第3話 ギャグ魔法パニック
旅も流れ流れて、大きな街を発見した。
ここは、バーニングタウン。
ダイヤモンドタウンに匹敵する大きな街だ。
しかし、この街には劇場が無く、娯楽施設よりは
冒険者向けの施設が多い街だ。
なので、ギルドが非常に立派なのだ。
しかし、芸人のハラユキには縁の無い街であった。
だが、路銀は尽きる。
どんなに節約しても、金は無くなる。
ハラユキは、お金を稼ぐべく、ストリートギャグステージを
勝手に開催する事にした。
「出来るだけ人が多く通るとこ無いかな~?」
なかなか、ベストな場所が見つからず、テキトーに歩いていると、
「おっ、ここがあったか。盲点だったな」
見つけた場所は、街の自慢と言っていいほどのギルド前だった。
ここであれば、冒険者がたくさん行き来するので、
ターゲットを冒険者に絞った。
「よし、人気冒険者に気に入ってもらえれば、知名度を上げるチャンスだ!」
そんな淡い期待を抱きながら、ステージを開催する。
「さぁさぁ、ハラユキギャグ劇場、始まるよ~」
大きな声で呼び込みをし、多くの人が集まる。
「なんだ?」
「変人か?」
色んな人が色んな事を言ってハラユキが何者なのかを憶測しているが、
ハラユキは気にもとめず、ネタを続ける。
「はいはい、激辛料理を食べたら、口の痛さに思わず水飲むけど、
水を飲んだら辛さが増すからオシリとクチから炎がボ~ン♪」
と、ギャグを披露した瞬間、口と尻からすごい勢いの炎が出た。
「うわぁ~」
「いきなり炎が出たぞ~」
「口だけじゃなく、尻からも出てるぞ~!」
「テロだぁぁぁぁ!ギャグを使ったテロだぁぁぁぁ!」
街中はパニックだ。
人を笑わせるはずのギャグが、殺戮の技と化した。
「や、やばい、本当にギャグで魔法が出るじゃないか!」
エルフが授けてくれたギャグ魔法の技、本当に出来るとは思っていなかった。
そもそも、ギャグで魔法が放てるなんて、普通は信じない。
だって、ギャグだし。
しかし、炎はすごい勢いで街を焼き尽くしている。
街は阿鼻叫喚の嵐となった。
ハラユキの頭はパニくった。
「ま、街が燃えている。バーニングだけに。なんつって」
パニくった勢いで寒いギャグを言ったら、突然吹雪が発生した。
「うわぁ!!」
「今度は冷気属性のギャグか!?」
街中のパニックは続くが、吹雪が発生したおかげで、火事はおさまった。
幸い、死者はいなかった。
ここはギルドにたくさんの冒険者も集まる街、
ヒーラーも数多くいたため、ケガ人の治療も即時対応出来た。
「何事だこれは!」
街の警官がたくさんやってきた。
「あいつです。あいつが変なギャグを使ったら、街がこの有様になりました」
即効で通報され、ハラユキは逮捕された。
ハラユキも被害者みたいなものだが。
「ちょっと署まで来てもらおうか」
ハラユキは涙ちょちょぎれながら警察署まで連行された。
「さて、何であんな事をしたか詳しく聞こうか」
「い、いや、あのその・・・」
何をどう説明すれば良いのかまったくわからない。
ただ、悪意は無かった事だけは確かだ。
しかし、悪意が無かったからといって、許してくれる状況では無かった。
長い長い事情徴収が終わり、ハラユキは牢屋の中へと入った。
「ちくしょー、あのクソエルフのせいでとんだ目にあった」
あの時助けなければと、後悔ばかりが先立つ。
牢屋に入って1週間、気がつくと、無気力になっていた。
いったい、俺はいつまでここに閉じ込められるのだろう・・・
そんな事を考えていたが、それを考える気力も無くなりそうだった。
とその時、看守の人がやってきた。
「おい、出ろハラユキ」
突然の釈放?
何がなんだか分からないが、釈放してくれるという事だろうか。
「あの、俺は無罪になったんですか?」
看守の人にたずねる。
「んなわけあるか。お前は立派な大罪人だよ」
世の中、そんなに甘いわけが無かった。
ハラユキは、ちょっと嫌な予感がした。
「も、もしかして、今から公開処刑とかになるのか?」
「・・・いいから黙って付いてこい」
今の、・・・の部分は何だよ!?
と、心の中でつっこみながら連れて行かれる。
処刑かもという恐怖に怯えながら、刑務所の奥の方にある
部屋に連れていかれる。
「所長、ハラユキを連れてまいりました」
そう言って、奥にある扉を開けた。
どうやら、署長室のようだ。
「来たか、ハラユキ君。まあ、そこに座りたまえ」
所長にそう言われ、ソファーに腰かける。
特に説教されるという様子では無いが、突然の出来事に
どのような態度でいれば良いのか分からない。
「あの、どのようなご用件でしょうか?」
恐る恐る、所長に話しかける。
その時、扉がノックされた。
「所長、入って良いか?」
女性の声が聞こえる。
ちょっと男勝りのような話し方だった。
「おお、来てくれたか、オリビア。入ってくれたまえ」
そして、一人の女性が部屋に入る。
いかにも男性読者が喜びそうな、黒髪ロングのスラっとした
絵に描いたような美女だった。
良く見ると、軽装備をしている。
女性でも身軽に動けそうなアーマーと、
腰には立派に見える剣が携えられていた。
「彼女は、バーニングタウンで唯一の女性Aランク冒険者資格保有者であり、
この街一番の剣士と言っても良い腕前の剣士だ」
「そうなんですか。で、彼女は何の関係が」
「それについて、今から説明しよう」
署長室が、ちょっと重い空気になった。
所長の顔は、実に渋かった。
なんせ、昭和の大スターみたいな顔つきだったから。
「実はハラユキ君。今この世界では、魔王が暴れているのを知っているか?」
「魔王、ですか?2年前に勇者が倒したという話を聞いた覚えがあるのですが」
「そう。表向きはな。しかし、魔王は死んではいなかった。
奴は今、世界を支配しようと暴れ始めている」
ハラユキは驚いた。
その理由は、魔族と人間はかつて、戦争状態にあったものの、
ここ10年は停戦状態にあった。
しかし、勇者が現れたのをきっかけに、再び魔王討伐が始まった。
結果、勇者が魔王を倒し、魔族を消滅させたという知らせが世界中に撒かれたのだ。
それゆえに、この状況はどういう事なのか、不思議で仕方なかった。
「ハラユキ君、君は不思議な魔法を使える技術を持っている。
それも、街を大パニックに出来るほどの魔法を」
「すみません、あれは私も不本意で放たれた魔法なんです。
とあるエルフが勝手に付与した技なんです。
ほんと、すみません」
とにかく謝って、何とか許してもらおうと必死なハラユキ。
「いや、君を責めているいるわけではない。むしろ、その力を
お借りしたいと考えているんだ」
「どういう事です?」
「率直に言おう。君には、魔王の討伐を手伝ってもらいたい。」
・・・!?
「え、そんな!?僕はただのお笑い芸人ですよ?
魔王討伐なんて無理ですよ!」
「無理を言ってすまないと思っている。ただ、これは王様の命令なんだ。
君の魔法の力を利用すれば、魔王討伐の大きな力になるだろうと。
そして、君が協力してくれるなら、今回の件は全て無罪にしても良いと、
王様から許可が出ている」
「・・・あの、もし有罪のままだったら、いつまで牢獄なんでしょうか?」
「少なくとも、あと20年はいる事になる」
魔王討伐は嫌だが、このまま牢獄で20年以上も閉じ込められるのは
絶対に嫌なので、ハラユキは条件を飲む事にした。
ハラユキが魔王を討伐するためには、まずは冒険者としての
A級ライセンスを取得しないといけない。
国が指定している特A級エリアには、そのA級ライセンスが無いと
冒険する資格を得られないからだ。
なぜなら、特定エリアはあまりにも危険な場所のため、
実力を認められた冒険者以外を侵入させるわけにはいかないからだ。
A級ライセンスを取得するには、以下の手段が必要となる。
①ギルドで冒険者登録をし、C級ライセンスを取得する。
②冒険者訓練校に通い、試験を突破してB級ライセンスを取る。
③冒険可能エリアで実績を残し、A級ライセンスを取得する。
C級ライセンスは、登録さえすれば誰でも取得可能だが、
C級ライセンスは訓練校に通う権利が与えられるだけで、
冒険する事は不可能なランク。
なので、まずはB級ライセンスを取る必要があるが、
訓練校に通ってB級ライセンスを取るのは、最短でも3年はかかる。
また、訓練校に入るには一定の試験をクリアしないといけないので、
そのための勉強および特訓には、約1年は要するという。
間に合いません。
「所長、無理です。その間に魔王に好き勝手されます」
「そう、時間は無い。だからこそ、そこにいるオリビア君に同行してもらうのだ」
「どういう事です?」
「実は、C級ライセンスが冒険に出る方法が1つだけある。
それは、A級ライセンスを持った冒険者とペアで同行する場合、
指定冒険エリアに入る事が可能となる。
もちろん、A級ライセンス取得者が同意した場合のみによるが」
オリビアという女剣士がそこにいた理由が判明した。
魔王討伐へのショートカットとして用意された人物という事だ。
とりあえず、挨拶はしておこうと思ったハラユキ。
「あの、ハラユキです。宜しくお願いいたします」
丁寧に挨拶をしたハラユキに対し、
「おい、カス芸人。本当はお前のような奴と魔王討伐なんて
死んでも嫌だが、王様の命令だから仕方が無い。
だから、絶対に足を引っ張るなよ。私を危険な目に合わせるような事をしたら、
まじで痛めつけるからな。
お前の手と足の指を1本1本、ゆっくりと切っていくからな。
あと、私を性的な目で見るなよ。そうと判断した瞬間、
お前の首が宙を舞うからな。
それと、私の言う事は絶対だ。お前に拒否権は無い。
私が飯を食えと言ったら食え。寝ろと言ったら寝ろ。
わかったな?」
丁寧に挨拶した事を後悔するほど、酷い性格をした女剣士だった。
ハラユキは、目に涙をうっすらと浮かべていた。
しかし、牢獄20年だけは本当に嫌なので、魔王討伐までの我慢と思い、
前を向いて進もうと自分に言い聞かせた。
まあ、魔王討伐という無茶ぶりも牢獄20年も、
同じぐらい過酷だけどね。
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