第4話「手紙」ー1

DEAR 千春


 「お元気ですか?」というのも変かしらね? だって、私は、今から人生の終止符を打とうとしているのだもの。千春が今、この手紙を読んでるということは、私は無事、旅立つことに成功したということになるんだよね? “死者からの手紙”?  気味が悪いって思われているかな? でも、これが最期の手紙だから、私、悔いのないように本当のことを書くね。覚悟してね。


 私ね、千春が雅也さんと結婚する前、彼と付き合っていたの。彼は、私が勤めていた病院の得意先の医療機器メーカーの営業マンだったの。大学卒業後は千春と会う機会がなかったから話してなかったけど、私が新卒で入社した会社はかなりのブラック企業だったから転職したのよ。私、転職先の病院で経理部に配属されたんだけど、上司のパワハラが酷くて、深刻に悩んでたんだ。雅也さんは、そんな私の悩みを親身になって聞いてくれて、私は彼にだんだん惹かれていって、湧き上がる気持ちを抑えることができずに告白したの。そうしたら、彼も私のことが好きだって言ってくれて付き合うことになったんだ。すごく幸せで、幸せ過ぎて、彼のことが好きで、好き過ぎて、「この人と一生一緒に居られるのなら、世界中の全ての人を敵にまわしてもいい」って、思った。


 彼と付き合い始めて半年くらい経った頃、突然別れようって言われたの。理由は、「好きな人ができた。彼女と結婚するから」だって。私、目の前が真っ暗になって、もう、死んじゃおうって思ったの。だって、彼は私の世界の全てだったんだから。彼が居なくなったら、私、生きる意味が無いじゃない?  でもね、どうせ死ぬのなら、相手の女を見てからにしようって思ったの。単なる好奇心ね。だって、彼がどんないい女選んだのか見てやりたいじゃない?  程なくして、あなたから結婚式の招待状が届いたの……その時の私の気持ち、言わなくても解るよね? なんで、よりによってアンタなの? 他の誰かだったら諦めがついたかもしれないのに……なんで、アンタなのよ?  本当はね、結婚式には行かないつもりでいたの。幸せそうなあなたたちの姿を見たら、私、気が狂ってしまうかもしれないって思ったから。それで、式をぶち壊すのも有りかな? とも思ったんだけどね。ここは笑うところだよ?


 結婚式に参加した本当の理由はね……会いたかったんだ。どんな形でもいい……雅也さんに会いたかった、会いたかったんだよ。結婚式の日、私ずっと、あの人を見てた。涙が止まらなくなって困ったんだけど、大学の友達は、私が嬉し泣きしてるんだと勘違いしてくれたみたいね。沙夜さよのこと覚えてる? 同じゼミだった子。あの子なんてさ、「千春と夏月は仲良かったもんね」なんて言って貰い泣きしてたよ。ここまできたら喜劇だよね。

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