第205話 いざアーラ王国へ


 リリーナと話し合いをしてから、三日が経った。

 その間にできる限りの情報を得て、彼女と決めたことが一つ。

 それは女王を敵に回さないことだ。

 他国のエルフを攫っている首謀者は、他の者も存在するかもしれないが、今のところはシュバーデンだけである。

 そのシュバーデンを咎められさえすれば、今回の任務は完了という話だ。


 国とやり合うのは無謀だし、全エルフを救えるとは思っていない。申し訳ないが、そこはリリーナたちが根気強く交渉していけるのを願うしかない。


 そうして今日、アーラ王国へ出立する日が来た。

 俺は拠点の前でリリーナが用意してくれた馬車へと乗る。


 「じゃあ、行ってくるよ」

 「えぇ、気を付けてね。レティナも」

 「うん!」


 今回の旅は俺とレティナの二人だけ。

 御者もおらず、交代交代で走らせていく予定である。


 「レティナちゃん、無理しないでね……?」

 「分かってるよ、安心して。レンくんが居るんだから」

 「うん……」


 ルナは少し不安そうな顔で頷く。

 レティナの魔力は未だに戻ってはいない。

 今から赴く場所はあまり情報が出回っていない閉鎖的な国で、何が起きるか分からない危険な地だ。

 なので、正直万全ではないレティナを連れて行くことには少し不安がある。

 カルロスやマリー、それにミリカだって依頼で忙しそうだし、ルナやゼオはもってのほかだ。

 だから、最初は俺一人で行こうと思っていた。

 だが、レティナは俺一人でアーラ王国へ行くのなら、自分もついていくと聞く耳を持たなかった。


 不安だったのだろう。

 みんなが居らず、俺一人という状況が。


 「レオン、まぁやらかしても大丈夫だ。ここから出る準備しとくからよ」

 「……」

 「ははっ。冗談だっつーの。そんな渋い顔すんなって」

 「レオンさん……よろしくお願いします」


 うんうん、ゼオはカルロスと違って本当にできた子だなぁ。


 「ごしゅじん、これ」

 「ん? これって……」


 青い液体が入った小瓶をミリカが手渡してくれる。


 「惚れ薬。役に立つ」

 「う、う、うん。じゃあ、一応……」


 マリン王国で俺に呑ませたこれをまだ持っていたのか。

 役に立つって、一体どういう状況でなら役に立つんだろう……面倒事になりそうな気しかしないが。


 道の途中で捨てようかと迷ったが、せっかく俺の身を案じて……いや、本当に案じてくれているのか分からないが、厚意は厚意なので、素直に魔法鞄マジックポーチの中に収納する。


 「よしっ、じゃあ、行こうか。レティナ」

 「うん。みんな行ってきます」


 「行ってらっしゃい」 とみんなが手を振ったのを見てから、レティナは馬車を走らせた。

 いつも乗っている馬よりも段違いで速いこの馬は、ローゼベルクという馬らしく、とても希少でとても価値が高いらしい。

 リリーナから貸してもらったのだが、この馬ならマリン王国へ行くにも十五日で着けるとか。

 アーラ王国なら一週間と少しだろう。


 「レティナ、辛くなったら変わるから」

 「うん、その時は言うね」


 客車の中のカーテンを開け、レティナの横顔を見る。にこにこと幸せそうな表情を見ると、思わずこちらも頬が緩んでしまう。


 二人っきりで旅をするのなんて初めてだ。

 楽しい思い出を作るためにではないが、一緒に居られることがとても嬉しい。

 まだ旅立って間もないが、レティナに付いてきてもらってよかったなと実感する。


 あっちに着いても俺が守ればいいだけだ。

 大丈夫、大丈夫。


 そう自分に言い聞かせながら、俺はレティナと一緒に穏やかな時間を過ごすのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る