死にたい僕と本当は生きたい彼女はお隣さんだった
シュミ
第1話
マンションの階段を一段ずつ登っていく男、
寝不足からかおぼつかない足取りでフラフラと体を揺らしながらも着実に階段を上がっていた。
屋上の扉を開け外へと出る。
(誰かいる…………?)
そこには春斗以外にもう一人女性がいた。
靴を脱ぎ柵に手をかける女性。
「…………あの、もしかして自殺ですか?」
春斗は思わずその女性に声をかける。
すると女性はゆっくりと春斗の方に振り向く。
茶色の髪が背中の中ほどまであり、その髪は手入れをしていないのかボサボサで大きな瞳の下には真っ黒なクマが出来き、やつれている。
(美人なのにもったいないな)
やつれていても顔が整っているのは一目見ただけでもわかる、それほどまでに美人なのだ。
「はい、そうです…………」
「奇遇ですね。僕もです」
お互い今日で終わらせるつもりだからか何か吹っ切れ『どうして死にたいんですか?』という無神経な質問が被ってしまっていた。
「あっ、被っちゃいましたね…………」
「ですね…………」
そう言う二人の表情は固まっており、口角一つ上がっていなかった。
しばらくの沈黙の後女性が口を開く。
「…………私、ほんとは生きたいんですけどね。でも職場に行くのが苦痛でそのせいで休日も何もやる気が起きなくて、何のために生きてるんだろ、って思ってたらいつの間にかここにいたんです」
仕事終わりでここに来たのかスーツ姿だった。
「そうなんですね」
「あなたはどうしてですか?」
「…………僕は交通事故で家族全員死んでしまって、その時家にいた僕は巻き込まれませんでした。でも家にいるはずだった家族がい無いってのが辛くて、みんなと同じ場所に行きたいと思ったんです」
「そうなんですか……………」
またしても沈黙が二人を包む。お互いが柵に手をかけ冬の冷たい風に身を委ねる。
「最近ますます寒くなってきましたね」
「そうですね」
「これからどうします?先にいきますか?」
聞いたこともない質問をする女性。
「いえ、先にいって良いですよ、僕いったん戻るので」
そう言い春斗は屋上のドアへと向かう。
「待って───」
弱々しい力で春斗の腕を掴む女性。
「どうしましたか?」
「なんて言うか………その…………興が醒めたみたいな?」
「死ぬの辞めるってことですか?」
「まぁ、そういう事ですね」
先にいきますか?そう言いながらも女性は死ぬ気なんてものは失せていた。
春斗は少し悩んだ顔をした後はぁー、とため息をつき口を開いた。
「…………じゃあ僕も今日はやめときます」
「どうしてですか?」
「人に迷惑かけるのは嫌なので…………」
「別に私の事なんて考えなくても良いんですよ」
「でも人に死ぬとこ見せるのは気が引けるので、やめときます」
「そうですか。なんかすみません……………」
女性は深々と頭を下げた。
「いえ、こんな自分が言うのもあれですけど死にたくないなら死なない方がいいと思いますよ」
「ふふっ、それあなたが言うんですね」
「あの名前なんて言うんですか?」
「茅野 春斗です。あなたは?」
「
「山城…………?」
「茅野…………?」
「もしかして、お隣に住んでますか?」
「もしかして、お隣に住んでますか?」
またしても質問が被る。苗字を聞いてやっとお隣とわかるほどに二人は周りが見えていなかったのだ。
琴音は鼻でフフっと笑い口を開く。
「何だかおかしいですね、死にに来たはずなのに」
「間違いないです」
すると琴音は春斗をまじまじと見始める。
「それにしても体細いですね」
春斗の体は身がほとんど無く痩せ細っていた。
「ご飯食べてないんですか?」
「あんまり食べてないですかね。食べてもずっとカップ麺でしたし」
「茅野くんって何歳?」
「17歳です」
「───えっ!?高校生だったの!大学生くらいだと思った」
琴音はこの時一番大きな声を出していた。いつの間にか敬語は抜けタメ口になっている。
春斗は175cmと身長だけは高く、大学生に見えてもおかしくは無いのだ。それに寝不足とストレスが重なり、顔がやつれているのも相まってそう見えたのだろう。
「そんなに老けて見えますか?」
「ごめんね、凄いやつれてるから」
「それ、あなたもですよ」
「ちょっと、女の人にそんなこと言っちゃいけないよ!」
そう言って頬膨らませる琴音。
(理不尽……)
「こう見えても私、新卒の社会人なんだから」
「やっぱりそうは見えないですね。もうちょっと体に気使った方がいいのでは?」
「うるさいよ、茅野くんも言えたことじゃないでしょ」
ギロリ、と睨みを効かせ春斗を見つめる
「す、すみません…………」
「まぁ良いんだけどね」
「茅野くんお腹空いてる?」
「急にどうしたんですか?」
「私まだ夕飯食べてないんだ。奢ってあげるから付いてきてよ」
「良いですけど…………」
すると琴音は春斗の手を引く。
「───ちょ、ちょっと待ってください!」
春斗は琴音に引きずられるようにして屋上から出た。
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