第1話 一流芸人を目指す者 Part2

そして当日、待望のアンポニーとのコラボイベントが始まった。

アンポニー向けの黄色い声援が飛び交う。


「さぁみんな、今日は優しくてかっこいい僕が、笑いの取れない哀れな

お笑い芸人でみんなが笑えるようにしちゃうよ!」


完全にバカにする言い方だった。

さらに、当日どころか本番直前でもネタについての話は無く、

何故か縄で亀状に縛られ、かろうじて足が動かせる状態だった。

アンポニーの「俺に合わせろ」だけの打ち合わせだった。


「では、この惨め芸人、ハラユキの面白い話をします。

実はこの男、ガチの童貞なんです」


事実だけど、ハラユキとしてはそれで笑いは取りたくない。


「しかも、この劇場の共演者女性全員に嫌われているのですが、

それにも関らず色んな女性をロックオンしています。

お客さんも気をつけてくださいね!」


ただ人を傷つけるだけの内容にもかからわず、

何故か客は大笑いして盛り上がっている。


「では、そんな悲惨な存在の彼に、私が面白くなるような

イベントを用意しました。

みんな、最後まで楽しんでいってね!」


黄色い歓声が飛び交う中、ハラユキはただ我慢しながら

アンポニーに従うような形でイベントを進める。


「さて、今ここに火の点いたタバコがあります。これを、ハラユキが

口だけで火を消します!」


アンポニーが、舌を出せと小声で指示を出す。

そして、タバコの火が点いている箇所を、ハラユキの舌に押し付ける。


「う、うがぁぁぁぁぁ!!」


ハラユキはもがき苦しむ。


「面白くねぇんだよ!!」


と言って、アンポニーはハラユキの腹部にひざ蹴りを入れる。

その痛みで、さらにもがき苦しむハラユキ。


「いいぞー」

「おもしれー」

「アンポニーかっこいい!」


ハラユキがもがき苦しんでいるだけの状況なのに、

客は何故か大笑いし、盛り上がる。


「ごめんねーみんな、コイツがカスだからいまひとつ

盛り上がらなかったねぇ。

じゃあ、別のネタをやってみるよ」


そして、アンポニーは生け花に使う剣山を地面に置いた。


「今から、ハラユキがこの剣山に背中が当たるように倒れ込み、

一切痛がらずに睡眠しまーす!」


ハラユキは恐怖で震えていた。

シャレにならない痛みが来るのは分かっている。

しかし、客はそれを待ち望んでいる。


「早くやれよー」


ブーイングが飛ぶ。

そして、ハラユキの耳元で、アンポニーが悪魔のような声で言う。


「早くやれよ、殺すぞ」


もはや気が気では無いハラユキ。

でも、やるしかない状況であった。

体はほとんど縛られているため逃げる事も出来ず、

決死の覚悟で剣山が背中に当たるように倒れ込んだ。


「が、うがぁぁぁああぁぁああああぁあぁぁぁあぁ」


恐ろしい痛みが背中に走る。

背中に生温かい液体が流れるのを感じる。

ハラユキは、あまりの痛みに気を失いそうになったその時、


「面白くねぇんだよ!!」


今度は、顔面を蹴り上げられる。

背中の痛みが強すぎるため、蹴られた痛みはほとんどないが、体は吹っ飛んだ。


「最高だよー!!」

「腹筋死んだぁwww」

「こんなに笑ったの初めてー!」

「アンポニーかっこいい!」


なぜ、こんなにもウケるのか。

なぜ、こんなにも笑えるのか。

なぜ・・・


気がつくと、ハラユキは気を失っていた。


目が覚めると、ハラユキは楽屋の固いイスの上で横になっていた。

そして、目の前には座長がいた。


「ハラユキ、お前は今日でクビだ」


突然、解雇を言い渡される。


「お前さぁ、あんなに人を笑わせて幸せにしたいとか言ってたクセによ、

アンポニーが出た方が笑い取れたじゃねえか。

これじゃ、お前を置いておく意味無いだろ」


ハラユキは、放心状態となった。

気絶するほど痛い思いをさせられたのに、この仕打ち。

いったい、何のために今まで頑張ってきたのか・・・


「とりあえず、荷物まとめてとっとと出ていけ。

使えねえ奴は、この劇場に必要ねえから」


もはや、何もかもが嫌になったハラユキ。

荷物をまとめ、劇場を出ようとした。

すると、出口にアンポニーと他女優、踊り子達がいた。


「お前さぁ、俺があれだけ力貸してやったのに、何このザマ?

テメーは人前に出る資格無ぇんだよ」


なぜ文句を言われているのかわからないが、

アンポニーと女たちは、全員でこちらを睨み付ける。


「自分一人じゃ笑い一つも取れないような奴は、

この劇場に立つ資格は無いんだよ。

いや、この華やかな街に住む資格すら無いんだよ」


女たちからも文句が飛び交い、心をひたすらえぐってくる。


「まさか、この街におめおめと住む気じゃないだろうな?

お前みたいな劇場の恥さらしと、同じ空気吸いたくないんだよ。

てか、お前と舞台で共演した事が、拭う事の出来ない汚点となっちまったよ」


なぜ、ここまで言われるのか分からない。

理不尽すぎる・・・


「ハラユキ、分かってるよな?」


全員で、ハラユキを睨みつける。

この街を出て行けという圧をかけてくる。


「わ、わかったよ。この街を出ていくよ」

「うわっ、相変わらずキモい声だな。耳が腐りそうだぜ」

「・・・」


その日の夕方、ハラユキは住んでいたボロアパートを引き払い、

ダイヤモンドタウンを後にした。

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