第204話 新情報


 「エルフの件で女王に謁見する予定だったのだが……直前になって断られたのだ」

 「なるほど……」

 「はぁ……あの女王が即位してから、他国と一度も議論の場を設けなくなったと聞いていたが……まさかこんな扱いを受けるとはな」


 リリーナは額に手を添えて、肩を落とす。

 長い時間を掛けて出向いたにも関わらず、何も成果を得られないなんてこうなるのも仕方がないだろう。


 それにしても、謁見する予定だったと言うなら、相手側も了承を受けたはずだ。

 なのにも拘らず、直前になって断るなんてわざとやってるとしか思えない。

 ……本当に舐めてるな。


 女王に会ったことはないが、話を聞いている限り、碌な感性を持っていないのだと分かる。


 「……それでリリーナはこれからどうするつもりなの?」

 「ううむ。女王に会えるまで何度も足を運び続けるしかない」

 「何度もか……ちなみに強硬手段は取れないの?」

 「強硬手段とは?」

 「その女王を引っ張り出させる為に武力行使するとか」

 「……私としてはそうしたいが、陛下がそれを許さないだろう。数百年前に結んだ平和協定というのを知っているか?」

 「もちろん知ってるけど……」


 平和協定というのは簡単に言えば、武力を用いた国への進行をしないといった和約である。

 領土を広げる為に甚大な犠牲者を生んでいたのを、見て見ぬ振りができなかったのだろう。

 真龍もその協定に介入したらしい。

 武力ではなく議論で解決すること。

 ただその議論も拒んでいるのならば、平和協定の根本がもはや崩れている。


 多くの犠牲者を出すのは俺も反対だ。

 ただ議論の場を設ける為に、アーラ王国へ進行するのはありだと思うのだが……


 「この問題に対して、兵を出すというのは規模が大きすぎるんだろうな。エルフを攫っていると言っても、国からすればたかがその程度と考えているのだろう」

 「はぁ……」


 マスターが 「時間が掛かりそうだぞ」 と言っていた理由をやっと理解した。

 これがエルフじゃなくても、きっと国は同じ対応をしているのだろう。

 今ある平和が脅かされるような真似は取らず、女王の気が変わるまでリリーナの言ったとおりに、根気強くアーラ王国に足を運び続ける。

 この問題が解決するのは、はたしていつ頃になるのか。


 ……俺が行くしかないか。


 「申し訳ないんだけど、俺今日でリリーナの専属冒険者を止めるよ」

 「えっ……?」


 突然の言葉に、リリーナは唖然としている。


 「だから、国王や貴族に伝えてほしいんだ。もう俺は君と全く関係のない者だって」

 「ちょ、ちょっと待て! どうしてそんな話になった!?」

 「迷惑を掛けるかもしれないからさ」

 「迷惑って……まさかレオン、君がこの問題を解決するつもりなのか?」

 「そのまさかだよ。黙って待つほど、俺は悠長じゃないからね」

 「だ、だが……」


 あまり嬉しくなさそうな反応をするリリーナ。

 おそらくリリーナもマスターと同じことを思っているのかもしれない。

 たかが冒険者である俺が首を突っ込むことで、国から追われる身になってしまう可能性があると。


 だが……


 「俺思ったんだけどさ、あの国は力と金の国なんでしょ? なら、エルフを救う手段も力を使えば何も言ってこないんじゃないかな」

 「確かに理にかなっていはいるが、あの女王だぞ? 理屈や道理は通じないと思うが」

 「まぁ、そうなった時はその時考えるよ。それにできるだけ身分は隠して行動するつもりだしね」


 色々な感情が葛藤しているのか、リリーナは複雑そうな表情をしている。


 俺のことを心配してくれるのは嬉しいけど、すぐに解決できる策はこれしかないんだよな……


 「リリーナ。予めマスターや俺の仲間に色々と情報を貰ってたんだけど、改めてすり合わせをしたい。だめかな……?」

 「……うむ、分かった」


 渋々ながらに頷いたリリーナと俺は、それから数時間以上に亘り、アーラ王国の内情について話し合った。

 そこで新たに知り得た情報はいくつかある。


 一つは冒険者ギルドではない裏ギルドの存在だ。

 その裏ギルドというのは表沙汰にできない依頼、主に暗殺や護衛などを承っているらしい。

 何より厄介だと感じたのは、貴族とその裏ギルドが繋がっているということ。

 俺が狙っているシュバーデンは、並みの貴族ではない。

 裏ギルド内では何やら力を示す序列というものが存在するそうで、おそらくその序列の上位陣がシュバーデンの護衛に付いている、とリリーナは推測していた。

 ちなみに今のところエルフを攫っている首謀者は、シュバーデンだけのようでそこは少し安心している。


 次にアーラ王国の内政についてだ。

 女王の独裁と耳にしていたが、詳しい内容を聞いてみると、レブナルド家、ルガヴィフ家、グロドルー家の三家で今も地域ごとに統治しているそうだ。

 女王が住んでいる王都も同じで、三つの区域に分けられているらしい。

 居住している区域では人権があるが、別の区域だとそれもなくなってしまう。

 故に、一般市民はまるで籠に入れられた囲いの中で暮らしているのだとか。

 多くの市民が暮らしている中で、どうやってそれを見分けるのか些か疑問だが、見つかった時のリスクを考えれば簡単に別の区域に踏む入れられないだろう。


 ここまでは比較的に何も驚きはせず、聞いていられた。

 だが、一つだけ耳を疑う事があった。


 「アーラ王国に変な目があったよね? あれのこと教えてくれない?」

 「……? 変な目?」

 「う、うん。監視されているような目があるんだよね?」

 「??? そんなもの無かったが」

 「えっ……?」


 リリーナが行った日にはたまたま無かったのだろうか?


 そう考えたが、それにしても不思議でしかない。

 何故なら、リリーナ以外にもこの情報は出回っていないからだ。

 カルロスが何かと見間違えたということも考えづらい。

 じゃあ、一体カルロスが見た変な目って……?














 「ありがとう、リリーナ。もう陽が落ちそうだから、帰るよ。あっ、それと専属護衛の件ーー「それなんだが、やはりこのままではだめだろうか?」

 「えっ?」

 「レオンが動いてくれるのに、私だけ保身に走るなど、プロバンス家の名を汚すと同義だ。それに私の情報網はとても広い。少しでも君の力になれると思う。だから、頼む」


 リリーナの表情はとても真剣だ。

 俺が少しでも判断を誤れば、この人に迷惑が掛かるかもしれない。

 だが、そんなリスクを承知でここまで言ってくれているのだ。その気持ちを無下にすることはできないと思った。


 「……分かった。ありがとう」

 「礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう、レオン。また何か決まったら伝魔鳩アラートで教えてくれ」

 「うん、じゃあまたね」

 「あぁ」


 満足げな表情をするリリーナと別れる。

 いつ頃この地を出立するかは決めていないが、できるだけ早めに動こう。

 ルナとゼオの為にも、今も辛い思いをしているエルフの為にも。

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