりだった。そこで、ライブ会場を発見したので、隙を見てアスタロットンを攻撃したのだが、その後の記憶が無い。おそらく、その時に術をかけられたのだろう」

「なるほどな。ハラユキはともかく、お前まえもがアスタロットンの虜にされてしまうとはな」

「あのファン達は、本来この街に平和に暮らしていた人達のはずだ。しかし、アスタロットンが男達に術をかけてから、女性たちは怒って、子供たちを連れてみんな街を出て行った」

「なるほどな。あんな気持ち悪い男共と生活なんて嫌だもんな。あんな気持ち悪い男共と生活なんて嫌だもんな」

「なんで2回も言った?」


ハラユキはおかしくなってしまったが、リーカーが正気に戻ったのは大きい。

オリビアは、この状況を利用出来ないかと考えた。


「奴は、魔法が効かないのだろうか?だとしたら、肉弾戦で責めるしかないという事か」

「わからないが、さっきの様子だと、効かないのかもしれないな」

「アスた~ん・・・」

「とりあえず、奴に近づく方法を探さなければ。今下手に近づくと、あのファン共に攻撃されてしまう」

「いや、それなら方法はある。お前を供物と称して、箱の中に入れる。それを、俺がアスタロットンの近くまで運ぶ。アスタロットンは、俺の洗脳が解けた事は知らないはずだ」

「アスた~ん・・・」

「なるほどな、それなら近づけるか。後は、いかに奴の隙をついて攻撃出来るかだな」

「それも、俺がなんとかしよう。必ず、アスタロットンもどこかで油断が生じるはずだ。それを狙おう」

「アスた~ん・・・」


・・・


「うるせーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


オリビアの鉄拳が、ハラユキの顔面を捉えた。


「ぶべらーーーーーーーーーー!!!!!」


ハラユキは吹っ飛んだ。

きりもみしながら吹っ飛んだ。


「いい加減にしろハラユキ、早く正気に戻らないと、分かってるな!?」


とても怖い顔で、ハラユキに圧をかける。


「わ、わるかった!!これ以上はやめてくれ!」


ハラユキは、涙を流しながら正気に戻った。


「え、何でハラユキは元に戻ったんだ?」

「さぁな。私への忠誠心が、アスタロットンの洗脳を解いてくれたのだろう」

「忠誠心ねぇ・・・」


ハラユキはガタガタと震えていた。

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