そこに未来は無くても

パタパタ

幼馴染のような甥と叔母

 僕と彼女は仲の良い幼馴染のような関係性だった。

 成長するにつれて次第に見え隠れした2人の感情は、いつしか固く結ばれていたことに気付いてしまった。


 その関係が本当にただの幼馴染なら良かった。

 僕と彼女は血のつながった甥と叔母だったから。


 こたつの中で隠れて手を撫でたり撫でられたり、そっと手を繋いだり。

 幼い頃から一緒で血の繋がりさえなければ。


 恋をして触れたいけれど触れてはいけない関係。

 それでも感情は止まることを知らない。


 触れながら、触りながら、キスや粘膜は接触しない。

 切ない恋模様。


「やっぱり若さゆえの肉欲なんじゃない?」

 冗談めかして笑いながら若き叔母はそう言うが、それを冗談では返せないのが僕という存在だ。

 そんな僕の頬に触れながら、困った子を見るような目で叔母である彼女は苦笑いを浮かべる。

「冗談。わかってるよね?」

 僕らはそれ以上に触れ合ってしまえば、行き着くところまで行き着いてしまうだろうと。


「ほどほどで……我慢できない?」

 上目遣いでそう問う彼女はわかっててそれを言ってしまうのだ。

 口実はなんでも良いのだ。

 スイッチさえ押してしまえば、僕らは容赦なく絡み合えるのだから。


 血のつながりさえなければ……。

 何度そう思うことになっただろう。


 血のつながりがあっても良い。

 何度そう思ったことだろう。


 スイッチを押すことは勇気ではない。

 僕らの人生は始まりから終わっていた。

 少なくとも僕はそう思う。


「……あ〜あ〜、これで私も生涯経験なしかぁ〜」

「……僕も、だよ」

 彼女は微笑を浮かべる。


 言葉だけで絡み合う。

 叔母と甥の関係。


 ただ一歩踏み込めば、僕らはどこまでも幸せを感じるだろう。

 その一歩だけは……どうしても踏み込むことはできなくても。


 だけど結局。

 僕と彼女は行き着くところまでいってしまった。






















 2人で別々に家を出て、親には言わずに一緒に暮らし始めた。

 溺れるどころではない。


 魂の底まで交ざりあった。

 そうして、子供ができた。


 彼女が母として、そして生まれた子を僕の養子とすることで家族になろうとした。

 その過程で色々調べているときに戸籍を見て、2人で脱力した。

「ねえ……、私のところに養子と書いてる」

「……だね。僕らの間に血のつながりはないね」


 ははは、と2人で乾いた笑いしかでなかった。

 でもしばらくしたら、おかしくなって2人で腹を抱えて笑って。

 甥と叔母から夫婦へと変わった。

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