第2話
エレベーターに乗り1階まで降りていく。
「春斗くんはこのマンションに住んでるの?」
(急な名前呼び───)
春斗も男なので美人から名前呼びをされると少し照れくさいと感じてしまう。
「はい、そうですね。今は祖父母からの仕送りで生活してます。でもやっぱり僕を一人にさせるのは心配みたいでもしかしたら祖父母の家に引っ越す事になるかもしれないんです」
春斗は沈んだ顔をする。
「もしかして離れるのが辛い?」
「そうですね。多分離れた方が引きづらなくて良いんだと思います。でも怖いんです、家族を忘れてしまうんじゃないかって……………。家には思い出がたくさんあるのでそれを失いたくないんです」
春斗は俯き長くなった前髪で顔を覆い隠した。
「そっか…………。でも忘れるなんて無いんじゃないかな」
「どうしてですか?」
「だって春斗くん、まだ苦しいんでしょ?それだけ家族が好きならどこに行っても忘れないよ」
「そう言うものですかね…………」
「そう言うもんだよ」
夜の道を二人揃って歩く。さっきまで死のうとしていたとは思えないほどに軽い足取りで店を探していた。
「山城さん…………」
「…………ごめん、名前呼びしてくれないかな?」
琴音が苦しそうな顔をする。
(どうしたんだろ…………)
春斗は疑問に思ったが今聞くのは何だか良くない気がし、やめておいた。
「じゃあ琴音さん、何食べるんですか?」
「牛丼!」
「そんなガッツリ…………。ほんとに死ぬつもりだったんですか?」
そう言って怪訝そうな顔を向ける春斗。
「死ぬつもりだったからだよ。いつ最後の晩餐になるか分からないからね。そう思うとガッツリ食べたいなって」
(意外とポジティブなのかこの人…………)
数分歩き牛丼のチェーン店に入る。
「二名です」
そう琴音が言うと定員に席を案内され椅子に座る。
「春斗くんは何食べたい?」
「僕ですか?」
(あんまり食欲無いんだけどなぁ……)
春斗がそう思っていると琴音がこんな事を言った。
「だめだよ、高校生はいっぱい食べないと!」
(えっ、心を読まれた?)
「…………じゃあ、牛丼の並で」
「大盛り?」とニヤつく琴音。
「並です」と睨みつける春斗。
「ごめんごめん、並ね」
「じゃあ私は大盛りにしよっかなぁ」
そうな食えるの!と春斗は鼻で笑った。
「ちょっと何で笑うの?」
琴音は頬膨らませ嘘っぽく怒る。
「いや、大盛りって意外と食いしん坊なんですね」
「───っ!?だってお腹空いてるんだもん…………」
頬赤らめ恥ずかしがる琴音。
そうして牛丼を注文し少し待っていると店員が運んできた。
「あの琴音さん、今更ですけど牛丼ありがとうございます」
奢りだということを思い出し春斗は頭を下げた。
「良いよ、私が一人になりたくなかっただけだから」
「じゃあいただきます」
琴音は牛丼にがっつき始める。
「美味しぃ〜」と幸せそうな顔をする琴音。
(こんな顔できる人が自殺って…………)
春斗は世の中の厳しさを知ったような感覚になっていた。
春斗は牛丼を一口食べる。
「うまっ…………」
春斗がそんな事を言っている間にも琴音はガツガツ、と牛丼を食べており、もう半分ほど減ろうとしていた。
「ばるとくん……まばそんばげしがばべてばいの?」
口いっぱいに牛丼を含んだ状態で話すので何を言っているのか全く分からない。
「ははっ、なんて言ったんですか?」
春斗は思わず笑ってしまった。数ヶ月ぶりの笑いはものすごく呆気ない。
口いっぱいの牛丼を飲み込み「まだそんだけしか食べてないの?」と言う琴音。
「琴音さんが早いだけですよ」
そんな会話をし数分お互い牛丼を平らげた。
「久しぶりにちゃんと食べました」
「お腹いっぱい?」
「はい、はち切れそうです」
しばらくちゃんとした食事をしていなかった春斗は胃が萎縮しており、すぐに膨れてしまった。
「ふふっ、少食すぎない?」
そう言う琴音は大盛りを食べてもケロッとしており、春斗は何だか恥ずかしくなっていた。
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