第5話 身も心も支配された街、リンストル Part2

山小屋に待機してから2日後の夕方過ぎ、異様な光景を目の当たりにした。

突然、街の男達が揃いも揃ってどこかに向けて歩き出したのだ。


「どこに行くんだろう?」

「追いかけてみよう。アスタロットンの場所へ行けるかもしれない」


二人でこっそり、男たちの後をつけていく。

森の中の、奥深くまで男達は進んで行く。


「な、何があるんだろう・・・」


不安を抱えながら、男達の後を付けて行く。

しばらく進むと、広い場所に出た。

そこには、大きなステージのような箇所があった。


「なんだここは?」


不思議に思っていると、突然ステージに明かりが点いた。

そして、ステージに1人の美少女が現れた。


「みんな~、今日もアスたんのために集まってくれてありがと~♪」


その瞬間、男どもから大きな歓声が湧く。


「アスたん~」

「こっち向いて~」

「俺と目が合った~」

「ペロペロさせて~」


色んな声が聞こえてくる。ほとんどが気持ち悪い。

そして、謎のライブが始まり、アスたんは歌を歌いだした。

会場は大盛り上がりだ。

男どもは、全ての体力を使いきる勢いで、アスたんに声援を送る。


「な、何だコレは・・・」


ハラユキもオリビアも、呆れた顔でこの状況を見ている。

ここは、完全にアイドルのライブ会場だった。

アイドル好きな人以外が見れば、異様な光景だ。

なぜ、こんな光景を見ているのだろうか・・・


数曲歌い終わった後、アスたんはみんなに話しかける。


「今日も最高のライブが出来て良かった~!いつも見に来てくれて

ありがとうね!

あ~、いっぱい歌ったらお腹が空いてきちゃったなぁ~」


と言った瞬間、男たちが一斉に騒ぎ出す。


「アスたん~、俺が作った野菜を食べてくれ~!」

「いいやアスたん、知り合いがくれた上質の肉を食べてくれ~!」


男たちは血眼になって、色んな物を貢ぎだした。


「うれし~!みんなのアスたんへの愛、しっかり受け止めるね~!」


食糧を中心としたいろんな貢ぎ物を全部受け取った後、

アスたんは舞台か姿を消した。

男たちは、魂が抜けたかのように、家へと帰っていった。


「なんだコレは!?気持ち悪い。超気持ち悪い!」


オリビアは全身から蕁麻疹が噴き出ていた。


「なあ、もしかして、さっきのアイドルがアスタロットンじゃないのか?

アスたんとか言われてたし。」

「・・・あんなのが支配しているのか」


おそらく、さっきのアイドルが標的のアスタロットンと思われるが、

思っていたのと全然違っていた。

というより、ただの可愛いアイドルにしか見えない。


「まさかアレか?アスたんに気に入られたいがため、

アスたんに会いたいがため、色んな物を貢いでいるのか?

ただのゴミ連中が集まっているだけの街じゃないか!!」


オリビアは怒りを露わにした。、

ただただアイドルで楽しんでいる男たちが住む街だった。

いや、アスたんの魅力に支配されている街だった。


「そう言えば、この街には女の人がまったくいなかったもんな。

やっと理由が分かったよ」

「とりあえず、あの魔族とそのファンまとめて始末するか」


オリビアは顔面に多数の血管を浮かべながら、

一般人では出せないような殺意を露わにした。

そして剣を抜きだして全ての奴に斬りかかろうとした時、

オリビアはある人物に気付く。


「あ、あれはリーカー?」


オリビアがリーカーと呼んだ男、顔はやつれていたが、ガタイの良い男だった。


「お、お前、やっぱりリーカーじゃないか!!」

「あぁ、誰かと思えばオリビアか。なんでこんな所にいるんだ?」


二人は知り合いのようだった。


「オリビア、この人は?」

「彼はリーカー。私の、訓練校時代の同期だ。

そして、A級ライセンス所有者でもあるのだ」


かなりの腕前を持つ冒険者のようだが、なぜこんなところで

アイドルファンをやっているのだろうか。


「お前、冒険者としての仕事はどうした?

ここに、あいつを討伐しに来たのではないのか?」


すると、リーカーは少し怒り顔でオリビアに言い返す。


「確かに、俺は奴を、アスタロットンを討伐すべくこの街へ来た。

しかし、俺は気付いたのだ。

アスタロットンは、いや、アスたんは、この世に現れた天使だと!!」

「・・・は?」

「俺は、あんな天使のようなアスたんを討伐しようなどと、

最低すぎる行為をしようとした。

俺は猛省し、冒険者を止めた。

そして、この街で一生、アスたんを応援すると神に誓ったんだ!!!!」


リーカーは、曇りなき眼で強く語った。


「死ね!」


オリビアがリーカーに斬りかかる。

すると、舞台上からこちらに向かって声が聞こえる。


「ちょっと~、そこの人!アスたんの大事なライブ、

邪魔するような事しないでよ!

みんなが迷惑してるでしょ!!」


討伐対象であるはずのアスタロットンは、言わば世間的に悪者だ。

しかし、この場所ではオリビアが一番の悪者となっている。


「貴様、いい加減にしろよ」


オリビアがアスタロットンに殺意むき出しで近づこうとする。

しかし、アスタロットンに心酔する連中が大量にいる中で、

このまま斬りかかるのはマズい。


「ま、待てオリビア。いったん落ち着け!」


慌ててオリビアの暴走を止めるハラユキ。

そして、剣先を喉元に付き付けられる。


「ほう、私に指図とはいい度胸だなハラユキ。

死にたいのか、ん?」


目がすわっていた。

今、この場で最も死に近いのはハラユキだった。


「ち、違う!ここにはアスタロットンのファンだらけだろ?

下手に暴れたら、ファン達に何されるか分からんし、

アスタロットンもどんな攻撃をしてくるか分からない」


オリビアの表情はとても怖かったが、少しづつ収まりつつあった。


「確かに、お前の言う通りだ。このままだと、大参事になるところだったな」

「とりあえず、ライブは定期的に行っているみたいだし、

ここは一つ、ファンのフリしてチャンスを待とう。

幸い、オリビアの知り合いもいるようだし、情報が色々と聞けるかもしれない」


二人はライブが終わるのを待ち、ライブ終了後にリーカーに

アスタロットンについての情報を聞いた。

すると、以下の事が分かった。

・アスタロットンは、一週間に1回、ライブをやっている。

・ライブは、必ず夜7時から開催される。

・ライブ会場は、毎回同じ場所で行われる。


つまり、代り映え無く毎週同じようなライブが行われているという事だ。

これを利用し、どのようにアスタロットンへ攻撃を仕掛けるか、

二人はミーティングをする事にした。


「ファンが大量にいるから、迂闊に攻撃を仕掛けると

ファンから何をされるか分からないな」

「やはり、ファンを全員始末してから攻めるべきだろうか」

「だから、なんでファンを殺す方向で考えるんだよ」

「いや、あいつら気持ち悪いから」

「だからって、ダメでしょ」

「じゃあ、どうやってアスタロットンを攻撃するんだ?」

「それは・・・」


何も良い案が思いつかない。

すると、リーカーが来た。


「お前たち、次のライブが楽しみで、夜も眠れないのか?」


ずいぶんとトンチンカンな事を言ってくる。


「次のライブは、ファン感謝デーになるからな。ジャンケン大会で

優勝すると、舞台上で直接アスタロットンと握手できる、

ファンにはアストロットンと唯一触れる事の出来るチャンスだ!

ライブ前夜は、ハァハァが止まらんくなり、一睡も出来んぞ!!

はははははは!!!

さて、次のライブに向けて、英気を養うとするか!」


そして、リーカーは去って行った。


「リーカーの奴・・・あんなキモい奴じゃなかったんだが。」

「そんなに、アスタロットンに魅了される何かがあったのかな?

この前のライブを見る限り、かわいい子だとは思ったよ。

けど、そこまでハマるようなアイドルには見えなかったな・・・」

「だが、リーカーのさっき言っていたイベント、これは使えるかもしれん」

「えっ、さっきのジャンケン大会?でも、俺ジャンケン弱いよ。

あんな多くのファンを相手に勝ち抜くのは無理だよ」

「大丈夫だ、私はジャンケンで相手が手を出す瞬間、何を出すのか

完全に見極められる特技がある。

だから、ジャンケンで負けた事が無いのだ。

訓練校でも、この技を駆使して有利に成績を収めたものだ」

「そ、そうなんだ・・・」

「だから、これを使って舞台上に上がる。ハラユキ、私がうまく合図するから、

お前がそれに合わせてジャンケンをしろ。そうすれば、必ず勝ち抜ける」

「わ、分かった。他に手も無いし、それで行こう」


オリビアの提案に乗る形で、二人はライブ当日を待った。

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